第六話②『魂の魔術』
腕輪を起動し大人二人分の大きさがある布を取り出して地面に広げて座り、魔力回復用のポーションを幾つか召喚して傍に置いておき、新たに魔法陣を展開して反魔術の作成を始める。
「…………」
リタが無言で隣に横になっては、二回三回と転がっては脚にぶつかってくる。
「なんだ眠いのか」
「つかれた」
そんな激しい行動はしてないように見えたが、空を飛ぶのとキメラに指令を送るのは結構体力を消耗するんだろうか。
「時間ちょっとかかるし寝ててもいいぞ」
「すぅ……」
「いや早ええな」
キメラが体調を崩すかは知らないが、一応はと毛布を召喚して被せておく。
「枕は俺が普段使ってる奴だしな……、浄化すりゃいいか」
枕を召喚し人間用ではなく道具用の浄化魔術を施し、リタを起こさない様に頭を持ち上げて枕を滑り込ませる。
中身は間違いなくキメラなんだろうが、肉体は普通の子供そのものだろうか。
「よし完成」
対キメラ用の反魔術第一弾が組み上がった。
第一弾というのは今後もキメラが出てくる中で、使われる合成魔術も変化していくのを予測しての事だ。
魔力回復薬を半分飲み、消耗した魔力を回復しておく。
「腹が満たされないのは良いのか悪いのか」
魔力回復薬は体力や傷を治す普通の回復薬と同じく薬草を素材にした物だが、後者とは違い体内に取り込まれとすぐさま魔力に変換されていく。
その為、幾ら飲もうとも腹が満たされる事はなく、喉の渇きが潤う事もない、だからこそ無限に飲めるってうのもあるが。
腕輪から新たに大袋を召喚し、中を開いて果実を二つ取り出して水属性の魔術で洗い流す。
さらに水球を発生させて空中に固定し、果実を一つ閉じ込めておく。
果実を口元に運び齧れば小気味いい音がなり、口内に甘味と酸味が広がっていく。
「うま」
果実で軽い空腹と喉の渇きを癒しながら、騎士団時代に遊びで作った空間魔術を起動してみる。
これは暇な時間に少しずつ作り上げた魔術で、効果は手の平ぐらいの小さな結界を作り出しそこに全属性の魔術をぶち込むことで、疑似的な世界を作り出せないかと考えた物だ。
どうにか世界っぽいのを作り出す事には成功したものの、腕輪とはちがい食材みたいな柔らかい物を入れると粒子状に刻まれるという、地獄みたいな空間になってしまった。
「あれ?これ入れっぱだったのか」
作り出された空間の中をよく見ると、青い宝石が付いた指輪が入っていた。
魔術を操作すると、中に入っていた指輪が手の平の上に転がる。
「そういや後で直そうと思って忘れてたな」
これはシアンにあげた首飾りと同じく見た目が気に入ったって理由で買った物で、特に魔術的な効果は付与されていない。
輪の部分の金具が千切れていて嵌める事は出来ないが、加工し直してやれば首飾りの代わりにはなりそうだ。
「……そういや、宝石の輝きに魂が囚われるって御伽噺があったっけな」
前に貴族の子供の護衛任務を任された時に読んでと強請られた事がある、内容は宝石の輝きに魅せられた者達が奪い合い、最終的に邪神が復活するというとんでも内容だった。
「魂、魂か……、そういやアレ」
街の魔導商店で貰った本の事を腕輪から召喚し適当に開いてみる。
中に書かれていたのは魂に関連した魔術の呪文や扱い方など、もしかするとキメラの魂をどこかに移す方法が載っているかもしれない。
本を捲り続けていると、今の状況に相応しそうな魔術を見つけた。
「魂を物質に閉じ込め、対象の肉体を手に入れる……、入れ物は宝石じゃないと駄目なのか」
この指輪を入れ物としてキメラの魂を保護しておき、別の肉体が用意が出来た際に移し替える、今出来る最良と言える選択はこれぐらいか。
「まずは魂を入れられるように指輪に魔術を刻むんだな?」
魂を取り出す前に、その魂を保護しておく空間を作る必要があり、それ用の魔術をまずは覚える必要がある。
「てかこれ、空間魔術の初歩的な奴じゃねえか……?」
如何にもな怪しい店だったが、もしかした大当たりだったのかもしれない、まあ使ってみない事には判断できないが。
「当然のように基本の全属性は要求されんだな」
全属性が使える事を亡き両親に感謝しつつ、それぞれの魔力を使って魔法陣を描いていく。
「光も闇も無きゃだめってのは、相当使い手が限られるな」
まず開発者に俺とブライト、他にも騎士団には全属性が使える奴は居たらしいが生憎と面識は無い。
今回は俺だけでも大丈夫だが、いずれはブライトの手を借りる事もありそうだ。
魔導書を参考に魔法陣を描いていると、隣から腹の鳴る音が聞こえた。
「お腹すいた……」
水球から果実を落として掴み、水気を弾いてからリタに手渡す。
「今はこれ食べてな」
昨日会った時の事を考えればこれだけじゃ足りないだろうが、一個づつ食べさせていれば空腹は紛れるだろう。
「あまい」
「気に入ったか?」
「もぐもぐ」
咀嚼に熱中してるのは、気に入ったという返事だと受け取っておこう。
さらに果実を二つ取り出して水球の中に閉じ込めておく。
「まだ沢山あるからゆっくり食べな」
一口が小さいお陰か、食べるのが遅めなのは楽でいい。
「さて、指輪はこれで良いとしてだ、次は魂が見えるようにする魔術か」
この魔術は全属性では無いが、光と闇の魔力が要求されるようだ。
「魂か、あるってのは知ってるが実際見た事ないんだよな」
通常は人や魔物の魂が目に映る事は無いが、魂が魔物化すると見えるようにはなる。
あくまで見えるのは魔物化した魂であって、魔物の魂では無いってのがまたややこしい所だ。
「そういやコレが効くって事は他の魔術も通るのか?」
効くからって何かをするつもりは無いが、いざって時には役に立つかもしれない。
「おし完成」
魂を直視出来るように魔術の方は簡単に完成した、後は魂を掴まえて閉じ込める為の魔術だがこれは闇属性だけで良いらしい。
「闇属性の魔力なら魂にも接触できるかのか」
魂を捕まえる為の魔術が全てが完成した訳だが、実際にやる前に少し試してみよう。
「まずは、『ヴィデレ・アニムス』」
魔術を起動すると世界が白と黒の世界に染まっていき、青い炎のような何かが周囲に無数に表れた。
大小は様々だが、これは身体の大きさに寄る物か、それとも魔力量によって変わるんだろうか。
「あのでかいのいってみるか、『プライシディ・アーム』」
地面から伸びた影のような形容しがたい何かが、空中に浮かぶ中でも一際大きな魂を捕らえた。
すると、周りに浮かんでいた魂達がゆっくりとだが離れていった。
「逃げてる?魂になっても意志は残るのか?」
腕が持ってきた魂の前で指輪を翳し魔術を起動する。
「『エレクシオ・エクスルクルード』」
宝石の前に現れた魔法陣へ、影の腕が掴んでいる魂を押し付け始めた。
「結構強引だな……」
抵抗してるの激しく燃え上がるが、ゆっくりと全体が呑み込まれていった。
そして、魔法陣にある八つの円の一つに捕まえた魂が浮かび上がった。
「これは八個分の魂が入るって事だよな」
それならばキメラの魂を全て納める事が出来そうだ。
闇の魔力を纏わせた右腕で魔法陣の魂に触れると、囚われていた魂が飛び出し離れていった。
「よし、じゃあやってくか」
「リュート」
いざ取り掛かろうとした所でリタに腕を掴まれた。
「どうした」
「誰かくる」
魂を見る魔術を解除しリタが指差す方を見ると、バラけた格好に思い思いの装備を身に着けた一団が近づいて来ていた。
「単なる村人、にしては装備が整ってるし違うよな」
服装からして騎士では無い事は明らかだが、身綺麗な所からして盗賊って訳でも無い、つまりは。
「そこの君、少し話を聞きたいのだが良いだろうか」
肌の露出した所にお揃いの印がある所からして。
「……まあギルドだよな」




