第89話:その天才たちは深淵を覗く鋼鉄の箱舟を産み落とす。~結集した魔導の叡智~
【前回までのあらすじ】
魔界の反乱分子を完全鎮圧し、エスペル島へ帰還したマクマリス。しかし休む間もなく彼を出迎えたのは、留守の間に飛行艇の増産や兵站管理を完璧に進めていた「超・有能な秘書官」ララノアだった!
容赦なく給料アップを要求し、次なる視察へと魔王の尻を叩く彼女のペースに、絶対的な権力を持つマクマリスもタジタジに。
至福のコーヒー『ミッドナイトブレンド』と共に微笑ましいやり取りを交わした二人は、いよいよ機械生命体の母船捜索の切り札である『潜水艇』が待つガイアスの第一ドックへと向かう――!
マクマリスはララノアの先導のもと、ガイアス王国の第一ドックを訪れていた。
ドック内に足を踏み入れた瞬間、マクマリスの冷徹な目が見開かれた。
そこには、天井を支える巨大なクレーン群の下で、異様な威圧感を放つ『鋼鉄の塊』が鎮座していた。
「どうだ、魔王殿。こいつが俺とガイアス王、そしてあんたの自慢の秘書官様との自信作だ」
出迎えたヘギルが、誇らしげに黒光りする船体をドンと叩いた。
飛空艇『アルゴス』で大陸のガスピ湖から運び込んだ、青白く光る耐圧鉱石を全面装甲に用いた、有人潜水艇の試作一号機である。
「全長は百二十メートル。強度は折り紙付きだ。これなら深海の底でもペシャンコにはならん。スペック上の潜航深度は……驚きの深海一万メートルよ」
ヘギルが葉巻を咥えたままニヤリと笑う。
「動力は『水流圧縮型・魔導炉』を使っている。取り込んだ海水を魔力で瞬時に『超高圧蒸気』へと変換し、スクリューを回す仕組みだ。エスペル島沿岸の海底をくまなく探索するには十分すぎる推力だろう」
「うむ。我が国の技術と、ヘギル殿のひらめきが完璧に融合した」
隣に立つガイアス王も、腕を組んで満足げに頷いた。
マクマリスは歩み寄り、冷たく滑らかな船体を撫でた。
「ほう……この表面に薄く刻まれている幾何学的な紋様はなんだ?」
「それは、ララノア殿が考案した『流体制御紋様』を刻印しているのだ」
ガイアス王が答えると、ララノアが片眼鏡のブリッジを押し上げて解説した。
「水流をあえて受け流さず、船体の周りに『水を固定』することで、船そのものを海の一部と誤認させるステルス迷彩機能よ。水流の乱れで感知されるのを防ぐの」
「敵さんは技術力が恐ろしく高い。つまり、ソナーなどの探知能力もべらぼうに高いと考えた方がいいからな」
ヘギルが腕を組む。
「なるほどな。大したものだ」
マクマリスは素直に称賛したが、すぐに鋭い視線を向けた。
「しかし、取り込んだ海水でスクリューを回すと言っていたな? 排出した水の泡の音で、結局は探知されるのではないか?」
「それもちゃんと考えてある」
ヘギルがドヤ顔で胸を張る。
「船尾から排出される泡を、ディネルースの空間魔法で即座に『消去』すれば、完全無音航行が可能よ」
「……ディネルースの許可は、取っているんだろうな?」
「いや、まだだ……」
ヘギルが急に目を泳がせた。
「だが、世界の危機だぜ? あの氷の女王様だって、話せばきっとやってくれるさ」
「だから、先に話を通した方がいいとは言ったのだけれど……」
ララノアが呆れたようにため息をつく。
「詰めが甘いぞ、ヘギル」
「すまねえ……」
マクマリスに睨まれ、天才ドワーフが小さくなった。
「……で、中はどうなっている?」
マクマリスが問うと、ガイアス王が大きな図面を広げた。
「これを見てくれ。船首にあるここが第一区画、ブリッジだ。深海の水圧に耐えるため窓はないが、外部の映像は、船体各所に設置した魔石カメラから魔法的に投影される『全天周囲モニター』で確認できるようにしてある」
「全天周囲モニターか。死角がなく、いい案だ」
マクマリスが頷く。
「続いて、ここが第二区画。居住区になる」
「酸素生成装置があるが、狭くて臭いぜ。常に金属とオゾンの匂いがする。居住性は最悪だ」
ヘギルが付け加えると、マクマリスは図面を指差して一蹴した。
「居住性は切り捨てても問題ない。深海でバカンスをするわけではないからな。……で、この部屋はなんだ?」
「ここは第三区画の射出デッキだ。敵母船に取り付いた際、突入部隊を送り出すためのエアロック構造になっている。この部屋だけ重力制御しているから、重い装備の着脱も容易だ」
「エアロックか……」
マクマリスが顎を撫でる。
「通常であれば、相手の船の入り口の形状を合わせて密閉し、ドッキングさせるんだが……相手は未知の宇宙からの機械生命体だ。規格が分からんから、まともな接続は不可能だろ?」
ヘギルが頭を掻いた。
「ただ、問題があってな……」
「なんだ?」
「水圧に耐えられる『潜水服』が作れていない」
「……船外に出られないということか?」
マクマリスの眉がピクリと動いた。
「それでは、潜水艇を開発したところで意味がないではないか。我々が中に入れなければ、どうやって敵を倒す?」
「無茶言うなよ!」
ヘギルが反論した。
「この潜水艇を一隻作るのだって、死ぬほど苦労したんだぞ? それを、人間の服のサイズに落とし込んで一万メートルの水圧に耐えさせるなんて、今の俺たちの技術じゃ到底無理だ」
「王立研究所の総力を挙げても、数年はかかりそうだ」
ガイアス王も申し訳なさそうに補足した。
八方塞がりだ。敵の母船を見つけても、中に入る手段がない。
マクマリスは険しい顔で黙り込んだ。
【次回の予告】
「深海の壁を打ち破る、天才たちの奇想天外な作戦会議!」
ガイアス王国のドックで、潜水艇に搭載された『海神の槍』などのロマンあふれる超兵器群が次々とお披露目される!
しかし、「都市一つ分」もあると予想される巨大な敵母船を外から攻撃するのは得策ではないと、マクマリスとララノアは息の合ったコンビネーションで即座に却下。
「では、どうやって水圧を突破して中に入るのか?」
行き詰まる議論の中、ララノアの口から飛び出したのは……「ディネルースと水竜レヴィアタンの力で『海を割る』」という、神話のような破天荒すぎる解決策だった!
海神の槍と、海を割る奇策。
第90話は、明日の21時40分更新です!
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