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死に戻り魔王の「強くてニューゲーム」 ~未来の知識と圧倒的戦力で、人類ごと世界を救います~  作者: Chris Tartan


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第85話:その王子は守るべき者たちの祈りを背負う。~麦畑で誓った盾の覚悟~

【前回までのあらすじ】

 オウカの剣聖・源流のもとで修行を始めたロイだったが、「ただの剣で鉄塊を斬れ」という試練に全く歯が立たない。さらに源流から、強くなりたい理由が「マクマリスの期待に応えるため」という『借り物の志』であることを看破され、呆気なく修行を打ち切られてしまう。


 己の未熟さに打ちのめされ、あてもなくハーフリング領へと流れ着いたロイ。戦う力を持たずとも、「農業」という自らの得意なことで命がけの戦争に協力しようとするタフリン王たちの姿に触れた彼は、立ち止まった心で「自分自身の戦う理由」を静かに見つめ直そうとしていた――。

 タフリン王は、窓の外の麦畑を愛おしそうに見つめた。

「して、ロイの戦場はどこにある?」


「……前線です」

 ロイは、迷いのない声で答えた。


「そうだな……」

 タフリン王は、静かに言葉を紡ぐ。

「私は、ここの領民たちを家族のように愛しておる。……だが、情けないことに、私はこの大切な者たちを守りたくても、自ら戦う術を持たん。ロイたち、前線に出て血を流して戦う者たちに、彼らの命を委ねるしかないのだ」


 ロイは、パンを握りしめたまま黙って耳を傾けた。


 タフリン王はゆっくりと立ち上がり、ロイの前に進み出た。

「命を懸けて戦う者に、安全な場所にいる私が身勝手なお願いをするのは、重々承知だ。……それでも、どうか言わせとくれ」


 そして、小柄な王は、ロイに向かって深々と頭を下げた。

「どうか、私に代わって……愛する領民たちの命を、よろしく頼む」


「タ、タフリン王! 頭を上げてください!」

 ロイは慌てて椅子から立ち上がった。

「僕なんかに、頭を下げないでください!」


 ロイの胸の奥で、霧が晴れるように何かがクリアになっていく。

(そうだ。僕が強くなりたいのは、マクマリスさんに言われたからじゃない。期待に応えたいからでもない)


 ロイは、頭を下げるタフリン王の小さな背中と、その向こうに広がる平和な麦畑を見た。

(僕の後ろにいる、武器を持たないこの優しい人たちを……一人でも多く、僕の手で守りたいからだ!)


 ロイの瞳に、確かな決意の光が宿る。

「タフリン王。……僕、オウカに戻ります!」


「おや、今からか!?」

「はいっ!」

「ふぉっふぉ、そうか……。なら、ここにあるパンや野菜を、道中食べるために持っていくといい」


 タフリン王は急いで籠に食糧を詰め込み、ロイに手渡した。そして、その肩をポンと叩く。

「もう一度、言っておこう。どんなに立派な理想も、まずはしっかりと土を耕し、種を蒔かねば実らないということを、忘れるでないぞ」


「はい! ありがとうございます!」

 ロイは深く一礼すると、夜空で待つ白竜シャヴォンヌの背に飛び乗り、再び剣聖の待つオウカへと飛翔した。


    ◇


 オウカの竹林。

 ロイが戻ってから、数日が経過していた。

 彼は雨の日も風の日も、朝も夜も、ただひたすらに一つの『鉄塊』に向き合い続けていた。


 ガキンッ! ギィィン!


 いったい何十本の剣が欠けただろうか。ロイの掌は血が滲み、潰れた水ぶくれと豆だらけになっていた。皮が破れ、柄を握るだけでも激痛が走る。


 それでも、彼は決して剣を振るうのをやめなかった。


 この地道な修行――土を耕し種を蒔く行為が、ハーフリングの農民たちや、背後にいるすべての人々を守る力に繋がると、固く信じていたからだ。


 ザッ、と竹の落ち葉を踏む音がした。

「……いつの間にか戻っていたか」


 背後に、源流が立っていた。彼は地面に散乱する、無数の欠けた剣の山を見て、微かに口元を緩めた。

「根性だけは、一人前だな」


 ロイは荒い息を吐きながら剣を下ろし、真っ直ぐに源流に向き直った。

「源流さん。……僕が強くなりたいのは、マクマリスさんに言われたからじゃありません」


 ロイの双眸(そうぼう)が、強い意志の炎を燃やして剣聖を見つめる。

「僕の後ろにいる、武器を持たない国民を……一人でも多く、自分の手で守りたいからです」


 その真っ直ぐで嘘偽りのない瞳を、源流は静かに受け止めた。

 彼は目を閉じ、暫くの間、竹林の風の音だけを聞いていた。


 やがて、ゆっくりと目を開き、短く告げる。

「……よかろう」


 源流は歩み寄り、傷だらけの鉄塊の前に立った。

「力で斬ろうとするな、小僧。鉄は硬い。だからお主は、それに負けじともっと硬くなろうとしている。それでは斬れん」


「じゃあ、どうすれば……!」


「『水』を見ろ」

 源流は愛刀・桜花の鯉口を切った。

「水は柔らかく、形を持たない。だが、長い時間をかければ、強固な岩をも穿(うが)つ。……なぜだ?」


 源流が実演の構えをとる。

 彼は完全に脱力した状態で、まるで柳の枝のように滑らかに刀を振り下ろした。


 そして、刃が鉄塊に触れた『瞬間』にのみ、手首の鋭いスナップを利かせ、刀身を通じて不可視の「波」のような衝撃を打ち込んだ。


 キンッ……。


 風鈴のように澄んだ、美しい音が竹林に響いた。

 直後。分厚い鉄塊が、何の抵抗もなく真っ二つにズレて、ゴトリと地面に落ちた。切り口は鏡のように滑らかだった。


「す、凄い……」

 ロイは息を呑み、目を見開いた。


「対・硬質装甲用の極意。『波紋断(はもんだ)ち』という」

 源流は残心を解き、静かに解説した。


「これを身につければ、機械生命体の水晶の装甲も斬れるということですか……?」


「その通りだ。装甲の表面の硬さに抗うのではない。その奥にある『分子の結合』を狙うのだ」

 源流は刀身を指先で弾いた。

「刀身から自身の魔力の『波紋』を流し込み、敵の装甲が持つ固有振動数とピタリと合わせる。そうすることで、力任せに叩き切らずとも、『触れただけで結合を崩壊させる』……それがこの技術の神髄だ」


 カチャリと、桜花が鞘に納められる。

「もっとも、頭で理論が分かったところで、すぐに再現できるような底浅い技ではない。……お主はこれから、文字通り血反吐(ちへど)を吐いて、この技術を体で覚え、体得せよ」


 源流の厳しい宣告に、ロイの顔に笑みが浮かんだ。

 ようやく、本当の修行が始まる。強くなるための道が、目の前に開かれたのだ。


「はいっ! よろしくお願いします、源流師範!」

 ロイの元気な声が、竹林の空高くへと響き渡った。

【次回の予告】

「魔王の帰還と不穏な出迎え! マクマリスの研究室で、禁断の儀式が始まる!」


 ついに自身の根城である『魔界』へと帰還したマクマリス。しかし、彼を待ち受けていたのは、人間や他種族との共闘に不満を抱くアズモたち反乱分子の殺気立った出迎えだった!


 一触即発の空気を「極上の土産」を約束してやり過ごしたマクマリスは、アルフィリオンと共に自身の研究室へ。


 氷の棺から現れたのは、三百年前の厄災・先代魔王ガングダード!


 圧倒的な暴力を完全な傀儡として復活させるべく、二人の死霊術師による禁断の儀式がいよいよ幕を開ける――。


 不穏な帰還と、先代魔王の棺。

 第86話は、明日の21時40分更新です!


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