コレポルト家
アナスタシアにコテンパンにやられてから数日が経ったある日。
ログロース学院から程近い豪邸が並ぶ区画に、一際大きな敷地の豪邸がある。門には警備兵が24時間配置されていて、いかにも階級の高い貴族が住んでいるのが分かる。その豪邸にコレポルト家のヨシュアとマリアンが住んでいる。二人は大広間の長卓に座っている。高い天井から吊るされた燭台が、その長卓に並ぶ銀器を鈍く照らしている。
ヨシュアは、グラスを置くとマリアンに話しかける。その顔に学園で見せる笑顔はなく、実の妹ではなくグラスの中の液体のゆらめきを見ている。マリアンも兄の方へは向かず、俯いている。
「で、マリアン、お前は下級貴族のソニアに負けて。おめおめとこの兄に泣きつく訳だ」
「ご、ごめんなさい、お兄様」
マリアンは、すかさず謝罪を述べる。その言葉から、兄妹以上の上下関係が伺える。
「聞けばお前はソニアを執拗に虐げていたらしいじゃないか。今まで、私が関与してこなかったからよかったものを」
マリアンは、その言葉に返そうと顔を上げるが、兄の一瞥で言葉を引っ込めた。
「妹が僕の後を追って学園へ来たと思えば、この僕の足を引っ張るだけでなく、家名にまで泥を塗るとはね」
取り繕うかのように、マリアンは焦って答える。
「すいません!でも、その相手があまりに……その……」
ヨシュアはじろりとマリアンを睨みつける。その目は、実の妹へ向けるものではなかった。マリアンは、兄から目を逸らし、呼吸荒く、膝に置いた手を強く握りしめている。
「強いというか……」
「まさか自分より弱いと思っていた奴に、足元をすくわれるとは思わなんだ、と言いたいんだね。あの無様な事件を私に収めさて、そして、今もまだ自分でやり返そうともせずに、私の前でのうのうと食事をしている。無様極まりない」
マリアンは額に脂汗をかき、何もいうことができない。ヨシュアは一切料理に口をつけない。
「まあ、いい。そのソニアという生徒には、このログロースからいなくなってもらおう」
「お兄様、ありがとう!」
マリアンは、ぱっと表情が明るくなり兄に感謝を述べる。ヨシュアはにこりと笑顔を見せたと思うと、怒りに満ちた顔でマリアンに忠告する。
「笑わせる。勘違いするなよ、コレポルト家の出来損ないが!お前などに誰も期待していないんだ。父上も母上もな。お前は、ただコレポルト家の庇護のもと慎ましく生きて、家のために嫁げばいいのだ。それを、この第一後継者である、私に泥を塗りおって」
マリアンが喜んだのも束の間、ヨシュアは実妹のことを家のための道具としか見ていないようだ。マリアンは、それ以上何も発言をしなかった。
「コレポルト家に歯向かうものは、誰一人として絶対に許さない」
ヨシュアは、そのまま立ち上がると、食卓を後にした。




