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Hiyoko's witch  作者: POCO
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2/25

あったものがなくなったので、仮説が証明されました(哀)

「ここは、どこだ?」

 あまりに突飛な出来事に、アナスタシアは無意識に独り言が出た。

 僕は今の今まで部屋で魔術の研究をしていたはずなのだが……。突如目の前が歪んだと思ったら、全く違う場所にいる。どういうことだ?空間を飛ぶ魔法など、僕は知らないぞ。

 アナスタシアは、辺りを見回してみる。

 一人部屋だろうか。一人用の勉強机に一人用のベッド、クローゼットに……おや?

 アナスタシアは、床には何やら円状の陣が描かれていて、その傍には魔法書が1冊落ちていた。アナスタシアは、その本の題名が気になり手に取った。

『Codex Ars Chronos』……時の魔法書?そんな、魔法書が存在するのか?354年と9ヶ月生きてきて、初めて聞いたぞ。随分と体裁が整えられている。僕も研究こそしたが、ついぞ使いこなせなかった時魔法。それが、このような魔法書になっているなんて、信じられないが……。

 アナスタシアは、魔法書を開き内容を確認しようとすると、木製の壁にカレンダーが目に留まる。

「1867年!僕がいた暦は511年だぞ!」

 その暦を見てアナスタシアは驚愕して時魔法の書を放り投げて、カレンダーを乱暴に剥がしてまじまじと見る。別に暑くも寒くもない部屋だが、あまりの現実離れした状況に、アナスタシアの顔には汗が浮かんできた。

「1000年以上の時が経っている……」

 では、あの視界の歪みは、場所が飛んだようなものではなく、時間の歪み?

 アナスタシアは、先程の歪みは時魔法のためだったのではと仮説を立てる。

「時魔法……嘘だろ……」

 アナスタシアは、放り投げた時魔法の書に目を落とす。首筋から胸の辺りに、球になった汗が伝って行く。その汗を乾かそうと胸の辺りの服を掴む。

 んっ!んんっ?!胸がない。正確には、乳房がなくなっている。いや、あるけど、小さい!というか、僕が着ていた服ではない!

 アナスタシアは先程の歪みから、初めて自分自身の両手を見てみた。普段の自分の手よりも小さく細い。

「鏡、鏡はどこ!」

 アナスタシアは、とにかく今自分に起きている出来事を確認するために鏡を探す。部屋を見渡すと、鏡は見当たらず、自分を映せそうなものは窓のみだった。外の明るさによっては映るはずたと、一人用の狭い部屋にも関わらず、アナスタシアは窓まで急いだ。

「なんだ……これは……」

 窓に自分の身体が映ったことには良かったのだが、朧げに映った自分の姿は、今まで過ごしてきた自分の身体ではなかった。それは、制服のような服を身に纏った少女だった。華奢でまだ成長しきっていない幼い身体。そして、アナスタシアの自慢の銀だった髪色は、亜麻色へと変えていた。

 いつぶりだろう、こんなにも混乱して動揺するのは……。一体僕に何が起こっている……僕が僕ではない身体になっている……。

 考えがまとまらないまま、アナスタシアは窓に映った自分に手を伸ばす。その時、ふと気が付く。

 そうだ!外はどうなっている?

 アナスタシアは今の自分に降りかかっている出来事を振り払うように、外開きの窓を勢いよく開いた。

 目に飛び込んできたのは、綺麗で大きな三日月だった。

 よかった、月がある。せめて、異世界ではないみたいだ。三日月が西の空に見える、陽が落ちてまもないようだ。

 そして、街並みを見て、時魔法で時間が飛んだという疑惑が確信へと変わっていく。石畳で舗装された道が放射状に整備され、赤茶けた石を互い違いに組んだ高い建物。遠くに見える教会も、建築様式が自分の時代のような無骨なものではなかった。服装も乗り物も、全てが自分の時代に比べると装飾が煌びやかになっている。

 アナスタシアは、そのまま外を眺めながら腕を組み、片手で頬杖をつく。そして、頬を指でとんとんと2回叩く。

 ……ふむ、そうか……分かった。もう、認めよう。

 アナスタシアは何かに得心が入ったのだろう、先程放り投げた時魔法の書を見た。

 僕は時魔法を使われて、時空を越え……いや違う、時空を越えたならば僕自身がここにいるはずだ。時空を越えたんじゃない。可能性として考えらるのは、次元が歪んだんだ。多次元とでもいおうか、僕の精神だけが次元の歪みの中で移動して、この少女の身体に定着したのだ。つまり、この少女は時魔法の使用者である可能性が高い。すごいぞ、この少女は!

 アナスタシアは、さらに仮説を進めると、今度は自分に起こったことへの興味が湧いてきた。

 そうなると、この少女の精神は昔の僕の身体にあるのか?交換されたと考えるのが一番落ち着く思考だ。現時点で、僕に出来ることは……ないな。時魔法は、まぁ後でいい。せっかく未来に来る事ができたんだ、ここは一先ず新世界の見物に行こうじゃないか。

 アナスタシアは、現時点での自分の置かれた状況をおおよそ把握すると、寧ろ未来の世界に興味が湧いてきた。投げ捨てられた『Codex Ars Chronos』をぴょんと飛び越して、アナスタシアは扉を開けて出ていく。

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