第87話:その魔王は狂熱の歓声に深淵の野望を隠す。~鎮圧された反乱の火種~
【前回までのあらすじ】
自身の根城である『魔界』へと帰還したマクマリスだったが、彼を待ち受けていたのは、人間との共闘に反発するアズモやベルゼブたち反乱分子の殺気立った出迎えだった。
一触即発の場を「極上の土産」を約束してやり過ごしたマクマリスは、アルフィリオンと共に自身の研究室へ向かう。そこで明かされた「土産」の正体……それは、氷の棺に眠る三百年前の厄災『先代魔王ガングダード』の肉体だった!
反乱分子を黙らせる絶対的な抑止力として、圧倒的な暴力を完全な傀儡として復活させる「禁断の儀式」が幕を開けた――!
ドァンッ!!
突如、研究室の重い扉を乱暴に蹴り開ける音がした。
マクマリスたちが振り返ると、アズモ、ベルゼブ、そして両派閥の凶悪な部下たちがこぞってなだれ込んできていた。全員の手には、物々しい武器が握られている。完全に反逆の意思表示だった。
「さぁ、マクマリス。俺たちを待たせたんだ。……我々が泣いて喜ぶ『土産』というものを、見せてもらおうか!」
ベルゼブが戦斧を肩に担ぎ、下卑た笑いを浮かべる。
「内容しだいでは、貴様も、そこにいるダークエルフともども、タダではおかんぞ」
アズモが殺気を放つ。
その殺伐とした状況で、アルフィリオンが「ククッ」とニヤついたのを見て、ベルゼブが激怒した。
「貴様! 何がおかしい!」
アルフィリオンはベルゼブを無視し、小声でマクマリスに囁いた。
「本当に大丈夫なんだろうな?」
「埋め込んだコアで、間違いなくガングダードの肉体は起動できるんだな?」
マクマリスも小声で最終確認をする。
「コアの接続は完璧だ。私が保証する」
「ならば、大船に乗ったつもりでいろ」
「貴様ら! 何をコソコソと喋ってやがる! 自分たちの置かれた状況を分かってるのか!」
アズモが怒号を上げた、その時。
「マクマリス様! これは何事ですか!」
騒ぎを聞きつけたマクマリス派の魔族たちも、武器を手に駆けつけてきた。研究室は一触即発の戦場と化した。
マクマリスは片手を高く挙げて、自派閥の部下たちを制止した。
「手出しは無用だ。彼らは、私が用意した『土産』を見に来ただけだ。何も心配はいらない」
そして、アズモとベルゼブに向けて、魔王としての威厳に満ちた声を放った。
「よく来てくれた。これから貴様らに、特別なショーをご覧いただく。……魔族らしくて、きっと気に入るはずだ」
マクマリスが、直立した巨大な氷の棺に手を触れる。
魔力を込め、研究室が揺れるほどの声で叫んだ。
「目覚めろ、破壊の化身よ! ガングダァァァードッ!!!」
その言葉に呼応するように、棺の内部から、地鳴りのような低い音が響き始めた。
『……ウ……オォォォォォッ!!』
それは、腹の底から絞り出されるような、紛れもない先代魔王の雄叫びだった。
異様な光景に、いきり立っていたアズモ・ベルゼブ派の魔族たちが、ざわつきながらジリジリと後ずさる。
「おい……今、ガングダードって言わなかったか……」
「馬鹿な、生きてるはずが……でも、今の雄叫び、聞いたことがあるぞ……!」
「う、動揺するな! 貴様ら、この程度の幻術で怖気つくな!」
アズモが部下を叱咤するが、その声も震えていた。
雄叫びがおさまり、一瞬の静寂の後。
パァンッ!!!
分厚い氷の棺が、内側からの凄まじい物理的な力によって粉々に砕け散った。
もうもうと舞い散る冷気の中から、四本の極太の腕を持つ巨体が姿を現す。
その虚ろな眼窩には、コアの魔力によって禍々しい紅い光が灯っていた。
「なっ……」
ベルゼブの戦斧が、手から滑り落ちて床に響いた。
「が、が、ガングダード様……!!!」
アズモが腰を抜かしそうになり、配下の魔族たちからは完全に戦意を喪失した悲鳴が上がった。
圧倒的な暴力の象徴を背に従え、マクマリスはアズモたちを冷ややかに見下ろした。
「土産は、この先代魔王ガングダードだ。……気に入ってもらえたのなら嬉しいが」
「ま、マクマリス……貴様が、この化け物を操っているのか……?」
アズモが、信じられないものを見る目で震える。
「そうだ。私の頼もしい『矛』であり『盾』でもある」
マクマリスはこれ見よがしに、ガングダードの太い腕をポンと叩いた。先代魔王は大人しく従っている。
「そういえば、武器を持ってどうした? まさか、うちのガングダードと遊びたいのか? 少しなら運動に付き合わせてやってもいいぞ」
「い、いや!」
ベルゼブが慌てて両手を振って否定した。
「土産がつまらなかった時のために持ってきたが……と、とてもいい土産だな、アズモよ!」
「あ、ああ! いいものを見せてもらった! さすがは我らの魔王マクマリスだ!」
アズモも必死に取り繕う。
「よし、貴様ら、引き上げるぞ! これ以上いたら、魔王様に失礼だ!」
ベルゼブが配下に怒鳴りつける。
「では、失礼する。何かあれば、いつでも言ってくれ!」
反逆者たちは、文字通り尻尾を巻いて、足早に研究室から逃げ出していった。
その滑稽な光景を見たアルフィリオンが、腹を抱えて大笑いした。
「クハハハハ! 見たか、あいつらの慌てぶりを! 滑稽極まりないな!」
「フン。これで魔界の内部抗争は抑え込める。後顧の憂いはなくなった。……礼を言うぞ、アルフィリオン」
「礼には及ばん。私の技術の証明にもなったからな。だが、もし魔界に良質な死体が余っているなら、よこせ。アンデッド兵にする」
「残念だが、私も死霊術師だ。魔界の手練れの死体は、すでに私が全てアンデッド化して自軍に組み込んでしまっている」
「チッ、同業者がいるとこれだから困る。まぁいい、エスペル島の骸で我慢してやる」
アルフィリオンは舌打ちをして、術具の片付けを始めた。
マクマリスは、状況を飲み込めずに呆然としている自派閥の魔族たちに向き直り、力強く宣言した。
「貴様たちには、不穏な空気の中で今まで苦労をかけた。……だが、絶対的な力を持つガングダードを使役した今、この魔界で我らに楯突くものはもう誰もいない。正真正銘、魔界は我らの物だ!」
「おおおおおっ!!」
「マクマリス様! 万歳!」
配下の魔族たちから、狂熱的な歓声が上がる。
歓喜の声に包まれながら、マクマリスは静かに背後のアルフィリオンを瞥見した。
(お前の『反魂の術』の知識も、やがて必ず私のものにする。……前回味わった無念を、この世界で晴らす!)
魔王の瞳の奥で、決して誰にも見せることのない、深淵よりも暗い決意が渦巻いていた。
【次回の予告】
「帰還した魔王を待っていたのは、有能すぎる『鬼の秘書官』!?」
魔界の反乱分子を鎮圧し、意気揚々とエスペル島へ帰還したマクマリス。しかし、息つく間もなく彼を待っていたのは、天才秘書官ララノアによる怒涛の業務報告だった!
ロイの奥義修得を見届け、飛行艇の増産から兵站の管理まで、留守の間に決戦の準備を完璧に押し進めていたララノア。容赦なく「給料アップ」を要求し、休む間もなく次の視察へと魔王の尻を叩く彼女の前に、絶対的な権力を持つマクマリスもタジタジに!?
極上のコーヒー『ミッドナイトブレンド』の香りと共に交わされる、最高司令官と美しき秘書官の、軽快でニヤリとしてしまう極上の会話劇!
有能な秘書官と、休まらない魔王。
第88話は、明日の21時40分更新です!
◾️面白かったら下の☆☆☆☆☆で応援をお願いします! 次話執筆の励みになります!




