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Hiyoko's witch  作者: POCO
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13/25

時魔術への考察

 ロロノア帝国、恒久の四傑であるエデン家を擁する国。エルドブリッジ王国の魔術、ロクサーヌ王国の魔術具を積極的に取り入れ、自国の蒸気機機関の技術を持って大陸最大の軍事力を持つ国だ。アーケイン家の魔術体系の中で禁忌とされている召喚魔術の研究に力を入れているという噂があり、他国からの追及にも全く応じていない。召喚術が禁忌とされている主な理由としては、命を扱うという倫理的な観点だけでなく、人間の手に追えないモンスターの顕現の可能性があるという現実的な理由がある。


「ううぅ、怖いよぅ」

「本当、ごめんね」

 ここまで連れてきてしまった責任を感じてソニアが謝る。

「ふんっ、大丈夫よ。今回はモンスター1体に対する任務よ。ああ見えてあの二人は強いのよ?団長だしね。ましてや、アナスタシアもいるし、やって、怪我の手当くらいよ」

 ソニアたち3人は、朝からアル・ヘレナのシンボルとも言える大図書館の前にいる。セラは身分を隠すために、色付きのメガネとストールを巻いている。クララは宰相の城に行くだけでも緊張したのに、討伐隊への参加までさせられてひどく落ち込んでいる。

「いい?とにかく時間は今日しかないわ。時魔術のこと、少しでも調べるわよ。ソニア、あなたも時の魔術書を持ってきたわね」

 セラはクララの心配をよそに、時魔術の解明へやる気を見せる。

「うん、持ってきたよ」

 ソニアは自分のカバンをぱんっと叩く。

 石造りの大図書館の中へ入ると、視界いっぱいに本が飛び込んでくる。ログロースでさえかなりの蔵書量があるのに、ここはその数倍は裕にありそうだ。

「すごーい!」

「何これ!こんなにたくさんの本見た事ない!」

 ソニアとクララは、あまりの本の数に驚いて無意識に大声を出してしまった。周りの人達からじろりと冷ややかな目が向けられ、2人は縮こまりセラの後ろへと隠れる。

「2人とも、私たちはログロースの生徒である事を忘れぬよう。さっ、行くわよ」

 セラは2人に忠告をすると、受付を済ませるためにカウンターへ向かう。メガネとストールを取ると、図書館の司書は、驚いて頭を下げている。どうやら、セラの顔は広く知れているらしい。受付の後ろの壁にはたくさんの鍵が掛けられていて、司書はその中から1つの鍵を取る。そして、セラ達一行は、東西に伸びる大図書館の廊下を目的の区画まで歩いて行く。長い廊下の突き当たりに金属製の扉があった。司書がその扉を開けると、地下に向かい螺旋階段が続いている。その壁は全て隙間なく本が並べられている。

「わぁ……」

 ソニアは、またも感嘆の声を上げそうになったが、咄嗟に口を押さえる。

「ここは、大図書館の中でもあまり閲覧の多く無い本の部屋なの。例えば、使用者のいない時魔術や禁止とされている召喚術書とかね。後はまぁ、祖先やお父様が編纂した、誰も興味のないアーケインの歴史があるわね」

 セラは、手をひらひらとさせて掃いて捨てるように笑う。

「恒久の四傑の歴史なんて、興味をもつ人いるんじゃない?」

 クララはセラに聞き返す。

「それが違うのよ。恒久の四傑の歴史は大人気。ここにあるのは、ほぼ日記みたいなものね。子育て記録とかあるのよ、笑えないでしょ。アーケイン家はどうやら、お父様のような変人が多かったみたいね」

「はははっ、面白いお父さんだったものね」

「ふんっ、こっちは全く面白くないわ」

 ソニアは素直な感想を伝えたが、セラは違ったようだ。螺旋階段を降りていくと、広いフロアにたどり着く。

「時魔術の書は、この本棚にあります。お戻りの際は、この私にお声かけください、入り口で待ってますので」

 セラがその鍵を感謝と共に受け取ると、司書はまた螺旋階段を上がって行く。ソニアは案内された本棚に目をやると、時魔術の書らしきものは1冊だけだった。

「時の魔術書、これだけ?」

 ソニアが呟くと、セラがそんなはずはないと言わんばかりに覗き込んでくる。

「嘘でしょ?魔術書が1冊だけなんてありえない」

 セラはその1冊を取ると内容を確認する。

「何これ……この本、内容なんて一切ないわ」

 セラは本をぱらぱらと確かめながら言う。

「魔術の祖のアナスタシアがそもそも使えてない訳だから、まとめる資料がなかったんじゃないかしら」

 クララは他の本棚を見ながら、ソニア達に考えを伝える。

「まぁ、そう言われれば、そうだよねぇ」

 ソニアは確かにと納得する。

「ちょっと、ソニアの持っている本の題名を教えてくれる?初めから、そこから調べればよかったのよ」

「うん、ちょっと待ってね」

 ソニアが持ってきた時魔術の書を鞄から取り出すと、セラとクララもその本を見ようと集まる。

「えーっと、私が持っているのはこの一冊」

 セラがその魔術書を覗き込む。

「『Codex Ars Chronos』……」

 セラは、本の題名を呟きながら棚の書を指差しながら確認していく。すると、ふと、セラの指が止まる。

「うそ……ない」

「どうしたの?」

 ソニアとクララは、セラが何に驚いているのか分からなかった。

「なのいよ、ソニアが持っている本が。ここは、世界の書物が集まる大図書館。ここに無い本なんて、ほぼ存在しないはず。ちょっと貸して」

 セラはソニアから奪うように魔術書を取ると、本の裏表紙を確認する。

「無い……」

「何が?」

「アーケイン家の印字が無い。魔術書の裏表紙には、必ずアーケイン家の刻印があるはず……」

 3人はセラの持つ魔術書を覗き込むと、その裏表紙は何も刻印はされていなかった。セラは、裏表紙をめくり奥付けを見る。

「何これ……」

 セラは奥付けを見ると、驚きソニアを見る。ソニアは、そこに書かれている文章を読み上げる。

「私では無い私へ、全ての始まりはこの魔術書 この本を守り抜いて。これ、意味わからないよねぇ」

 ソニアは、そこに書かれている文を読んで笑う。しかし、セラとクララは笑っていないので、あれっ?と2人を見る。2人はソニアを見ながら、今にも吹き出しそうにほくそ笑んでいる。

「えっ、ちょっと待って!私こんな恥ずかしい事書いてないよ!昔から書いてあったんだよ!」

 ソニアは、両手を顔の前でぶんぶんと振りながら顔を赤くして否定する。

「あるよねー、あるある。昔の自分を否定しないで」

 クララは、眼鏡を少し上げて涙を拭きながら言う。

「そうね、絶対に守り抜くのよ、ソニア……ぷっ!」

 セラは最後まで言い切れずに、横を向いて吹き出した。

「ちょっと!ぜんっせん信じてないじゃない!」

 2人がソニアをからかっていると、アナスタシアが1人真剣な面持ちで皆の前に出る。咄嗟にソニアも手を出して、アナスタシアを乗せる。

「楽しい話のところ悪いのだが、これはソニアの書いたものではないのかも知れない」

 皆には聞こえていないので、ソニアはその言葉をそのまま代読する。

「だから、違うって言ってるでしょう!」

 自分の発した言葉に、自分で突っ込む。

「いや、正確に言うと、この今のソニアが書いたものではない」

 アナスタシアは、無視して続ける。ソニアは、1人で突っ込んだことを恥ずかしそうに代読を続ける。

「この魔術書は、アーケイン家の編纂したものではない。そして、この全ての書が集まると言うこの大図書館に、この魔術書はない。また、ソニアは誰も使用したことのない時魔術を使用して、僕をここに連れてきた事実がある。最後に、これは証明こそされていないが、ソニアはその文を書いていない。そこから仮説を立てるなら、その本は他の次元、例えば未来の、もしくは別次元のソニアが書いたものだと言う事だ」

 3人はその言葉を頭の中でリピートしているのか、目を合わせずに下を向いている。セラがその沈黙を破る。

「突飛な仮説だけど、ソニアが時魔術を使用できたとなると、捨てきれないわね」

「もう、何が何だか分からないよね」

 ソニアは自分で発した言葉に、頭を混乱させる。

「でも、そう考えるとこの魔術書を守り抜くって言葉、ちょっと物騒じゃない?」

 クララは、魔術書の言葉に不安を示す。セラは、クララの言葉から、その仮説にさらに付け足しをする。

「少なくとも、これを書いたソニアの次元では、何かしらのトラブルに巻き込まれているようね。そして、そのトラブルから逃れるために書いたとすれば、この魔術書は未来から送られて来た物ということね。その時代から無くせば良いという考えは、この魔術書はその時代において、この一冊のみという可能性が高い。もし、その時代においても使用者がソニアだけならば、もう誰にも取られる事はないということ。まさに、守り抜いたって訳ね」

 ソニアは、未来の自分がした行いに疑問をもつ。

「でも、それってさ、未来の私がしたとなると、ただスタートに戻って来ただけじゃない?」

 クララははっとして、奥付けの文章を指して言う。

「じゃあ、これってさ、そう言う事なんじゃない?」

「そう言う?」

 ソニアは首を傾げる。

「ここがスタートだから、過去のソニア頑張れって」

「未来のソニアは随分と強引なのね」

 セラは、淡々と突っ込む。

「よし、この仮説を本に僕達は動こう。未来のソニアがどんな状況にあるかは分からないが、今のソニアにそのトラブルが降りかかる可能性があるってことだ。大丈夫、今のソニアには、この僕が着いている。絶対に守ってみせるよ」

 ソニアは、アナスタシアの言葉を2人に伝えると、思いついたかの様に提案する。

「ちょっとさ、もう一度時魔術、試してみようかな。もし、未来の自分がいるなら、面白そう」

「わぁ、見てみたい!」

「確かに見てみたいわね」

 クララは、無邪気に喜ぶ。セラもソニアの提案に同意する。

「私、この本そんなに開いたことないの。本当に何で寮にまで持って来たんだろう」

 そう、呟きながらソニアは魔術書のページをめくっていき、手を止める。

「あっ、これだ」

 ソニアの言葉に3人は魔術書を覗き込む。ソニアは、数十ページに及ぶ魔術の説明文から、核心となる箇所を読み上げる。

「サークルエンド……世界は時に縛られてはいない。未来、過去は平等に存在する。しかし、人間はこの呪縛からは逃れられない。但し、この魔術をもって、世界は繋がるだろう。以下に魔術陣、体内の魔力を時魔術に適応させ詠唱に至る術語を載せる」

「これが、ソニアがアナスタシアを呼び出した魔術……」

 クララが誰に言うともなく呟く。

「そう、過去に戻れたらなぁ、何て考えながら唱えてみたんだよね。その……勉強に疲れて」

 ソニアは、何の意図もなく唱えたことを恥ずかしそうに言う。

「では、唱えてみるね」

 ソニアは、魔術書を手に取り、部屋の少し開けたところまで行くと、魔術杖を取り出して魔術陣を描き詠唱を始める。

「終の唄、理は我らの枷、因果は我らを閉ざす檻。我はその円環を断ち、終わりと始まりの永遠を繋ぐ者」

 ソニアの魔術下手のため、その詠唱は非常にゆっくりだ。そうでもしないと、自分の詠唱に足る魔力を整えられない。3人はやきもきしながら、その詠唱を聞く。

「世界に等しき時を流し、幾千の因果を越え、閉ざされし時に、手を差し伸べん。理よ沈黙せよ、因果よ裂けよ、重なりし円環のその終端をここに示す。我が名はソニア・エヴァークレスト。解き放つ――サークルエンド!」

 皆、ソニアが魔術を唱えたことは分かった。しかし、棚の本がぱたりと倒れた以外は何も変化を感じなかった。

「……何も起きないわね」

 セラは辺りを見回しながら、何かしらの変化を探る。

「気にしないで、ソニア。時魔術なんて、そう何度も成功しないよ」

 クララはソニアを庇う。

「そうだよね。でも……」

「でも?」

 2人はソニアに続きを尋ねる。

「でも、今、何となくだけど……時魔術、使えたような気もしたんだよね……」

 ソニアは魔法杖をくるくると回しながら、自分の手応えと現実の違いを不思議に感じている。

「ふむ、そうなるとこの部屋以外で変化があると言うことかい?」

 アナスタシアは、疑問を投げかける。

「いや、この最高難度の魔術が、今のソニア魔力で広範囲に働きかけるのは考え難いわ」

 セラはアナスタシアの疑問を否定する。

「何よそれぇ、セラは言い方が直球なのよ」

 ソニアは、頬を膨らませ怒る。クララは、目を丸くしてアナスタシアを見ている。

「まぁ、いいじゃないか。直球の方が話は早い。しかし、この部屋の範囲に限るとしたら、何も変化は見られないな」

「まさか、ここの本が増えてたりしてね」

 セラは笑いながら冗談を言う。

「それバカにしてるでしょう!」

「あの……」

 クララが手を挙げている。

「何?クララ」

 ソニアはクララに尋ねる。アナスタシアとセラも振り向く。クララが指差す先には、アナスタシアがいる。

「何だい?僕に何か付いているのかい?」

 アナスタシアは、ヒヨコながら自分の体を見回す。

「聞こえる」

「はい?」

 クララの言葉を、3人は理解が出来ずに頭を傾げている。

「聞こえるのよ。アナスタシアの声が、聞こえるの」

 ソニアとセラはアナスタシアを見る。

「…………」

 アナスタシアは話が聞こえていたことに、急に照れてもじもじしている。

「ちょっと、喋ってよ!」

 ソニアは、普段のアナスタシアに似つかわしくない行動に突っ込む。

「いやあ、いざ喋れと注目されると、照れるもんだね」

「本当だわ!全く気付かなかったわ」

 セラはアナスタシアを取り上げて、まじまじと見る。

「すごい!これ時魔術が成功したってことじゃない?」

 ソニアは、ぴょんと跳ねて喜びを表す。

「効果は何ともぱっとしないが、ソニアには時魔術の才能があるようだね」

「でも、どういうことかしら」

 クララはメガネを直しながら、掴まれたアナスタシアを見る。

「うーん、ソニアは幾つもある次元を繋いで僕を呼んだ。今までは僕とソニアだけが繋がっていて、ソニアに変わった時は皆とも話す事ができた。だけど、またソニアが時魔術を使った事で、ここに居る2人とも繋がる事ができたのだろうか?」

 アナスタシアも時魔法は使えなかったため、はっきりとせず疑問を呈している。

「あの……すみません」

 急に話しかけられて、ソニア達は声がした方に振り向く。そこには、先程案内を受けた受付の女性が覗き込むかのような様子で立っていた。

「あら、もう時間かしら」

 セラは、受付の女性に聞く。

「い、いえ、セラ様。大変申し上げ難いのですが、館内での魔術の使用はお控えいただきたく……」

「あっ、ごめんなさい!」

 ソニアは、自分のした行為を恥ずかしそうに謝る。

「申し訳ない。みんな、ここで調べられる事は調べわ。そろそろ行きましょう」

 セラも頭を下げて謝る。そして、受付に先導され大図書館の入り口までくる。

「アル・ヘレナまで来たけど、答えは以外と近くにあったわね」

 セラは大図書館と見上げながら、ため息混じりに言う。

「まさか、これが世界に一つだけの魔術書だったとは……」

 ソニアは手に抱える魔術書を見る。

「まぁ、ピヨちゃんの声が聞こえるようになっただけでも、ここにきた甲斐があったよ」

 クララは、ソニアの肩をぽんぽんと叩く。すると、その直ぐ後ろのフードからヒヨコのアナスタシアがぴょんと出てくる。

「さぁ、もう用事は終わったのだろう?せっかくアル・ヘレナに来たんだ、みんなで観光と行こうじゃないか!」

 ぴょこぴょこと意気込んでいるアナスタシアを見て、ソニア達は顔を見合わせる。

「よく喋るわね、このヒヨコ」

 セラは率直な感想を述べる。

「でしょう、これで100歳以上なんて驚きだよね」

「楽しいことに、歳なんて関係ないだろう?」

 アナスタシアは、早く観光をしたくてうずうずしているようだ。

「そうね、じゃあ今日はいっぱい遊んじゃおう!」

 ソニアとクララも楽しみにしていたので、吝かではないようだ。

 4人、特にセラ以外は大はしゃぎでアル・ヘレナを観光した。それは、明日からのドラゴンタイプ討伐のプレッシャーからの逃避もあるのだろう、アナスタシアを除いて。大図書館を後にする騒がしい4人を、司書は静かに見守っていた。

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