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死に戻り魔王の「強くてニューゲーム」 ~未来の知識と圧倒的戦力で、人類ごと世界を救います~  作者: Chris Tartan


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第97話:その女王は痛覚なき特攻の創造を命ずる。~非情なる技術の略奪~

【前回までのあらすじ】

 白竜のみならず、ウルスヌスの地竜リントヴルムをも完全に統べる姿を見せ、空の覇者として覚醒したロイ!


 彼ならやれると確信したマクマリスは、帝国の航空戦力をロイに集約させ、四天王たちを地上部隊へと降ろす前代未聞の戦力再編を提案する。


 さらに、帝国でも一握りの者しか知らない隠密・カーラの『特別な嗅覚』を「0周目の直感」でズバリと言い当て、彼女に敵母船での動力炉特定という極秘任務を託した魔王。


 最強の布陣が完成へと近づく中、マクマリスは若き竜騎士の頼もしい背中に、静かな祈りを捧げるのだった――!


挿絵(By みてみん)

 雲海を抜け、エスペル島のガイアス王国に向けて飛行する飛空挺『アルゴス級三番艦』。

 その船内にディネルースにあてがわれた客室は、軍用輸送機としては立派なものだったが、彼女の基準からすればひどく「質素」な空間だった。


「……どう思う? このダサい客室」

 ディネルースは、無機質な鉄の壁と、申し訳程度に置かれた硬いソファを見て、心底不愉快そうに眉をひそめた。


 傍らに立つララノアが、淡々と答える。

「ディネルース様には、不釣り合いかと」


「もっとマシな部屋はなかったのかしら? 連邦の最高指導者を乗せるというのに、装飾の一つもないなんて」

「申し訳ございません。このアルゴスはもともと純粋な軍用輸送艦として設計されているため、どの部屋も似たようなものです」


「はぁー……ほんと、嫌になっちゃうわ」

 ディネルースは大袈裟にため息をつき、扇子でパタパタと空気をあおいだ。

「ところで、ララノア」


「はい」

 ララノアが姿勢を正す。


「貴方をヘギルのところへ送り込んだ本当の目的……『魔導義体』の研究はどうなっているの?」

「試作一号機、強化外骨格『ギガント・ギア』が完成いたしました。現在、帝国で装着者の選定が行われているはずです」


「あの無骨な鎧のこと? そんなことはどうだっていいわ」

 ディネルースは冷たく切り捨てた。

「私が気にしてるのは、そのギガントなんたらの技術が、我々の研究に転用できるのかどうかだけよ。その技術を盗むために、貴方を送ったのよ」


「……鎧の制御には、試験的に『疑似神経接続(ニューロ・リンク)』を使用いたしました」

疑似神経接続(ニューロ・リンク)……。それはどういうものなのよ? 専門用語はいいから、私に分かるように説明なさい」


「はい。『魔導義体』は本来、私のように、手足を切断して直接神経を繋ぐことで完璧な同調を得ますが、激しい拒絶反応や、魔力暴走による自壊のリスクを孕みます」

「だから、貴方以外にまともな成功例がないのよね?」

「はい。そこで、今回は『皮膚の上から微弱な神経パルスを読み取る』形に変更いたしました」


「それで?」

 ディネルースが先を促す。


「卓上理論ではありますが、肉体を切断する拒絶反応のリスクを軽減しながら、大幅な出力強化を実現できています。これを応用すれば、一般兵でも――」


「ララノア」

「はい」


 ディネルースはゆっくりと立ち上がり、冷酷な光を宿した瞳で秘書官を見下ろした。

「私が求めているのは、そんな『生ぬるい兵器』ではないわ。……恐怖を感じず、生身の限界を強制的に超えた力を出せる兵士よ。出力強化は良しとしましょう」


 ディネルースは小さな丸窓に近づき、眼下に広がる青い海を見下ろした。

「『痛覚遮断』はどうなの?」


 ララノアは、わずかに視線を落とした。

「……痛覚遮断は、実現できておりません」


「それでは意味がないのよ」

 ディネルースの声が、氷のように冷たく響いた。

「兵士なんて、所詮は使い捨ての駒よ? 恐怖や痛みを感じるから、逃げ出したり、本来の力を出し切れなかったりするの。……死を恐れずに、笑って特攻できる兵士を作りなさい!」


「……申し訳ございません」

 ララノアは感情を殺し、深く頭を下げた。


「ガイアスに着いたら、潜水艇には私一人で乗るわ。貴方はそのままヘギルの所に残り、魔導義体の研究を継続なさい。……マクマリスの配下の魔族は、合流してるのよね?」


「いえ、魔族の技術者たちは、初期プロットの基礎構築の際に助力をいただきましたが、今は『準備がある』と魔界に戻っております」


「使えない連中ね。……だったら、あの野蛮なヘギルに頼るしかないわね」

 ディネルースは忌々しげに扇子を閉じた。

「ヘギルに『痛覚遮断』の相談をなさい。何としても、鎧のシステムに導入するのよ」


「……承知いたしました」


    ◇


 アルゴス級三番艦が、ガイアス王国の広大な船着場にゆっくりと停泊した。

 タラップが降ろされると、そこには驚くべき光景が広がっていた。絶世の美女と名高い連邦議長・ディネルースを一目見ようと、大勢のガイアス国民が港に押し寄せ、熱烈な歓迎ムードに包まれていたのだ。


「キャァァァァッ!! ディネルース様ー!!」

「こっち向いてー!」

「美しい……!!」


 タラップを降りるディネルースの姿を見るや、国民たちは色とりどりの旗を振って割れんばかりの歓声を上げた。


 ディネルースは、先ほどの冷酷な顔を微塵も感じさせない、女神のような完璧な笑顔を浮かべ、優雅に手を振って歓声に応えた。

「何? この人たちは?」

 ディネルースは笑顔を崩さず、出迎えたガイアス王の元へと歩み寄った。


「遠路はるばる、ようこそお越しくださいました、議長殿」

 ガイアス王が握手のため手を差し出して、朗らかに笑う。

「ディネルース様を一目見ようと、国民が自発的に押しかけたのです。大変な人気ぶりですな。以前に魔王殿が来国した時とは、えらい違いだ」


「当然よ。あんな陰湿な研究者風情の魔族と、一緒なわけないでしょ?」

 ディネルースはガイアス王の手を取りながら、満更でもなさげに微笑んだ。


 パシャッ! パシャパシャッ!!


 集まった記者たちから、無数のフラッシュが焚かれる。

「長旅でお疲れでしょう? 王城に、最高級のスイートルームをご用意しております。ご案内しましょう。さあ、こちらへ」

「スイートルーム? それは楽しみね。アルゴスの部屋が酷かったから、期待しちゃうわ」

「ハハハ、きっとお気に召していただけるはずだ」


 撮影が終わり、ガイアス王と並んで赤絨毯を歩きながら、ディネルースは沿道の国民に愛想よく手を振りつつ尋ねた。

「ところで、潜水艇の捜索活動はいつから始めるのかしら? 早く終わらせて、水の都に帰りたいのだけれど」


「潜水艇の最終チェックを魔王殿にしてもらった後の話だから、現時点では何とも申し上げようがない」

「マクマリスはまだ到着していないの?」


「うむ。しばらく前に、『ヘギル殿が開発したプレートアーマーの着用者と共に、そちらに向かう』と通信があったから、間も無く到着するのではないかと思うが……」


「まぁいいわ。マクマリスが来るまで、しばらくスイートルームでゆっくりさせてもらうわね。お風呂にも入りたいし」

 ディネルースが優雅に髪をかき上げた、その時だった。


「ディネルース様。おくつろぎいただく時間はございません」

 後ろを歩いていたララノアが、無情にも書類の束を開いて宣告した。

「この後、十四時分にガイアス王との共同の記者会見がございます。十五時分に王立図書館の視察、十六時分に王立研究所の視察。十七時分には……」


「ララノア、もういいわ……」

 ディネルースの笑顔がピクピクと引き攣り、ララノアの時刻みのスケジュールの説明を遮った。

「ゆっくりとする暇が一秒もないということは、よーく分かりました……」


「ハハハ。連邦の最高指導者ともなりますと、楽ではありませんな!」

 ガイアス王が呑気に笑う。


「ディネルース様ー!!」

「こっち向いてくださーい!!」


 国民たちの熱狂的な歓声が響く中、ディネルースは顔に完璧な笑顔を貼り付けたまま、内心では(マクマリス……さっさと来なさいよ、ぶっ飛ばしてやるわ)と不貞腐れながら、歓迎のアーチを通り抜けていくのだった。

【次回の予告】

「魔王の腹黒いおもてなし作戦と、第六実験室で繰り広げられる甘い約束!」


 エスペル島に到着したマクマリス。実はディネルースへの熱狂的な歓迎は、面倒な彼女のご機嫌を取るための、魔王が仕組んだ「サクラの動員」だった!


 一方、研究所では熊人の四天王ウルスヌスと天才職人ヘギルが、男のロマン溢れる凶悪な武装『ギガント・ギア』を前に意気投合!


 ディネルースの無茶振り(痛覚遮断技術の要求)に疲弊しきった秘書官ララノアに対し、マクマリスは「いざという時は私が守る」と囁き、再び彼女を赤面させる甘い展開に……!?


 腹黒いサクラ作戦と、守るという約束。

 第98話は、明日の21時40分更新です!


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