第120話:その職人は未知の論理を砕き氷の棺をこじ開ける。~死の淵からの生還~
【前回までのあらすじ】
迫り来る機械生命体をやり過ごすため、咄嗟に空の冷凍カプセルに身を隠したカーラと源流。
なんとか敵の目を欺いたのも束の間、カプセルの扉が自動ロックされ、無情にも「冷凍保存プロセス」が作動してしまう!
内側から扉を破壊すればアラートが鳴り響き、潜入作戦が完全に失敗してしまうという逃げ場のない極限状態。急速に絶対零度へと向かう密室の中で、凍りつく二人の命のタイムリミットが迫る。
一方、急報を受けたマクマリスたちは『時間停止魔法』を駆使して救出へと急ぎ、外ではララノアが遠隔ハッキングを試みるが……!?
剥き出しになった海底。連邦軍が陣取る西側後方に設置された臨時指揮所。
ララノアは、複数の魔導スクリーンに囲まれながら、凄まじい速度でキーボードを叩いていた。その額には、びっしりと冷や汗が浮かんでいる。
カーラと源流が冷凍保存される瀬戸際だというのに、敵の複雑なセキュリティシステムの奥底にある『解除キー』のパスが、どうしても通らないのだ。
「解除キーはどこよ……! どうして弾かれるの……どこなのよ!」
ララノアが血を吐くような声で呟く。
「おい、ララノア!」
そこに、泥だらけになったヘギルがタイミングよく指揮所のテントに飛び込んできた。
「魔導砲の第一陣は設置完了したぞ! 今、第二陣を上空から運搬中だ! ……ん? そんなに顔色変えて、どうした?」
「カーラと源流が、敵の冷凍カプセルに閉じ込められたのよ! ロックを解除しないと、凍死して大変なことになるわ!」
ララノアはスクリーンから目を離さずに叫んだ。
「なんで冷凍カプセルなんかに入ってんだよ!?」
ヘギルが目を丸くする。
「機械生命体に見つかりそうになったから隠れたのよ! あーもう! 暗号化のロジックが全然分からない!」
「ちょっと、どいて見せてみろ!」
ヘギルがララノアの隣に割り込み、猛烈な勢いで流れていく敵のプログラムコードを睨みつけた。
「……なるほど。こりゃ、未来の機械特有の『三進数』の暗号化を使ってるな。お前のやり方じゃ弾かれるわけだ」
「三進数!?」
「ああ。システムを騙すには、一度『十進数』を経由して、逆算して『二進数』に変換し直せばバイパスが通るはずだ。俺に任せろ!」
ヘギルの太い指が、見えないほどの速さでコンソールを叩き始める。
『ララノア、解除はまだか!? これ以上はまずい!』
マクマリスからの焦燥しきった思念が飛んでくる。
『今、ヘギルが横でやってる! もう少しだけ待って!』
『カーラ、大丈夫か!? ……カーラ、応答しろ!』
しかし、カーラからの応答はない。
「カーラから返事がない! ヤバいよヘギル!」
ララノアの顔から完全に血の気が引いた。
「ああ、分かってる! 今やってる! ちょっと待て……もう少しだ……頼む、繋がれ……!」
ヘギルが歯を食いしばる。
「早く……! 早くして……っ!」
「……っしゃあ! よし、パスが通った! 解除できたぞ!!」
ヘギルがエンターキーを力強く叩き込んだ。
◇
プシュゥゥゥゥッ……!
白煙を噴き出しながら、閉じ込められていた冷凍カプセルの扉が、重々しい音を立てて開いた。
同時に、時間停止魔法で機械生命体をやり過ごしたマクマリスたち五人が、部屋に駆け込んでくる。
「カーラ! 源流!」
ウルスヌスが、霜が降りて意識を失いかけている二人をカプセルから素早く抱え下ろし、無機質な床に寝かせる。
「二人から離れよ!」
状況を察したザルティムが即座に火属性の魔法を詠唱し、カーラと源流の胸元に杖の先で触れた。
ボワッ、と二人の体が暖かな魔力の熱に包まれる。氷のように冷たくなっていた二人の体に、急速に生命の熱が戻っていく。
「……んっ……」
カーラが、パチリと目を開けた。
「……助かったのか。かたじけない……礼を言う」
源流も、ゴホゴホと咳き込みながら上体を起こした。
『二人は無事だ。ギリギリだったな。……よくやった、ララノア、ヘギル』
マクマリスが、安堵の息を吐きながら思念を送る。
『私は何も……。ヘギルが来てくれて、本当に助かったわ。二人とも、動けそう?』
ララノアの声も、涙ぐんでいるように震えていた。
『源流は自力で歩けそうだ。カーラは……まだ足元がおぼつかないから、ウルスヌスが背中におんぶしている』
『フォフォフォ、まるで孫と熊じゃな』
とザルティムの思念が混ざる。
『よかった……。じゃ、早速目的地へ誘導するわね』
ララノアが気を取り直し、司令塔としての思考を冴え渡らせる。
『ダウンロードした見取り図によると、マザーコンピューターは今いるこのフロアの奥にあるわ。動力炉はヘギルの推測通り、一番下の大階層ね。……まずは、部屋の奥にある扉から出て、二組とも合流したまま左の通路へ向かってちょうだい』
『了解した。移動を開始する』
マクマリスが先頭に立ち、手で合図を送った。
ウルスヌスの巨大な背中に負んぶされたカーラを中心に、七人の精鋭たちは、死の淵から蘇った結束を胸に、静かに食料保管庫から奥の扉へと進んでいった。
【次回の予告】
「無限の兵器工場と鳴り響く警報! ついに破られた隠密作戦!」
最深部の「動力炉」を目指し、さらに下層へと降下するマクマリスたち。彼らが強化ガラス越しに目撃したのは、絶望的なまでの圧倒的物量を生み出し続ける、冷徹なる『全自動の機械生命体工場』だった!
一方、マザーコンピューターの破壊を急ぐウルスヌスたちは、巡回中の敵と遭遇。瞬時に粉砕するも、ついに恐れていた非常警戒サイレンが鳴り響き、船内の照明が警告の『赤』へと染まる!
隠密作戦はここで終了。ここからは、迫り来る無限の軍勢との強行突破の死闘が始まる!
全自動の死の工場と、鳴り響く警報。
第121話は、明日の21時40分更新です!
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