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Hiyoko's witch  作者: POCO
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23/25

生徒会のお仕事

 ソニアにとっては、自分の置かれている状況が身の丈に合わず、日々周囲の期待に応えるために気を休めることができなくなっていた。それが助長されたのは、まさに「ドラゴン討伐」だった。アルエが率いる第三騎士団に帯同したセラとソニアが、伝説と言われるドラゴンを討伐したという。それも、ソニアは最前線で戦ったというのだから、ログロースの他の学生にとっては尊敬の眼差しとなっていた。

「あっ、見て!ソニアだ!」

「バカ!ソニアさんだろうが。あのドラゴンと戦って、勝ったんだぞ」

「俺は前から只者じゃないと思ってたんだよなぁ」

「何でも、あまりの魔力で校舎を壊してしまうから、敢えて魔術が使えない様に振る舞ってたらしいぜ」

 ソニアは顔をカバンで隠しながら、生徒会室に向かって歩いている。セラはいつも通り、周囲の戯言など聞く耳を持っていない。

「ソニアさん、よく見たらめっちゃ可愛くないか?」

「馬鹿野郎!ソニア様だよ!ソニア様に近づくならば、ソニア様公認ファンクラブで予約をとってもらわないとな!」

 えぇ!何それ!私、ファンクラブなんて初めて聞いたんだけど!

 ソニアが周りの男子学生の言葉に驚いていると、セラがその男子学生をゴミを見るかのように見る。

「クズが!」

 すると、傍にいた(公認)セラファンクラブの生徒達が騒ぎ出す。

「やったぁぁ!セラ様のお言葉が頂けたぞ!」

「身に染みるわぁ」

「はぁ、はぁ、ゾクゾクするぜぇ」

 セラの罵倒に、何故だか方々から歓喜の声が聞こえてくる。

「はぁぁ、もうやだ……。私、そんなんじゃないのに……」

 余程注目を集めるのが苦手なのだろう、ソニアが顔を赤くして言う。

「馬鹿らしい、言わせておけばいいのよ。別にソニアが気を追うことは一切ないわ」

 ソニアの動揺を、セラがすっぱりと切ってくれる。セラの言葉には、裏表がないからソニアにとってはとても心地いいものだ。

「でも、セラはともかく何で私も生徒会長に呼ばれているのかな?」

 というのも、今日登校するとセラが生徒会長からソニアに特別な話があると、クララとの挨拶もそこそこに連れてこられているからだ。

「あのヨシュア、生徒会長には気をつけることね。私は家柄上、様々な権力者と出会うことがあったの。中には、アーケイン家に取り入ろうとか、取って代わろうとする者も多かったの。あいつは、それと同じ。才能があるようだけれど、裏の顔があるわ。今は権力を得てきて、それを隠さずに振る舞うこともあるしね」

 顔を隠すソニアは、頷きながらなるほどと、聞いている。

「それが、あの編成試験の時よ。理由は分からないけど、ソニアを断固として退学に追い込もうとしたでしょ」

 セラは、目だけソニアに向いて、淡々と話す。

「確かに、セラが何を言ってももう答えが決まっていたかのように、聞き入れなかったね」

 ソニアの他人事のような呆けた返しが気に入らないのか、セラは語気を強めて言い返す。

「あなたねぇ、もう少しなんて言うか、負けん気っていうの?敵対心っていうの?人に対する怒りってものがないの?」

 セラは生い立ちからか、人と比べられたり権力に取り入ろうとしてくる人を見たりとしてきた為か、ソニアの平和ボケしたおっとり感が鼻についたようだ。

「うぅ、ごめんねぇ」

 そんなやりとりをしていると、生徒会室の前まで来る。

 いざ、目の前まで来ると、急に緊張してきた。セラが変なこと言うんだもの。私、多分嫌われているんだよね。怒られたら、どうしよう。ちょっと、深呼吸をしてっと…………。

「失礼します」

 ソニアが気持ちを整えようとした途端、セラがドアを開けた。その音に虚を突かれたソニアは、汗がばっと出てきた。そこには、生徒会だけではなく、見知った顔もあった。マリアンとウィンストンだ。最近知り合った同じような気質のウィンストンを見てソニアはぱぁっと明るくなる。対照的に2人を見たセラは、訝しげな表情になる。

「やあ、ソニアさん!待っていたよ。ドラゴン討伐の件、聞いたよ。あのドラゴンを倒すなんて、このログロース始まって以来の快挙だよ。まさに学院の誇りだ!」

 ヨシュアは甘いマスクに最高の笑顔で、両手を広げて近づいてくると、ソニアをハグする。ソニアは顔を赤くしてカチンコチンに固まっている。セラが咳払いをすると、ヨシュアはゆっくりと離れて笑いかける。

「さすがセラだね。アルベリック宰相もお喜びだったでしょう」

 ヨシュアがハグをしようと手を広げ近づこうとするも、一歩下がり距離をとる。

「ありがとうございます」

 無表情で相手の好意を避けるとは、セラは肝が座ってるな。

 ソニアがそんな事を思っていると、ウィンストンが話しかけてくる。

「ソニアさん、おはようございます。ソニアさんも呼ばれていたのですね」

「ウィンストンくんも呼ばれたんだ。生徒会室なんて緊張するから、良かったよ」

 ソニアとウィンストンは数日前に出会い、それからは一緒に講義を受ける仲になった同級生だ。セラも同じ講義になる時もあったが、いつも通りセラは関心が無さそうだった。

「挨拶も済んだようだね。それでは、本題に入ろうか」

 ヨシュアは生徒会長の机に戻りながら話を始める。ロジェとルミエラは、全く話に関わろうとせずにヨシュアの傍らで自由にしている。ロジェは目を瞑り精神統一をしてのだろうか、ルミエラは、怪我をしていない左手で髪を整えている。ソニア、セラ、ウィンストン、マリアンは生徒会長の机の前に誰に言われるわけでもなく並ぶ。

「いやぁ、生徒会は今人手不足でね。ログロースの生徒からは日々様々な要望を頂くのだが、全てに対応できていないのが実情なんだよ」

 ヨシュアは困り顔で、まるで劇中の演者かのように振る舞う。

「また、生徒会の仕事は学業外の活動であるため、中々やりたいと手を挙げる人もいないんだ。そこで、君たちに声をかけさせてもらったんだ。知っての通りマリアンは私の妹なので、申し訳ないが半ば強引にだ」

 ヨシュアの言葉に、マリアンはお辞儀をする。ソニアは冗談なのか分からず、苦笑いを浮かべる。もちろん、セラはすんとしている。

「そして、ウィンストン君は数ヶ月前に転入して来て、この度はぜひ力になりたいと申し出てくれたんだ。そして、ソニアさん、君はなんと言っても今年の主席、そしてドラゴン討伐の功績もあり、今やログロースの注目の的だ」

 真っ直ぐソニアの目を見つめ、甘く微笑む。自分の心の奥まで見透かされているような感覚に陥るのが分かる。これが多くの生徒を魅了した力なのだろうとソニアは感じた。

「ぜひ、ソニアさんのお力を貸してはいただけないだろうか?」

 ソニアから、どの様答えて良いのか迷っていることが、周りは見てとれた。

「ごほんっ、会長、ソニアは困っています。それは、内容を確認してから判断してはいけないのですか?」

 セラが咳払いをして、会話に入ってくる。ヨシュアは、その微笑みをそのままセラに投げかけて続ける。

「もちろん、そうして欲しいと思う。では、詳細をお伝えしよう」

 ヨシュアは椅子の背もたれにもたれかかり、横で目を瞑っているロジェに目配せをすると、どの様に察知したのかは分からないが、ロジェは徐ろに口を開く。

「我、汝らにこれを説き示す」

 渋っ!

「渋いな」

 ソニアとアナスタシアは、ロジェの話し方に突っ込んでしまう。慌ててソニアは、身を正す。

「先日、投書一通あり。その中に、左の如く記せり。『最近、旧校舎の方から奇妙な声が聞こえるんです。怪物のような、お化けのような気味の悪い声が。なので生徒会の皆さんに、その原因を突き止めて解消して欲しいです。よろしくお願いします』と」

 依頼を聞くソニアは、ごくりと唾を飲み込み聞き入っている。マリアンも同様に目を大きく見開き聞き入っているが、ウィンストンは涼しい顔だ。すると、セラが急に大声を上げる。

「わ、わ、わ、私はじ、辞退するわ!お、お化けなんて馬鹿らしい!子供みたいな要望にいちいち対応してたか生徒会は回らないわ!」

 セラはその身を震わせながらヨシュアからのお願いを固辞すると、踵を返して足早に生徒会室を後にする。その後を、ソニアとマリアンは、セラのあまりの勢いに呆然として見送る。ヨシュアは、セラの急な退室に全く触れずに続ける。

「生徒会は、この要望を聞き入れ、その原因の追求及び解消を行おうと思う。君たちには、その任をお願いしたいんだ」

「はい、かしこまりました。お兄様」

「承知いたしました」

 マリアンに続き、ウィンストンも快諾する。返答を残されたソニアは、急に焦り出し隠れてアナスタシアに意見を求める。

「ねぇ、どうしよう!すごい断りにくいんだけど!」

「まぁ、いいんじゃないかい?僕も暇だし、何かあったら呼ぶといいさ」

 アナスタシアは、適当もいいところに答える。

 私だって、お化けとか苦手なんだけど……セラのすごい勢いの断り方に、すごく言いづらいなぁ。あぁ、でもこのまま断らないとやらされちゃうから何とかしないとなぁ。なんて言おうかなぁ……。

 ソニアが返答に思案していると、ヨシュアが話を進めてしまう。

「ありがとうございます。では、3人には今日の夜21時に旧校舎の前に集合してもらいます」

「えーっ!、あ、あの!」

 間に合わないと思ったソニアは、何とか声を上げるも時既に遅く、ヨシュアは笑顔で今後のスケジュールを伝える。

「マリアンとウィンストンさんは、主席のソニアさんを中心に捜索にあたってください。ロジェとルミエラも、同じく旧校舎の部屋をくまなく捜索してください。何事もなければそれでよし、何かありましたら適宜対応していただければと思います」

「御意」

「りょーかい」

 ロジェとルミエラは、全く恐れることなく快諾する。

「お兄様の命令とあらば、何としてでも遂行して見せます」

「承知いたしました」

 マリアンとウィンストンも同様に快諾する。生徒会室にいる全員が、ソニア方へ向き返答を待つ。ソニアは、あわあわと慌てふためくが、最後には堪忍して項垂れるように受け入れる。

「はい、承知しました……」

 ヨシュアは、一瞬にやりと目を座らせたが、すぐにいつも通りの爽やかな笑顔で感謝を述べる。

「ありがとう、皆さん。では、本日の21時に集合です。それまでは、普段通りに学院生活を送ってください」

 マリアンとウィンストンはそのまま生徒会室に残ったが、ソニアは断りきれなかった自分を責めながら、生徒会室を後にした。

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