生徒会の尋問
セラ・アーケインは、ソニアと同じ中等部の同学年だ。学部も同じで魔術学部だか、ソニアとは殆ど面識はない。何故なら、セラはこの学院切っての英才、初等部の時から既に中等部の学習をしていたからだ。アーケイン家は、今まで一部の能力者のみが使用することができた魔法を、魔術として体系化し庶民に普及した功績をもって、公爵という王族に次ぐ地位を得ている。まさに、セラは血筋、才能、実力と全てを兼ね備えている。特にセラの使用する雷魔術は、ログロース学院で最強を誇る。ログロース学院は、中等部と高等部の生徒会で成り立っている。セラは、中等部の年になるや生徒会に立候補し、その中でも中核を担うほどの才覚を表している。
セラは勝手知ったる生徒会室に呼ばれていた。本来ならば、生徒会の仕事を果たすべく赴く一室だが、今日は違った。憲兵から5日前の19時頃にログロース学院の生徒が喧嘩騒動を起こしたという通報があり、その騒動の一人にセラが関わっている疑いがかかっていたからだ。
部屋に入ると、そこには、生徒会長、その傍らに副会長と書記の三役がいた。生徒会長のヨシュア・コレポルト、副会長のロジェ・ルーチェ、同じく副会長のルミエラ・ララルーラは3人とも学院の高等部に所属している。
ヨシュアは、ブロンドの髪を真ん中で分けて、耳にかかる髪を片方だけ星型のピンで留めている。高等部2年の黄色のラインの入った外套に制服だ。笑顔が印象的で、物腰も柔らかく全校生徒からの信頼も厚く、特に女生徒からの人気は絶大だ。学力、魔術、運動共にログロースの生徒の中では頭一つ抜きん出ているという。
ロジェは、葡萄酒のような暗い髪色で、光の加減で赤く見える。性格は真面目で、口数も多くない。そのため、ロジェが発する言葉に、誰もが重みを感じるという。ロジェになら学年の代表を任せたいと、推薦で生徒会になった。実力も申し分無く、剣術を得意としていて、既に騎士団の任務でも功績を残しているという。高等部1年の青のラインが入った外套を羽織っている。
ルミエラは、銀髪のツインテールの長身の褐色肌の女生徒だ。切れ長の目で、青い瞳が特徴的だ。高等部から入学してきて生徒会に入るという、あまり例を見ない経歴だ。高等部1年の青のラインの入った外套を羽織っている。
セラは生徒会長の机の手前までゆっくりと歩く。生徒会長の机が、さながら裁判官の机のようだ。セラが立ち止まると、ヨシュアがにこりと微笑むと、優しく口調で聴取を始めた。
「セラ、大切な時間をいただいて、ありがとう。君の働きには、生徒会はいつも助かっているよ」
「ありがとうございます」
セラはまるで機械のように抑揚のない声で返す。それでも、3人は平然としているため、セラが普段からこういう人となりなのだとわかる。
「昨日のプロムストリートでの騒動の件、君も噂を聞いているとは思うが、憲兵からセラがその場にいたと聞いてね。知っている事を教えて欲しいんだよ」
「承知しました。当日の18時、私は生徒会が終わり、学院領内の寮へと帰宅する前に、魔法杖のメンテナンスにプロムストリートへ赴いていました。既に、一般生徒の帰宅時間は過ぎていたため、学生服を着ていたのは私以外、いませんでした。予想外だった事は、まさかそログロースの生徒に絡んで来ようとする輩がいたという事です。そのグループは、諭しても全く話し合いになりませんでした。飲酒をしていたこともあり正しい判断力が欠如していたのだと感じます。実力行使に出るのも吝かではありませんでしたが、人集りも出来ていたため、また後々処理のことも考え対応に困っていました。すると、同じログロースの学生が私の助けに入ってきました。その時は、名前は分かりませんでしたが、名前はソニア・エヴァークレスト。私と同学年で、学力は学年のトップクラスですが、魔術は苦手とのことです。助けに入ってくれたことはありがたいことにでしたが、事が大きくなってきたため、私は事態の収集を決めました」
セラは、事前に準備をしていたかと思うくらい、顛末を明朗に述べる。
「つまり、実力行使に出たということだね」
「はい、少々手荒な対応になりましたが、致し方なしと判断しました。その後は、周囲の大人に対応をお願いをして、当初の目的である魔術杖のメンテナンスに向かいました。以上が事の顛末です」
ヨシュアは、憲兵からの提供と思われる資料に目を落とすと、軽く咳払いをして話し始める。
「では、セラが魔術でそのグループを蹴散らしたという事だね」
「はい、その通りです」
「セラにしては、随分と手荒な真似をしたね」
ヨシュアは、笑顔を崩さない。
「ログロースの生徒が介入して来た以上、彼女の安全を最優先に考えました」
「なるほどね……。ログロースの生徒が、学院外で魔術を市民に使うことが、どのようなことか分かっていてやったと?
「はい」
ロジェとルミエラは、この件に全く興味を示していないかのように静かに事を見守っている。
「ふむ……。セラ、でもやはり一般民に対して、魔術を使用するのは今後は自重して欲しいな」
「以後、気をつけます」
ヨシュアは、机で組んでいた手を解き、革製の椅子に寄りかかり、傍の2人に確認する。
「2人とも、何かあるかい?」
「………………」
「ないでーす」
ヨシュアは、立ち上がるとセラの手を握ってくる。
「ありがとう、仔細は非常によく分かったよ。憲兵の対応は、僕たちがやっておくよ。いやぁ、セラが無事で本当に良かったよ」
「……失礼します」
儀礼的な言葉を言うや、セラはヨシュアの握手から手を引いた。ヨシュアは、一瞬驚いたような顔になったが、また笑顔に戻り、手を振った。
「また、生徒会でね」
セラはそれには応えず、踵を返し生徒会室を後にした。ヨシュアは、セラが出て行った扉を見ながら2人に言う。
「この資料には、男達は肩までの茶髪のログロースの女性徒にやられたとある。しかも、周りの聴取から重力、炎、風の魔法を使用したともある。セラがわざわざ雷魔術以外を使用すると思うかい?」
「ありえないでしょー」
ルミエラが華美なネイルを見ながら、やる気ゼロで答える。
「ふむ……セラは何か隠しているね。しかし、ログロースの名を傷付けるのは避けたい。後は僕が何とかしよう」
「やったー、わたし、なにもしなくていいのね!らっきー」
ルミエラは、ぴょんぴょん跳ねた。ヨシュアは立ち上がり、生徒会室を出て行く。
「これからも、生徒会を頼むよ。アーケイン家の御息女に何かあってはいけないからね」
ヨシュアは2人には聞こえない声で呟いた。




