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その探偵、問題児につき  作者: 白沼 雄作
第一章 狂気があたりまえの世界
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第五話 幼き復讐 その3



「侵入者だ! 排除しろ!」

 シトリン劇場内――

 武装した男達は、一人の少年に悪戦苦闘していた。

 その少年の名はシグマ。コードネーム<ガーネット>。人呼んで『冷酷紳士』

 その呼び名の通り、シグマは次々と男達を無駄な動き一つなく、確実に殺している。

 男達は、ホール内を駆け巡るシグマに対し、短機関銃で対抗していた。だが、シグマの俊敏な動きに、誰一人弾を命中させる者はいなかった。男達が無駄撃ちばかりしている内に、シグマは一人、また一人とマグナムで男の頭を撃ち抜いていく。

(外で先輩達が待っている。急がなければ・・・・・・!)

 シグマは動き回りながら、空になった銃の弾倉を捨て、弾の入った弾倉を取り出して銃に差し込んだ。


 リボルバーは基本、振出式で弾倉を横に出し、薬を捨て新たな弾薬を詰め直すのが主流である。しかし、シグマ特製のマグナムは、時間短縮のためカードリッチ式のように、弾薬ごと入れ替えられるように改造したのだ。

 また、こうした訳には他にもある――


「撃ち続けろ!」

 男達は休むことなくシグマに銃口を向け、発砲し続ける。

 シグマも同様、休むことなく走り回り、マグナムをステージにいる男達に向けて3発放った。


 男三人が撃ち抜かれる――マグナム弾であればの話であるが。


「ぐぁあ!!」

 シグマの放った弾丸は、男に着弾すると同時に爆発したのだ。近くにいた者も巻き込まれ、三人に撃ったところが八人と、被害が拡大した。

 爆発の威力は手榴弾とほぼ互角のため、吹き飛んだ八人全員が絶命した。


 ――このように、弾倉ごと変えることで特性の異なる弾も撃てるようになるのだ。

 今回使用した弾も、特製のグレネード弾である。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 シグマはホール内の敵が殲滅したのを確認した後、弾倉を通常弾のものと入れ替える。

 シグマは駆け足でステージに上がり、舞台裏を通ってスタッフ用の通路に足を運ぶ。

「来たぞ!」

 そこに待ち伏せていた男達が、シグマに向けて一斉に機関銃を撃ち始める。シグマは素早く左右に避けつつ前進しながら、マグナムで男達を仕留める。全弾六発で、男六人全員の頭を打ち抜いた。

「・・・・・・・・・・・・!?」

 シグマはあることに気づき、足を止めた。左頬にかすり傷ができており、血が流れていた。つい先程の乱射でかすめてしまったのだろう。

(昔から、その『感覚』がわからないな・・・・・・・・・・・・)

 シグマは弾倉を入れ変え、先を急いだ。



   ※



「おっし、これで完了だな」

 シトリン劇場から遠くにある建物の屋上。

 ラムダは何かの準備を終えていた。

「まあ『こいつ』はあくまで虐殺用だし、あいつら二人なら問題なく片付けてくるだろうから、オレの出番はないかなー」

 ラムダは両手を頭の後ろで組みながら、独り言を呟いた。

「んぅ・・・・・・・・・・・・あれ・・・・・・・・・・・・?」

 近くで、寝ぼけた女性の声が聞こえてきた。

「あっ、すっかり忘れてた」

 気を失っていた尚紀が目を覚まし、体を起こしていた。

「シグマと・・・・・・カイは・・・・・・・・・・・・?」

 尚紀は寝ぼけており、本名で安否を尋ねてきた。

 ラムダは二人きりのため、それに関しては許容しつつも、辺りに敵がいないか確認してから答える。

「あの二人なら敵地に乗り込んだぞ。オレはお前の見張りでここに残っているが――」

「えっ!?」

 ラムダの話しに、尚紀は目が冴える

「あー、心配すんな。二人が死ぬようなヘマする訳ねえから。少なくとも<ガーネット>はオレらと違って殺し屋だから――」

 ラムダは、尚紀にあーこれ文句を言われる前に心遣いを入れたが、尚紀の行動に目を疑った。


 尚紀が、屋上から飛び降りた。


「なに考えてんだあの馬鹿!!」

 ラムダは急いで尚紀が落ちた場所を覗き込むと、再び目を疑う。

 尚紀は落下の衝撃をものともせず、猛ダッシュで劇場に駆け走る。

「・・・・・・・・・・・・」

 それを見てラムダは確信する。


(シグマよ、疑ってすまん。お前は真っ当な人間だ・・・・・・うん)



   ※



 劇場内――

 シグマはエルフを見つけるべく場内の至る所を駆けていた。

(この道の、真っ正面にある扉。あそこが怪しい)

 シグマは速度を上げ、廊下を走り抜けようとするが――

「ここを通すな!!」

 シグマが目指していた扉の近くから湧いて出てきた、四人の男がライオットシールドを構え、こちらに向かって走り始めた。

 念のため、シグマはマグナムでシールドを撃つが、貫通することなく弾かれた。それを合図のように、男四人の後ろに隠れていた男八人が顔を出し、シールド越しに機関銃を連射する。

 シグマは勢いよく床を蹴り、体を宙に浮かせると、一瞬にしてシグマ十二人が同時に男達の顔面に蹴りを入れた。無論、シグマが増えたのではなく、ただの残像である。

 顔面を砕かれた男達は、ゆっくりと倒れ、床に血だまりを作った。

 シグマは床に着地すると、ふらつき倒れそうになる。彼は再び頭の傷を思い出した。

(――大丈夫だ。まだ行ける・・・・・・!)

 シグマは警戒しながら、扉の前まで歩く。周囲に敵がいないことを確認し、扉を蹴り飛ばして中に入った。


「思ったより、遅かったではないか」


 案の定――部屋にはエルフと、組織に捕らわれていたエルバの姿があった。エルフはシグマに拳銃を向けている。エルバは未だに拘束されたままである。

(エルバの拘束は演技ではなかったのか?)

「なぜ俺達をはめたのかは大体把握している。だが、俺に復讐してもアルムスター財閥に何の利益も――」

 ない――と言い切る前に、エルフは引き金を引き、弾丸を放つ。不意打ちで読めなかったものの、シグマは体を横に逸らし回避した。

「お主のせいで・・・・・・・・・・・・!」

 エルフの右腕が怒りに震える。エルフはそれを抑えるように右足で床を強く踏み、叫ぶ。



「お主のせいで! お父様もお母様も! 死んだのじゃ!!」



「!?」

 シグマは思いもよらぬ言葉に驚き、口にする言葉がなかった。

(そんな、アルムスター財閥は完全に滅んだということなのか!?)

「知っておろうが、お主が依頼を終え護衛を去った後、アルムスター家の財政力はどん底に落ちたのじゃ! 護衛を用いて悪徳組織を壊滅させ、世間で光を浴びたがる偽善財閥という噂が流れ、周りの信頼を一気に・・・・・・全て失ったのじゃ! これにより財閥は崩壊。その後も避難が殺到。それに耐えきれなくなった我の両親は、自害したのじゃ!!」

 エルフは涙を流しながら叫んだ。その勢いに任せてもう一度引き金を引いた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 シグマは無言で先程と同じようにかわした。

「だから我は、<ガーネット>を殺す! 死んでもじゃ! あえて言うぞ・・・・・・ここ、シトリン劇場は五分で爆破する!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「逃げてもいいんじゃぞ? 我の家系は既に信頼を失っているが・・・・・・エルバは違う。カーネリアン財閥の一人娘じゃ」

「カーネリアン財閥・・・・・・!?」

「我らと同格の財閥――今では全ての頂点に立っているとも言われておる。もし、エルバが死んだら、お主らはどうなってしまうのだろうな?」

 エルフは薄気味笑いを浮かべる。さっきまでの涙が乾き、堕ちるところまで、堕ちてしまっている。

「友を捨ててまで、俺に復讐したいのか?」

「左様。お主が潔く死んでくれるのなら、エルバも犠牲になることはないぞ」

「・・・・・・覚悟があるんだな?」

 シグマはマグナムの弾倉を入れ替えた後、エルフに銃口を向け引き金に指をかける。

「我に銃口を向けるか・・・・・・それが普通じゃな。我を殺すことが、お主にとっての最善じゃからな」

 エルフも、いつでも撃てるよう、右手に集中をかける。


 この状況、誰がどう考えてもシグマに賭け金の全てを投資するであろう。


 シグマはブランクがあれど、裏社会に名を轟かせた伝説の殺し屋。

 一方のエルフは幼く、真の殺し合いを知らない少女。

 エルフが先手を撃っても、難なくかわされ反撃に撃たれ死ぬであろう。

 シグマの隙を伺い、睨み合いが生じても、短くとも長かろうとも、エルフの方が先に集中を切らすであろう。一瞬の気の緩みを突いてシグマは確実にエルフを撃ち抜き、殺すだろう。

 仮に同時に引き金を引けたとしても、シグマは頭を撃たれても動じない程、痛みの耐性を持っている。一撃では死ぬことはない。しかし、エルフはかすり傷でも痛いと感じる程か弱い体。その上、シグマの放つ弾丸は44マグナム弾。成人男性の頭すら吹き飛ばす威力の銃に、耐えられるはずがない。


 このように、エルフが勝つ術はない。

 それは彼女自身がよくわかっていた。だから、エルフは道連れを選んだ。

 エルフの体には爆弾が埋め込まれており、心臓の働きが止まると同時に爆発が起きるよう仕組まれている。

 つまり、エルフを殺せばエルバごと道連れにされてしまう。


 だが、そんなことが読めない程、シグマの腕は錆びていない。

 シグマが入れ替えた弾倉――あの中は全て、睡眠ガス弾となっている。

 体に着弾すると同時に、催眠ガスをまき散らす仕組みとなっている。しかし、相手は幼い少女。着弾の衝撃だけでも体に穴が空き、絶命してしまう恐れもある。そのため、撃つときはエルフの足下を狙うように準備している。



 やはり、シグマに勝つ術はなかった。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 互いに睨み合い、緊張が走る。

 シグマが揺さぶりをかけようと右足を前に出した瞬間――




「やめてください!!!」




 少女の叫びに、シグマとエルフは銃口を向け合ったまま、声がした方を向く。

 今まで恐怖で黙り込んでいたエルバが、体を震わせ、涙を目に浮かべながら訴える。

「エルフは両親を失って行き場を失っているだけです! あなたに復讐を誓うことで、自分の生きる糧としてしまっているだけなんです! 本当は――」

「本当に、そう思っているのか?」

「え・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

 しかし、シグマは彼女の話を最後まで聞かずに、反論する。

「エルフに行き場がない? 目の前に大切な親友がいるのにか?」

「っ!?」

「もう察しただろ? エルフは復讐のためなら何でもする。自分の命を捨ててでも、親友を犠牲にしてでも。それが、両親のためになる――と思ってるからな」

「そんなことっ!」

 エルバは真偽を確かめようとエルフの顔を見る。

 しかし、エルフは顔を背けた。

 現実は非情である。

「そんな・・・・・・なんで・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」

 エルバは下を向き、大粒の雫を流す。


「だが、まだ救い出すことはできる」


「!?」

 エルバに希望の言葉を投げたのはシグマ――ではなかった。

 後から追いかけてきた、カイの姿が入り口にあった。

 シグマとエルフ、そしてエルバの視線が、一斉にカイの方に集まった。

「先輩!? どうして!?」

「どうもこうもない、後輩を心配してなにが悪い」

「お主よ、そのお節介が命取りじゃ! ここはもうすぐ爆発するのじゃぞ!」

「そうだな」

 カイは、手に持っていた謎の袋をエルフの前に投げ置く。

 その勢いで、袋の中身が飛び出る。

「なっ!!」

 袋に入っていたのは、タイマーが止まった数個の爆弾だった。

「なぜ爆弾の場所が!?」

 エルフが動揺し、爆弾を一つ一つ確認していく。

 その隙を逃さなかったシグマは、エルフの足下を、爆弾を避けるように撃とうとしたが。

「やめろ」

 カイがマグナムの銃口を手で塞ぎ、シグマの動きを制止させた。

「さっきの話も聞いてたぞ。子供相手にやり過ぎだ。わかったら一旦銃をしまえ」

「・・・・・・善処します」

 シグマはカイに従い、マグナムを腰のホルダーにしまう。

「くそっ! なぜじゃ!!」

 エルフはそう言いながら、リモコンのスイッチを押し続けていた。

「やはり、遠隔操作もできるタイプだったか。悪いがその爆弾、どうやっても作動しない。乾電池を抜いたからな」

(えっ、乾電池!? そんなアホみたいな構造の爆弾見たことないぞ!)

「ならば――」

 と、エルフはカイに銃を向けるが、その刹那――カイがその銃を手で払い飛ばす。エルフの力は弱く、あっさりと手から離れ飛んだ。

 エルフは急いで銃を拾おうとするも、カイが先回りしそれを踏みつけて壊した。

「子供が――ましてや幼女が銃を使うなど、俺がさせないさ」

(確かに幼いけど、見た感じは少女なんだよなぁ)

 そんなシグマの思いが届くことはなかった。

「くっ・・・・・・!」

 武器を失ったエルフは、素手で殴りにかかる。

 カイはそれを右手で受け止める。

「エルフ、お前はまだ幼い。自分の命を投げ捨てるには早すぎる」

「うるさい!」

 今度はカイの足を蹴る。しかし、ビクともしなかった。

「両親を亡くしたのは辛いだろう。これに関して俺達は絶対にその苦しみを理解できない。だが、一つだけ確実に言えるのは、エルフが死んでも誰も喜ばないことだ」

「何を根拠に――」


「あそこにいる、エルバの気持ちを考えたことはあるか?」


「我は復讐のために利用したのじゃ! 死ねばさぞかし喜ぶじゃろうな!」

「果たしてどうかな?」

「!?」

 


「申し訳ないが、俺の推理話に付き合ってくれ」


いつものように遅れた上、少し変な感じに終わってすみません!

実はこの先も書いてはいるものの、キリが悪く非常に長くなると思い、このような感じで第五話を終わらせました。また、これ以上読者を待たせるわけにも行かないと思ったのもあります(まず愛読してくださる方がいるかどうかの話になってしまいますが)


勝手ながら、学校のテストや資格試験の都合上、今月の30日は休載させていただきます。

本当にすみません!!

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