第119話:その剣豪は絶対零度の氷棺で迫り来る死の冷気に抗う。~音を立てられぬ極限の密室劇~
【前回までのあらすじ】
敵の侵略目的が「宇宙規模の食糧収穫」であるという悍ましい真実を突き止めたカーラと源流。
ララノアの遠隔ハッキングによって母船の全見取り図データを無事にゲットするも、その直後、一体の機械生命体が部屋に侵入してしまう!
源流はとっさにカーラを空の冷凍カプセルへと引き摺り込み、息を殺して敵をやり過ごそうとするが、外のシステム端末にはハッキングデバイスが刺さったままだ。
見つかれば数万の敵が一斉に目覚めるという絶体絶命の密室の中、急報を受けたマクマリスたちが救出へと急ぐ!
真っ暗な冷凍カプセルの中。
カーラと源流は身を寄せ合い、息を殺して外の様子をうかがっていた。
ウィィィィン……ガシャン。ウィィィィン……ガシャン。
無機質で重たい機械生命体の駆動音が、静まり返った部屋の中で徐々に近づいてくる。
隣に密着している源流が、音もなく自身の刀『不知火』の柄に手をかけるのが分かった。隠密を第一としてやり過ごしたいところだが、万が一カプセルを開けられ、気づかれた時は、一刀両断する心づもりなのだ。
足音が、ついに二人の潜むカプセルの目の前でピタリと止まった。
(……っ!)
カーラの心臓が、早鐘のように激しく跳ねる。鼓動の音が外に漏れてしまうのではないかと錯覚するほどだ。
薄く曇ったガラスの向こうに、赤く明滅する機械のセンサー光が透けて見えた。
わずか数分の出来事が、何時間にも感じられる。永遠にも等しい、極限の緊張感。
そして――。
ウィィィィン……ガシャン。
機械生命体は、何事もなかったかのように、カプセルの前を素通りしていった。
ハッキングデバイスが刺さったままの部屋の中央端末にも目もくれず、カーラたちが最初に入ってきた扉の方――他星の生物が冷凍保存されたカプセルが並ぶエリアへと向かっていったのだ。
「……ふぅっ」
極度の緊張から解放され、カーラはへなへなとカプセルの壁によりかかり、細く長い息を吐いた。
「まだ、しばらくは動かぬ方がいい……」
源流が、刀から手を離さずに小声で囁く。
カーラは無言で頷き、イヤーカフを通じてマクマリスに思念を送った。
『……機械生命体は、食糧の回収に来ただけのようです。私たちが入ってきた入り口の方へ向かっていきました』
『分かった。我々も今そっちに向かっている。しばらくそこで待機しておけ』
マクマリスの冷静な思念が返ってきた。
◇
『承知しました』
カーラからの思念を受け取ったマクマリスたち五人は今、カーラが報告していた広大な『培養ルーム』の入り口付近を通過していた。
強化ガラスの向こうには、異形の生物たちが無数の管に繋がれ、緑色の液体の中で生かさず殺さずの状態で養分を吸い取られている地獄絵図が広がっている。
「……反吐が出るほど気色の悪い光景だな」
アルフィリオンが、眉間に皺を寄せて吐き捨てた。
「死体を切り刻んで喜んでいる、貴様が言うセリフか?」
マクマリスが皮肉交じりに返す。
「失礼な。あんな醜悪な搾取装置と、死の美しさを追求する私の芸術を、一緒にしてもらっては困るな」
「フォフォフォ。いずれにせよ、目標の破壊に成功して脱出する際には、この悍ましい部屋も早急に燃やして浄化した方がよさそうじゃのう」
ザルティムが杖の先で床を叩く。
「ああ。中枢の破壊後は、脱出の道すがら、できる限り船内施設も破壊して回りたいものだな」
「なあ」
ウルスヌスが、ギガント・ギアの装甲をガシャリと鳴らして身を乗り出した。
「カーラたちの部屋から食糧を運んでくる機械生命体ってのは、この食事部屋に来るんだろ? この廊下を歩いていたら、鉢合わせするんじゃないか?」
「その可能性は極めて高いな」
「だったら、そん時は俺に任せとけ。パイルバンカーで一撃でスクラップにしてやるぜ」
ウルスヌスが拳を鳴らす。
「いや、貴様が派手に戦えば、隠密どころではなくなる」
マクマリスは即座に却下した。
「敵が近づいてきたら、私が『時間停止魔法』を使う。完全に時を止め、その隙に敵の横を通り抜けてカーラたちの部屋へ向かう」
「……マジかよ。せっかくの鎧の出番がねーじゃんか」
ウルスヌスが、あからさまにつまらなそうに肩を落とす。
「後で嫌というほど、思う存分暴れられるんじゃ。今は我慢せい、血の気の多い若者よ」
ザルティムが、孫を嗜めるようにフォフォフォと笑った。
◇
「……ねぇ、源流様」
暗い冷凍カプセルの中で、カーラは自分の肩を抱いて身震いした。
「なんだか急に、この中……寒くなってきてない?」
「うむ。確かに冷気が増してきたな。……敵の気配も遠ざかった。そろそろ出てもよかろう」
源流が、カプセルの内側から扉を押し開けようとした。
ガッ。
鈍い音がして、扉は微動だにしない。
「……ん?」
源流は少し力を込めて押したが、やはり開かない。隠れる時に、音を立てないよう軽く手前に引いて閉じただけだったはずが、いつの間にか完全にロックされ、密閉されていたのだ。
「どうしたの?」
カーラが不安げに尋ねる。
「扉が……開かぬのだ」
「えっ!? もしかして、扉を閉めたことで、自動的に『冷凍保存プロセス』が作動しちゃったってこと!?」
カーラの声が裏返る。カプセル内の温度は、急速に、体感できるレベルで低下し始めていた。
「可能性はあるな……。仕方ない、このカプセルを内側から斬るしかないか」
源流が狭い空間で無理やり刀を抜こうとする。
「ダメよ! そんなことをしてアラートが鳴ったら、潜入していることが一発でバレちゃうわ! 魔王様に助けてもらおう!」
カーラは慌ててイヤーカフに意識を集中した。
『魔王様! 緊急事態です! 隠れていたカプセルに閉じ込められてしまいました! 冷凍保存が始まっています!』
『……チッ』
マクマリスの舌打ちが聞こえた。
『ララノア、遠隔で何とかできるか!?』
『今、端末のデータからアクセス権限を確認しています……!』
ララノアの緊迫した思念が響く。
「ララノアが、遠隔で調べてくれてるわ……」
カーラは、ガチガチと鳴り始めた歯を食いしばりながら、白い息を吐いて源流に伝えた。
「急速に冷えてきておるな……。拙者の気も、長くは保つまい」
源流の吐く息も、すでに真っ白になっていた。カプセル内は、生物を瞬時に凍らせるための絶対零度に向かいつつあった。
【次回の予告】
「天才コンビの神ハッキング! 絶対零度からの生還!」
凍りつくカプセルの中、ついにカーラの意識が途切れる……!
一方、外の臨時指揮所では、未来の機械特有の複雑なセキュリティシステムにララノアが絶望しかけていた。そこへ絶妙なタイミングで飛び込んできたのは、泥だらけのドワーフの天才職人・ヘギル!
未知の「三進数」の暗号化プログラムを相手に、ヘギルの神がかったタイピングと機転が炸裂する!
間一髪でロックが解除された直後、時間停止魔法で駆けつけたマクマリスたち。ザルティムの温かな魔法で一命を取り留めた二人は、死の淵から奇跡の生還を果たす!
ウルスヌスの大きな背中におんぶされたカーラを中心に、ついに七人の精鋭が完全合流。結束を新たにし、いよいよ敵の中枢であるマザーコンピューターと動力炉を目指して奥深くへと進んでいく!
天才たちの神連携と、絶対零度からの生還。
第120話は、明日の21時40分更新です!
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