第六話『ドラゴン?』
「奇遇だな」
「そうですね、またご一緒出来るとは思っていませんでした」
傭兵団のある街へ向かう馬車の中で、アヴェリアと偶然の再開を果たした。
「あの後は大丈夫だったか?」
「心配してくれるんですね、伝手を頼って護衛をつけて頂いたので安全に旅が出来ていますよ」
「てことは、さっきからやたら見てくるお二人さんは護衛か」
そんなことを言ってやると、アヴェリアの両隣が知らん顔をして視線をどこかに向けてしまった。
「俺が何かするってことは無いから安心してくれよ」
浅黒い肌の大男と、線は細いが背の高い男がアヴェリアを挟むようにして座っている、武器を持ってない所からしてボクスマギア持ちか魔術主体で戦うかのどっちかだろう。
「そちらの方は妹さんでしょうか、仲がよろしいんですね」
肩に頭を乗せて眠っているリタを見てフードの下で微笑むアヴェリア。
「まあな、そっくりだろ?」
「はい、目が二つある所がよく似ていると思います」
「はっは、言うね」
意外と冗談は言えるらしい、相変わらず顔は隠れて見えないが大体の人柄は分かって来た。
肩に感じていた重みが消え、隣を見るとリタが目を擦りながら外を眺め始めた。
「なんか見えるか」
「近づいて来てる」
視線の先にはまだ何も見えないが、リタが感知したという事はキメラが来てるってことなんだろう。
「数は分かるか?」
「いち」
キメラ一体が馬車に迫ってるか、地図を見る限り次の街まではまだ半分以上ある。
「どうかされましたか?」
「ちょっとお友達が来るみたいでな」
キメラの個体がどんなもんか分からないが、どうせなら逆に利用させてもらおう。
「なにかお手伝いは必要でしょうか」
「いいや、俺達だけで十分だ」
馬車に乗ってる面子の実力も素性も知らない以上、支援の期待は出来ない。
最悪馬車以外でも移動が出来ない事も無いし、変に巻き込むよりはこの辺りで降りた方が良いか。
地図をしまって馬車の扉を開く。
「おいあんた!何してんだ!」
「途中下車するだけだから気にすんな、リタこっち来い」
近寄って来たリタを抱えて馬車から飛び、土属性の魔術を使って小さな岩を出現させ空中に固定し、それを次々と足場にして地面に着地する。
「どっちから来るか分かるか」
「あっち」
「あっちだな……って村の方角じゃねえか!『ウィンドシェル』!『アースガンド』!」
二つの魔術を起動し、風の防護壁リタも含めて纏い、地面から伸びた岩の巨腕に飛び乗る。
「しっかりと捕まってろよ……!」
「うん」
リタが身体にしがみ付いてから、巨腕を操作してキメラが向かって来ている方向へ投げ飛ばさせる。
「わああ……」
「面白いだろこの景色」
流れるように景色が視界の中を流れていく。
当然この速度で空を駆けるという事は途轍もない風圧に襲われるが、風の防護壁を身に纏う事でそれを防ぐ。
「もっと速度を上げるぞ?『ヴェント・アクセレート』!」
さらに風属性の魔術を起動する事で強い突風を発生させる事で、背中側に追い風を受けさらに高く舞い上がり、速度と飛距離が伸びていく。
「村はっと……、あれか」
遠くの方に木の柵で囲まれた建物達を見つけた、さらにその奥の方で大きな土煙を上げて地上を爆走する何かも見えた。
「まさかあのまま突き進む気じゃねえよな……」
「わたしも飛ぶ」
「あっ、おい!」
リタが急に暴れて離れると、そのまま落下し始める。
落ちていく背中を追いかけようとするその瞬間、長く黒い翼が広がり彼女の身体を空高く持ち上げた。
「お前飛べんのか……、ならもっと速度上げるぞ!」
「……」
返事は聞こえないが頷いたって事で、魔術の出力を更に上げて一気に加速する。
森を越え村をい越えていくと、土煙を上げる奴の全体が見えて来た。
「ドラゴンなわけねえよな……、リタ!アイツの動き止められるか!」
飛んで行ったリタを見ながら地面に着地し、腕輪から背丈ほどある召喚し魔術を展開し奴に備える。
「村の近くで戦闘は起こしたくない、頼んだぞリタ」
————
リュートの頭上を飛び越し、地面を砕きながら突き進む四足の竜の元へ翼を羽ばたかせるリタ。
『グアアアアア!』
その影に反応した巨大な竜は首を持ち上げると、大きく顎を開きリタを噛み砕かんと迫る。
「『止まって』」
『!』
彼女が言葉を発した言葉が竜へと届いた瞬間、身体中の細胞がその動きを止める事に切り替えた。
そして走っていた勢いのまま身体の動きが停止した結果、全体の体勢を崩し地面に倒れ込んだ。
リタは暫くその場でそれを見下ろしたまま制止すると、竜の元へ走って来たリュートの傍に舞い降りた。
「よくやったな」
リュートはリタの頭に軽く手を乗せて通り過ぎると、倒れ伏した竜の元へ近づいていく。
「やっぱドラゴンじゃないな、複数の魔物使って無理矢理型に押し込めたって感じか」
鱗では無いが硬い皮膚に触れ調査を始めるリュートの傍で、リタは触れられた自分の頭に手を当て背中をじっと見つめていた。
———
「分かりやすく表面に魔法陣でも刻んでくれたら楽なんだがな」
キメラに危害が及ばない様に、なるべくゆっくりな速度で魔力を流し込んでいく。
「色んな魔力が調整せずに詰め込まれた感じか、そりゃ寿命が短い訳だ」
魔力は生物によって様々な性質をしており、通常のままで反発しあって決して混ざり合う事は無い。
だからこそ街でブライトの魔力を受け取った時のように自分の魔力として変換するんだが、人間同士とは違って種族が違うと手間がかかるんだろうか。
「お宝発見」
キメラの丁度心臓辺りに魔力が引っ張られているような箇所見つけた、浸透させた魔力を操りそれに触れさせてみるが、やはりというべきか保護の魔術が仕掛けられていた。
「意外と簡易的だな、こんなの簡単に壊されそうだが」
キメラの身体が巨大だから中には触れられないとでも考えたのかは知らないが、魔法陣に仕掛けられた魔術は衝撃から守る程度の物だけだった。
闇の魔力をゆっくりと浸透させ、防護の部分を削り取る。
「よし、まずは解析っと」
さらに魔力を送り魔法陣全体を闇の包み込こんで読みとっては、キメラの体外に同じ形の魔法陣を描いていく。
「結構杜撰だな」
恐らく元にされている魔法陣は主に薬草などの道具に使われている物で、それを弄ってキメラを作り出す合成魔術としたんだろう。
「全く新しく作り出すとかはしないんだな、まだ研究段階って可能性もあるか」
逆に言ってしまえば今の段階の合成魔術であれば、簡単に反魔術を作り出すことが出来る。
「つっても、ただ作るだけじゃ単に殺すのと変わらないよな」
これに関しては俺の偽善でしかないが、もし今後も戦う事があるとしても、助けられるなら出来るだけそうしてやりたい。
「お前だけ助けるってのもな」
「たすける?」
近くに来ていたリタが裾を掴み、上目で見上げてくる。
「ああ、人間に勝手に作り出されてこのまま終わらされるってのは可哀相だろ?これも俺の勝手でしかないんだけどな」
リタの頭を撫でながらどうするべきかを考える。
「とはいえ新たに肉体を作り出すのは俺の領分じゃないしどうすっか」
魂を定着させる肉体を作り出すのはもはや錬金術師の分野だ、魔術ならそこらの奴よりは上手い自信はあるがそっちは軽く勉強した程度でしかない。
「くすぐったい……」
もしくは空間魔術を使って魂を別に移すなら、一時的な保護は出来るかもしれない。
「空間魔術か、作った事はあるが……」
といっても子供騙し程度の物でしかなく、命が係わってる今回に関してはとても使おうとは思えない。
「取り敢えず反魔術作ってからどうするか決めるか」




