禁忌の断片と執念の結実
それは、ユーフェリア王国の歴史から消されたはずの、血塗られた記録だった。
「……ついに、ついにこの時が来たか、レーア」
王宮の最深部、限られた王族しか立ち入りを許されない禁書庫で、国王は震える手で一冊の古びた魔導書を撫でた。
かつて、世界を揺るがすとされ検閲の対象となった「異界召喚魔法」。
書物は焼き捨てられ、知識は断絶したはずだった。
しかし、歴代の王たちは諦めなかった。彼らはあちこちの歴史書や詩集、果ては料理のレシピにまで「暗号」として紛れ込ませていた断片を、数百年の歳月をかけて拾い集めてきたのだ。
「歴代の王たちが、一文字、また一文字と解読を繋いできた悲願……。今代でようやく、魔法陣の全容が明らかになりましたわ、お父様」
若き王女レーアが、暗がりのなかで妖しく微笑む。 だが、その解読は決して「完全」ではなかった。
数世紀にわたる暗号のパズルは、一部の術式が欠落し、あるいは解釈を誤ったまま組み上げられていた。それでも、王族の強欲はその欠陥を無視し、禁忌の扉を強引にこじ開けたのだ。
「全属性の魔力を持つ『勇者』さえ手に入れば、術式の多少のズレなど些末な問題だ。……さあ、始めよう。我が王国の繁栄を永遠にするための儀式を!」
術式が不完全であれば、召喚の衝撃は制御不能となる。 その結果、強大な魔力を持つ「勇者」である優輝は王宮の祭壇へと導かれたが、彼と共に光に飲み込まれた雪乃と琥珀は、術式の綻びに吸い込まれるようにして、王国の預かり知らぬ場所へと弾き飛ばされたのだった。
――まさか、その「綻び」によって、王国の脅威となる真の力が五歳の子供という姿で放たれたとは、この時の彼らは知る由もなかった。




