セラ・アーケインの探偵ごっこ
むかし むかし せかいは いくつかの くににわかれ あらそって いました。
その あらそいは なんねんも なんねんも つづいていました。
ひとびとは せんそうで つかれてしまいました。
でも わるいおうさまは せんそうを やめませんでした。
もっと もっと くにを おおきくして ゆたかに くらしたかったのです。
わるいおうさまは たくさん たくさん くにを ほろぼしていきました。
そして さいごの くになったとき あいてのおうさまが おねがいしました。
「わたしの いのちは ささげます。だから どうか くにのひとは おまもりください」
でも わるいおうさまは そのおねがいを ききいれず あいてのおうさまを ころしてしまいました。
そのとき どこからともなく ひとりの おんなのまほうつかいが あらわれました。
「わたしは アナスタシア・ウィリンガム。おまえのような わるいおうは おうにはなってはいけない」
そういうと わるいおうさまの へいしたち 100まんにんを ひ・みず・かみなり・かぜと ありとあらゆるまほうで なぎたおしました。アナスタシアが つかうまほうは てをふればほのおがでて じめんをなでればみずがわき そらをゆびさせばかみなりが いきをふけばたつまきがあらわれる とてもふしぎなものでした。
わるいおうさまは とてもではないが かなわないと あやまって にげていきました。
アナスタシアが わるいおうさまを やっつけてくれたので ひとびとはよろこびました。
その たくさんのまほうを あやつるすがたをみて ひとびとは アナスタシア・ウィリンガムのことを このように よびました。
「ザ・スペルウィーバー」
せんをこえる まほうをあやつる まじょとして ひとびとはすえながく アナスタシア・ウィリンガムのことを たたえました。
ソニア・エヴァークレスト、彼女は一体何者なの。あの時見た魔術はどれも凄まじかった。それなのに、学院の中では「魔術が苦手」だと言う。見たことと聞いたことの辻褄が合わない。あの魔術は、まるで手品だった。一介の学生が、魔術陣も魔術杖も魔術具も使用せずに、魔術を制御できるものではない。しかも、見ただけでも守護、重力、炎、風の4つの魔術を次々と無詠唱で繰り出した。あんなの今の私には無理。いや、誰にだって無理よ!だって、あれはアーケイン家が体系化した魔術とは別のものだった。そう、あんな事できる人間は、昔話で聞いた、ザ・スペルウィーバーだけだわ。認めたくはないけど、私の実力を超えていた。では、何故彼女は魔術巧者であることを隠すのかしら。いいわ、ソニア、あなたの本性は私が暴いてやるわ!
セラはプロムストリートでの騒動の次の日、早朝からソニアを探すためにログロース学院の校門に立っている。そして、外套で同級生を確認すると、片っ端からソニアの事を尋ねて回った。同学年の傑女が、無表情で淡々と前置きもなく「ヒヨコのぬいぐるみを持った生徒に心当たりは?」と聞いてくるため、たいへん同級生を驚かせた。名前は直ぐに分かったが、腑に落ちない情報があった。それは、ソニア・エヴァークレストは初級魔術さえも上手く扱えないということだった。
その日から、セラの下手な尾行が始まった。ソニアの出席する授業、実践魔術、ランチ等、セラはその秘密を探るために物陰から観察する。何だかソニアのフードにいるヒヨコのぬいぐるみがこちらを見ている気はするが、セラは気にしなかった。
「って、本当になんなの!ここ数日ソニアを観察しているけど、全っ然ダメダメじゃない!初級魔術にすら手こずっているわ。しかも、ヒヨコのぬいぐるみと喋っているし。何故周りから馬鹿にされながらも、実力を隠そうとするの?」
セラは校庭の植樹の後ろに隠れ、険しい顔でぶつぶつ呟いている。そこを通り過ぎる生徒達は、一様に関わり合いになるまいとそそくさと去って行く。
「おい、あの秀才はついに頭がいっちまったのか」
なんて、小声の皮肉を言うが最後、恐ろしい目つきで睨まれるため、触らぬ鬼に祟りなし、誰もがセラから離れ、近づこうとしなかった。
セラは、魔術下手を演じる意味を思案する。
「まさか、他国からのスパイ?……馬鹿げているわね。でも、そのくらい馬鹿げていないと、隠す意味なんて……」
じぃぃっとソニアを観察しながら、ぶつぶつと呟いていると、後ろから声をかけられる。
「あの、セラさん?」
「なによ!今忙しいの!」
セラが振り向くと、小柄で気の弱そうな男子生徒がいる。ボブで、金髪と白髪のどちらにも見える髪色の少年で、名前はウィンストンという。最近転入してきて生徒会のお手伝いをしてくれている。セラは取り繕って、もう一度言う。
「ウィンストン、私に何か御用かしら?」
それは、生徒会長達が先日のプロムストリートの件で聞きたい事があるから生徒会室まで来るようにと言う事だった。
ヨシュア達による聴取が終わり、生徒会室を出たセラは長い渡り廊下を歩いている。
あーどきどきしたわ。嘘をつくのも楽じゃないわね。まさかバレてないわよね?とにかく、早くソニアの本性を暴かないと!
時間は午後の授業が終わる頃だったため、たくさんの生徒で廊下は溢れている。そこに、偶然、調査対象のソニアが急ぎ足で目の前を通り過ぎた。
何あれ、すごい焦っていたわ。具合でも悪いのかしら?これは怪しいわね。生徒会も動き出したし、これからは注意して動かないと。
セラは意気込んで、ソニアを尾行して行くと、ソニアは学院の校舎の裏手の方へ行く。そこは、陽の光が当たらない小さな広場で、表の通りほど人通りは多くない場所だった。セラが、こっそりと後をつけていくと、そこにはマリアンのグループ数人が屯しているようだった。ソニアは、そのグループへ急いで向かっていく。その表情は、友人に対するものではないと、セラは何となく感じていた。
セラは魔術杖を取り出して、物陰から成り行きを見守ることにした。




