第六話③『謎の両翼』
「どうした?」
聞こえていたらしい。
「いや、話はなんだって聞いたんだよ」
人数は七人、武器は剣が二人に槍が一人、弓が二人に魔術師っぽいのが二人と。
「君はこの魔物について何か知っているか?」
中々いい感じの編成だとは思うが、相手にするとしたら面倒だな。
「俺もついさっき出会ったばかりなんだよ、今は調べてる真っ最中でさ」
「ほう、それで何か分かったのか?」
こいつ冷静な顔して結構ぐいぐい来るな。
「いいや、さっぱりだな」
まあ教えてやる義理はないが。
「こんな魔物初めて見ました……」
眼鏡を掛けた魔術師の女がキメラの鼻先に近づいていく。
「こいつまだ生きてるから近づかない方がいいぞ」
「……へ?」
「危ない!」
「『テネブラエズ・コフィニア』」
熱光が集まり出したキメラの口に対して闇の魔術を起動する。
闇の魔力はキメラの口を包み込むと箱のような形状になり、熱や光や魔力を奪っていく。
「アンタ魔物には無暗に近づくなていつも言ってるでしょ!」
「ご、ごめんなさいいいいい!」
弓使いの女に怒られて落ち込んだのか、魔術師は後ろに下がってしゃがみ込んでしまった。
「お礼ぐらい言いなさいよまったく……」
個人の練度はそこまで高くは無さそうだし、そこまで警戒はしなくてもいいか。
「この魔物はどうするつもりだ?」
「調査が終わり次第殺す、村には行かせないし安心してくれ」
キメラだの魂を解放するだのは無関係な奴に言う事でも無いし、適当に誤魔化すか。
「……ならばいい、皆行くぞ」
「え?いいんすか?」
頑固そうに見えたが、意外と話が分かる奴らしい。
「この巨体を止められるならば任せても大丈夫だろう」
「そう言うなら従いますけど……」
騎士団程じゃ無いが、やっぱりギルドも上には従うみたいな感じなんだろう。
「ちょっと待った」
「どうした」
「そこに居るのもちゃんと持って帰ってくれよ」
魔術師は何がそんなに効いたのかしらないが、未だに地面の草を弄っている。
「……も、物扱いされた」
「シャキッとしなさい!ほら行くわよ!」
気の強そうな弓使いに立たされて連れて行かれてから、他の連中も村の方面へ歩いて行った。
視界からギルド員が完全に消えたのを確認してから立ち上がり、対キメラ用の魔術を準備する。
「客も帰ったし早速やるか」
「ころす?」
「殺さないさ、こいつらには俺の勝手で生きてもらう」
それなりの時間は待ってもらう事になるだろうが。
「さて」
左手の上で緑に光る反魔術の魔法陣を展開する
「『目覚めよ、逆巻く円環よ』」
完成させた魔術を纏わせた拳をキメラに打ち込むと、その背中から赤く巨大な魔法陣が飛び出し砕け散った。
「『ヴィデレ・アニムス』」
再び世界が白黒の風景に変わると、キメラの身体から六つの魂が飛び出していくのが見えた。
「『プライシディ・アーム』『エレクシオ・エクスルード』」
飛び出した魂を影の腕で掴み、指輪の前に現れた魔法陣の中に押し込んでいく。
「リタ、周りは何か変わったか?」
リタは首を横に振る。
「てことは俺にしか見えてないのか」
便利ではある反面、相手に使われると厄介そうだ、対抗用の魔術もあるだろうし後で本を熟読しておこう。
指輪に魂が全て入りきってから魔術を解除し、抜け殻となったキメラに触れるとすっかり冷たくなっていた。
「錬金術師は肉体を作る際に死体を使う事もあるらしいが……」
腕輪を起動し収納する対象にキメラの亡骸を選ぶと、全体が光に包まれ腕輪の中へ吸い込まれていく。
空間魔術は全てが止まった世界に物質を移す性質もあってか、生きた存在を対象にする事は出来ないが、こういった亡骸であれば維持したまま保存する事が出来る。
いずれは空間魔術を用いた生物の長距離移動も可能になるらしいが、少なくともその第一実験体になるのはごめんだ。
「よし、出発するか」
「うん」
やるべき事は一先ず決まった、まずは傭兵団の見学を終えてからリタを人間に戻す、そしてキメラの魂達の新しい拠り所を探す。
「とびたい」
「そうだな……、まだだいぶ距離あるし、中間の街まで一気にぶっ飛んじゃうか」
騎士をクビになった時はこれからどうするかなんて考えてたが、意外と人は暇になれないのかもな。
まあ、喜ぶべき状況じゃ無いんだろうが。
「ほれ」
「ん」
「しっかり捕まってろよ、『ウィンド・シェル』『アース・ガンド』、長い空の旅の旅をお楽しみくださいってな」
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「チッ、面倒な奴が連れてやがんな」
リュート達を放り投げた巨腕の傍に、赤が混じった白い長髪の男が着地し悪態を付いた。
その後方に距離を取るようにして、緑が混じった白髪の少女がゆっくりと地面に着地する。
「あっさり片付けられちゃったね、死体も持ってかれちゃったけどどうするの?」
「顔は覚えてんだからなんの問題もねえよ」
長髪の男は苛立ちを募らせた口調で吐き捨てると、背中から赤い翼を伸ばし広げた。
「ケッ、さっさとぶち殺して捕まえちまえばいいのによ」
「それは同感、私も早く戦いたいのに」
少女は同調しながら退屈そうに欠伸をしながら、背中から緑の翼を広げ羽ばたいた。
「はあ、見てるだけならお家でお菓子を食べていたいわ……」
人間には無い両翼を持った二人組は一瞬で空高く舞い上がり、どこかへと飛び去って行くのだった。




