第二話 探偵らしくない依頼
学校から二キロ離れた場所にある一軒家の中――
尚紀、シグマ、ラムダ、カイの四人は、ソファに座って依頼主を待っていた。
本来であれば無関係な尚紀はこの場にいなくても支障はないが(日頃はあの二人と関わりたくないために帰っている)、今回はシグマがいるため、変な依頼を受けさせられないか不安でついていくことにした。
「ここが事務所・・・・・・ですか?」
シグマが部屋を見渡しながら聞くと、カイが答える。
「あぁ。一応俺とラムダが住んでいるが、事務所としても成り立たせている。見た感じが一般家庭と同じなのは許せ」
今、四人がいる部屋は何をどう見ようと一般的なリビングで、テレビ、テーブルなどの家具が置いてあり、ここを仕事場にしてるとは思えぬ居心地の良さがあった。
「なるほど・・・・・・意外ときれいですね」
「なんじゃい意外とは! これでもわしぁきれい好きなんじゃい!」
「私が毎週掃除に来ないとロクでもないのに?」
「ん? 最近部屋が勝手にきれいになってると思ったら、尚紀が不法侵入して掃除してたのかよ! そんなことなら最初から――」
「不法侵入って何よ! ちゃんと玄関から、しかもあなたが迎えてくれるじゃない!」
「そうだっけ?」
「記憶にないな」
「あなたたちねえ・・・・・・・・・・・・」
尚紀が呆れ、ため息を吐くと同時にインターホンが鳴る。
するとカイが無言で立ち上がり、玄関へ向かった。
「ずっと気になってましたが、コンビ名とかってありますか?」
「あぁ、ないよ」
「え?」
サラッと決めてないことを口にしたラムダ。シグマは驚く。
「一年ほどやってきてるが、これと言ったコンビ名は決めてないぜ。でも探偵やるからには何かしら付けないと目印にならないから、今は『愉快な探偵事務所』って名前でサイトを立ち上げて依頼が来るのを待ってるぞ」
「よ、よく依頼が来ますね・・・・・・」
「うっ、その反応だと事務所の名前が不服のようだな・・・・・・ともあれ、今のところオレらは依頼を百件以上受けて一度も失敗してないし、それなりに噂が広まってるのか遠くからわざわざ来る奴もいる。ま、失敗しないのは当たり前だし、許されるもんじゃねえしな」
「そうですね」
一度のミスも許されない。それは殺し屋だろうと探偵だろうと同じ事であるのは、シグマもよく知っていた。元より、ミスした時点でその者の『死』は決定事項である。
「向かい側のソファに座ってくれ」
依頼主を連れ戻ってきたカイが言った。
「うむ!」
依頼主が健気に返事を返すと、遠慮なくシグマ達の向かい側にあるソファに腰をかける。
橙色の短い髪に黄金色の瞳、中学生ほどの小柄な体格で赤色のフリルドレスを身に纏っていた。どこかの貴族のようではあるが、ソファの背もたれにくつろぐように寄りかかっていることから厳しい教育は受けておらず、年相応の性格であることが読める。
「我はエルフ。エルフ・アルムスターじゃ。よろしく頼むぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
エルフと名乗る少女の口調に、三人は呆然とする。唯一シグマは顎を触りながら下を向き、思考を巡らせていた。
その中、カイが元いたソファに座ると、早速ラムダが彼の肩に手を置き、こそこそと話しかける。
「なんつーんだ・・・・・・あれはお決まりキャラでいいんだな?」
「そういう年頃だろ、そっとしておけ。そんなことよりかわいいな」
「丸聞こえなんだけど・・・・・・」
小声で返答したカイであったが、それを聞き取った尚紀が嫌そうに言った。
飛びっきりイケメンでモテモテのカイに彼女がいない理由――
純粋に、ロリコンだからである。
救いようのない残念なイケメンである。
「アルムスター・・・・・・どこかで聞いたことあるような・・・・・・・・・・・・」
シグマは過去の記憶を辿っていた。
シグマの呟きに反応したエルフが、彼の顔を覗き込むと、歓喜の表情を浮かべる。
「おぉ!! もしや、そなたは<ガーネット>ではないか!」
エルフは弧を描くように飛び上がり、シグマに近づいては両手を握りしめる。
「覚えとるか? 我が両親のボディガードの依頼の時にいた生意気な小娘じゃ!」
「えっ――あっ、アルムスター夫妻の護衛依頼ですね! 思い出しました!」
戸惑うものの、シグマは殺し屋時代に受けた特殊な依頼で、アルムスター夫妻のボディガードをしてた際にいた夫妻の娘のことを思い出した。
――自分で生意気な小娘って言うのか・・・・・・シグマは思った。
「ん? あれお前の仕業だったのか」
アルムスター夫妻の護衛依頼と聞いて、何かわかったラムダが言った。
「何の話ですか?」
「アルムスター夫妻を狙った小規模テロ組織が、ただのボディガード一人によって壊滅したって話――ニュースで流れてたぜ。幸い、夫妻がコードネームも伏せてくれたから、お前の存在が世間に知れ渡ることがなかったな」
「あの時の<ガーネット>は格好良かったぞ! 特に数キロ離れたスナイパーを拳銃一丁で倒したときはもう鳥肌が――」
「ヴぇえ!?」
突然、尚紀が変な声をあげて立ち上がる。
「どうした? 彼氏の手が余所者に独占されてて怒りが頂点に溜まったか?」
「!? お主、<ガーネット>の彼女だったとは、大変失礼した」
カイの発言を耳にし、彼女の存在を知ったエルフは尚紀に土下座した。
「別に怒ってないからね! てか、カイは思ったこと口に出す癖直しなさい!」
「すまないな。だが別に隠すことでもないような――」
「恥ずかしいからに決まってるでしょ!!」
尚紀は我慢できずにカイの顔に拳を打ち付けようとする。カイは冷静に顔を傾け回避すると、その拳はラムダの顔に直撃する。
「ぶふぁ!!」
ラムダは吹き飛び、横の壁に頭がめり込んだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ラムダは気絶したのか、びくともせず体を宙にぶら下げていた。
尚紀はそれに謝る素振りを見せない。
「依頼報酬の二、三割は家の修理代に回されている」
「あっ、はぁ・・・・・・・・・・・・」
特に誰も得しないカイの情報に、とりあえずシグマは反応しておいた。
「こちらからも言わせてもらうと、この場で俺たちの名を出すのは慎んでくれ」
「それは悪かったわ」
「ところで、何で驚いたんだ?」
「ちょ、驚いたって気づいてるなら――もういいわ・・・・・・拳銃で数キロ離れた敵を打ち抜くのは非現実的じゃないかって思っただけ」
怒ることが面倒になった尚紀は、投げやりに疑問を口にし、全身の力を抜くようにソファに座った。
「俺も気になるところだな。なんせ戦法に関する情報は一切出てこなかったからな。まあ、それはあえて、依頼開始までのお楽しみにとっておこう。今その疑問を返答するなら、拳銃がオーダーメイドの特殊な物である、と考えるのが妥当だろう」
カイが淡々と自分の考えを述べた。
「そろそろ、依頼の内容をお願いします」
「おっ、そうじゃったそうじゃった」
シグマが促進すると、エルフが思い出したように依頼をその場で言う。
「端的に申す・・・・・・・・・・・・我の親友を、救出してほしい」
「!?」
さっきまで賑やか(?)だったこの場に緊張が走る。
「――ボェッ! 死ぬかと思った・・・・・・・・・・・・」
しかし、その空気を読んでないようにラムダが自力で壁から頭を抜いた。
そんな彼を無視して、エルフは話を続ける。
「実は先日、親友のエルバが行方不明になってな。我々アルムスター家も協力して探し回ったが、見つからなかったのじゃ。その夜、一通の手紙が届き、それに写真が添えられてあってのう・・・・・・」
エルフは懐から封筒を取り出し、シグマに渡した。
シグマはそれを受け取り、封筒から手紙を取り出し、広げて皆で読み始める。
娘さんへ
君のかわいい親友はオレ達が預かったぜ
返して欲しければ十億円を用意しな
明後日の午前二時に、シトリン劇場にお嬢ちゃん一人で来な
もし約束が守れなかったら・・・・・・どうなるかわかるよね?
オレらの組織はロリコン多いから少しでも遅れると傷物になっちゃうぞ☆
読み終えた後、今度は写真を取り出す。
微塵の汚れもない金髪の少女が、椅子に縛り付けており、涙目ながら助けを求めるようにカメラ目線だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「はぁ・・・・・・正気の沙汰じゃないわね」
「こりゃ小物だ、楽勝だな」
「何がともあれ、幼――まだ幼い子供を人質に取るとは外道だな」
見終えた感想が自然と口に出た。
「お願いじゃ! エルバを助けてほしいのじゃ! 金ならいくらでも出せる!」
「――わかりました、必ず救ってみせます!」
「頼むぞ!!」
シグマが依頼を受理し、立ち上がる。
「あまり時間がありません、御二人も早急に準備を!」
「あいよー!」
「了解だ。お前は一旦家に戻るのか」
「いえ、俺はもう準備は整ってます」
「え? おまっ、何も持ってきてねえじゃねえか! あるとすれば学校の荷物くらい?」
ラムダが指摘すると、シグマは腰に隠し付けていた拳銃を取り出す。
その拳銃は、回転式拳銃で有名なM29だった。
「俺は、これだけで十分です」
久しぶりの更新となりました。
待っていた方は本当にすみません!
別作がメインであることもあり、不定期であると放置してしまうため、次からは毎月15日、30日に更新するようにします。(今回のは今月の15日の分にします。すみません)
次回の更新は4/30です。
今後とも、よろしくお願いします!




