第90話:その魔王は深淵を割る神話を組み上げる。~兵器の粋を退ける智謀~
【前回までのあらすじ】
マクマリスとララノアは、ガイアス王国の第一ドックで建造が進む『潜水艇』と対面する。
ガスピ湖の耐圧鉱石を用い、ステルス迷彩を備えた漆黒の巨大な船体は、深海一万メートルへ到達できる人類の希望の結晶だった。しかし喜んだのも束の間、ヘギルの口から「水圧に耐えられる潜水服がないため、船外に出て敵の母船に突入できない」という致命的な欠陥が告げられる。
敵の懐まで到達できても中に入れないという、八方塞がりの絶望。果たして、天才たちはこの究極の難題をどう突破するのか――!?
「だからな、このエアロック部屋を使うのはやめたんだ」
ヘギルが明るい声を出して空気を変えようとする。
「代わりに『対水圧・対質量』兵器を大量に搭載することにした。敵の船を見つけたら、外からドカンと風穴を開ける。これで敵の船は水圧でペシャンコよ」
ガイアス王が別の図面を広げる。
「深海では火薬や炎の魔法が使えないから、主砲は『超高圧水流ビーム』にした。海底の岩盤すら一撃でくり抜く威力がある」
「名付けて『海神の槍』!」
ヘギルがポーズを決める。
「もう一つの武装は、弾頭に『雷の魔石』を搭載した魚雷だ。着弾と同時に周囲の海水を電気分解し、強力な爆発と感電を引き起こすことができる」
「音響追尾式の魔導魚雷なんだが、こっちのネーミングはまだ決まっていない」
「万が一、敵に気づかれ攻撃を受けた時のために、防御も考えてある。敵の攻撃を感知すると、自動的に船体の周囲に『真空の壁』を展開し、衝撃波を無効化できる装備だ」
「名付けて『反響結界』!」
次々と得意げに披露される兵器群。
しかし、マクマリスの表情は晴れなかった。
「……大層なものを作ってくれたようだが、外からの破壊は確実性に欠ける」
「なんでだ?」
ヘギルが不満そうに口を尖らせる。
「深海ってのは宇宙と同じだぜ。壁一枚向こうは即死の世界だ。海神の槍で水漏れ一発食らわせれば、中はお陀仏だろうが」
「だからこそよ」
すかさずララノアが反論した。
「船の損傷した部分を瞬時に隔離する『隔壁ドア』を、何重にも用意していると見た方がいいと思うわ。船の大きさ次第ではあるけど、外からの局地的な攻撃で破壊しきれるとは考えにくい」
「その通りだ」
マクマリスが頷く。
「前回の戦いでは、十万を超える大群が一斉に現れた。それらをすべて収容する母船だ。……都市一つ分くらいの大きさがあると想定すべきだろう」
「と、都市一つ分だと……!?」
ガイアス王の顔から血の気が引いた。
「宇宙から飛来するくらいだから、外殻の装甲も相当分厚いはずよ」
ララノアが眼鏡を光らせて続ける。
「中途半端な攻撃で敵を目覚めさせでもしたら、頭脳となる高度な処理システムの破壊も困難になりかねないわ」
息の合う掛け合いを続ける魔王と秘書官。
マクマリスは、巨大な潜水艇を見上げた。
「……だが、船である以上、必ず『心臓部』があるはずだ」
「動力炉ね!」
ララノアがポンと手を打つ。
「中に入って、それを直接叩くのが、最も確実な破壊方法だわ」
「おいおいおい、ちょっと待てって」
置いてけぼりになったヘギルが、両手を振って割って入った。
「お前ら二人の息が合ってるのは十分すぎるくらい伝わったけどよ。さっきから言ってるだろ、潜水艇の外に出られないってのに、どうやって敵船の中に入って動力炉を破壊する気だよ!」
ヘギルのもっともな指摘に、重い沈黙が流れた。
潜水艇を工事する金属音と、作業員たちの遠い声だけがドックに響く。
しばらくの後。
ララノアが、静かに沈黙を破った。
「……ディネルース様なら、いけるかもしれない」
「ディネルースだぁ?」
「そう。ディネルース様と、水竜レヴィアタンが力を合わせれば……『海を割れる』かもしれない」
「海を割る!?」
ヘギルの咥えていた葉巻がポロリと落ちた。
「あ、あいつはそんな神がかったことができるのかよ!」
「ディネルース様に確認してみないと分からないけど……彼女の空間魔法と水竜の魔力なら、理論上は」
「仮に可能であれば、敵の母船が露出する」
マクマリスの脳内に、明確な作戦図が描き出されていく。
「海底が露出した状態になれば、水圧の問題はクリアできる。アルゴスを使って、兵士たちを直接母船の上に輸送することが可能になるな」
「だけどよ!」
ヘギルが叫ぶ。
「海を割って近くまで行ったからって、敵さんが『いらっしゃいませ』ってドアを開けてくれるわけないだろ? ……あっ! 分かったぞ! そこで俺の『海神の槍』の出番ってことだな! 分厚い装甲に風穴を開けてやるぜ!」
「いや、それはやめておこう」
マクマリスが即答した。
「いや、なんでだよ!」
「なるべく敵に、こっちの動きを気取られたくない」
マクマリスは冷静に告げた。
「船体に取り付けば、主砲で派手に穴を開けずとも、私の『空間転移魔法』で船内に直接移動できる」
「あ……確かに、それなら気づかれることなく、中に入れるわね」
ララノアが感心したように頷く。
「ああ。感知される前に動力炉を破壊してしまえば、奴らが進化する前に、頭脳を含めて一網打尽にできるはずだ。……完璧な奇襲になる」
「いける……。道筋が見えてきたわね」
「どちらにせよ、泡を消すステルスの件も含め、一度ディネルースに確認が必要だ」
マクマリスはガイアス王に向き直った。
「ガイアス王、この潜水艇はもう動かせるのか?」
「いや、まだだな。八割程度の完成度といったところか。調整に少し時間がかかる」
「よし、引き続き作業を進めてくれ。アルゴスの四番艦、五番艦の建造はどうなっている?」
「アルゴス四番艦の建造は隣の第二ドックで進めている。五番艦は四番艦が終わってからになるな」
「分かった。アルゴスの方も引き続き頼む。……対空機関砲の搭載も忘れないでくれよ」
「承知した。抜かりはない」
マクマリスは、落ちた葉巻を拾い上げているヘギルに視線を移した。
「魔導鎧についての進捗はどうだ?」
「ああ、あれか。王立研究所に場所を借りて、俺とララノアで開発を進めてる。結構いいところまでいってるぜ。……ついてきてくれ」
ヘギルに連れられ、マクマリスとララノアは、決戦への希望を宿した第一ドックを後にした。
【次回の予告】
「エルフの『知』とドワーフの『剛』が悪魔合体! ロマンの塊『ギガント・ギア』起動!」
ヘギルの大雑把な設計にダメ出しを連発するララノア。しかし、マクマリスの「君の完璧な数式があれば前線でも安心だ」という見事な殺し文句に絆され、頬を染めながら徹夜の計算を引き受けてしまう!
そんな微笑ましいやり取りを経て一行の前に姿を現したのは、対・機械生命体用の強化外骨格『ギガント・ギア』!
魔力カートリッジによる『吸魔駆動』と、皮膚から電気信号を読み取る『疑似神経接続』を搭載。重厚な装甲でありながら自身の皮膚のように俊敏に動き、「生身で水晶の化け物を殴り倒す」という、男のロマンと圧倒的な実用性を兼ね備えた決戦兵器が遂にベールを脱ぐ――!
強化外骨格ギガント・ギアと、完璧な数式。
第91話は、明日の21時40分更新です!
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