アルエの報告
「こんどこそ討伐完了だ。団長さん」
アルエはアナスタシアの討伐報告で我に返る。困惑していたため、ソニアが誰もいない方向へ放った音速の炎魔術の意図が分からない。
「あのソニアさん、最後に放った魔術は?」
「あぁ、あれは向こうにこそこそと隠れていた召喚術者を狙ったのさ。外したけれどね」
あれだけの強敵を前にして、魔力を索敵しながら戦うなんて。これでまだ学生なんて信じられませんわ。これでも、私、騎士団長なのですけど。悔しいよりも、清々しいまでに強いですわ。
アルエは「そうですか」と体面上では冷静に言うと、立ち上がりアナスタシアの本へゆっくりと歩く。
「ありがとう、ソニアさん。あなたのお陰で村、いや、この国が守られましたわ。この国の団長として、感謝をします」
アナスタシアに向けてアルエは大剣を地面に突き刺すと、胸に手を当て敬礼する。
「不甲斐ない団長で本当にすみませんわ」
そして、自分の足手纏いを謝罪する。
「いいや、団長さんが僕を守ってくれたおかげさ」
「僕を守った」と言う言葉に、アルエは思い出したかのように尋ねる。
「そう!そうです!なんで、始めはあんな及び腰でしたの?色付きや甲冑も、いとも簡単に倒して見せるくらいの実力なのに。そして、その年で団長を優に超える実力なのに、どうしてですの?」
アルエはアナスタシアの手を掴むと、捲し立てる。アナスタシアはあからさまにぎょっとした顔をして、アルエの手を払うと、いそいそとヒヨコのクチバシをいじり始める。
このぬいぐるみへの執着……何なのかしら。確か戦闘の時も、あのヒヨコのぬいぐるみを持った途端に別人のようになったのですわ。というか、また魔力が小さくなりましたわ。
「えー、あー……あれです……えー……」
そして、すごく動揺してますわ。汗だくだくで、目もめちゃくちゃ泳いでいますわ。態度も何となく小さくなったような……。
「ソニアは、普通の生徒よ」
アルエが非常に怪しんでいると、セラが急に2人の会話に割って入る。
いつも他の人の会話などに興味を示さないのに、珍しいわね。
アルエは、殊更怪しむ。
「ソニアは努力に努力を重ねて、今の魔術を習得したの。私たちアーケイン家の兄姉もそうでしょう?若いから信じられないなんて、ただの偏見だわ」
セラはいつも通りの無表情で話すので、強引な理屈もそれっぽく聞こえる。
「ただ……」
セラは言い淀む。無表情だが、次の言葉が出てこないのだろう、口をぱくぱくさせて動揺している。
「その……そのヒヨコのぬいぐるみがいないと……落ち着かなくて上手く魔力をコントロール出来ないのよ」
セラの額にきらりと光る汗のが伝ってくると、ばっと咄嗟にそれを拭く。
「セラ……あなた、嘘をつくのが下手ねぇ。あなたたち、何か私に隠し事しているでしょう?」
セラの幼少期から一緒に過ごしてきただけはあり、簡単にセラが嘘をついていることを見破る。
ソニアとセラはもう何も言えず、ものすごい量の汗を流して焦っている。その時、か細く小さい、それも幼少期から聞いてきた声が聞こえる。
「あはは……みんな、僕を忘れては……いないかい」
ソニア、セラ、アルエが声のする方を向くと、3人の顔が青ざめる。そこには、クララに抱き抱えられたエレナが横たわっていた。
「エレナ!ごめんなさぁーい!」
「というわけですわ」
アーケイン城のアルベリックの執務室。そこで、アルベリックはアルエから今回のドラゴン討伐についての報告を受ける。執務室は重厚な執務机に来賓用のテーブルに深緑のチェア、壁にもエルドブリッジ王国を象徴する深緑の布が張られている。
「可哀想に、エレにゃん……痛かったろうに」
アルベリックは咽び泣く。アルエはアルベリックの嗚咽には構わず続ける。
「お父様、今回の討伐で、最近のモンスターの出現の原因が掴めましたわ」
「ふむ、召喚魔術とは思わなんだ。しかし、そうと考えればいくつも合点のいくところがあるのも事実」
アルベリックは今まで泣いていたとは思えないほど、真剣な顔つきで応える。
「召喚魔術は世界的に禁忌とされているもの。にわかには信じられませんでしたわ。でも、レッドドラゴンと空っぽの甲冑と対峙して、間違いはないとおもいますわ」
「禁忌と言えど、所詮ただの慣例程度のもの。手を出す輩がいても不思議ではない。しかし、あれ程のモンスターを召喚するとなると、かなりの魔力と時間を要するだろう」
アルベリックは、手を顎に当てて考え込む。
「杞憂ならばよいのですが、他国からの攻撃の可能性も考えられませんか?」
アルエの最悪のシナリオを、アルベリックは敢えてだろうか、反応しなかった。
「アルエ、私は今から国王の下へ向かう。お前達は、各自領地において、有事の際の準備を進めておく様に」
アルベリックは、執務室を出ようと立ち上がると、はっと思い出したかの様に尋ねる。
「そうだ……あのソニアさんは、結局何者なのだ?団長2人でも手を焼く敵を、赤子の手を捻るかの様に仕留めたのだろう?」
アルエは少し驚くと、笑みを浮かべながら首を振る。
「分かりませんわ。分かったことは、団長クラス以上という事、どこにでもいる学生である事、そしてセラの良き友人である事ですわ」
「つまり、敵ではないと?」
「ええ、それは間違い無いかと。宰相、あの子はこれからの戦いに必ず必要となりますわ」
アルベリックはその言葉には応えずに、アルエに投げキッスをして執務室を出る。
アルエが鳥肌を立てたのは言うまでもない。




