第98話:その魔王は氷の女王を偽りの熱狂で操る。~産声を上げた極大の破壊兵器~
【前回までのあらすじ】
エスペル島へ向かう飛空挺の中で、ディネルースはララノアに対し、新兵器に『痛覚遮断』を組み込んで死を恐れない特攻兵士の数式を完成させろという冷酷な本性を露わにする。
しかしガイアス王国に降り立つと、そこには彼女を一目見ようと熱狂する大勢の国民たちの姿が!
完璧な「女神の営業スマイル」を振りまいて歓声に応えるディネルースだったが、その裏では、ララノアが突きつけた無慈悲な過密スケジュールに内心ブチギレていたのだった――!
ディネルースの華々しい到着から数時間後。
マクマリスがウルスヌスと共に、飛空艇『アルゴス級二番艦』でガイアス王国の船着場に降り立つと、そこにはディネルースの時と同じようにガイアス王が出迎えていた。
だが、周囲の様子は先ほどとは打って変わって静まり返っていた。
「なんだよ……。帝国の四天王が来たってのに、人っ子一人いねーじゃねーか。歓迎のラッパの一つくらい吹けってんだ」
ウルスヌスがタラップをドスドスと降りながら、不満げに鼻を鳴らす。
「当たり前だ」
マクマリスがマントを翻して続く。
「国民は、むさ苦しい熊の獣人や、陰気な魔族になど微塵も興味はない。平和の象徴たる美しいエルフだからこそ、熱狂するのだ」
「魔王殿、お待ちしておりました。ウルスヌス殿も、よくぞ来てくれた」
ガイアス王が恭しく頭を下げる。
「出迎え、ご苦労」
マクマリスは短く労い、すぐに本題に入った。
「ディネルースはどうだ?」
「魔王殿に事前に言われた通り、あらかじめサクラの国民を最前列に配置し、熱烈に歓迎いたしましたぞ。王城のスイートルームへご案内しました」
マクマリスと並んで歩きながら、ガイアス王が誇らしげに報告する。
「さぞ、上機嫌だったのではないか?」
「ええ。最初は不機嫌そうでしたが、歓声を浴びてからは、満更でもないようには見えましたな。ずっと笑顔で手を振っておられました」
「フン。あの女はプライドが高い分、これでもかと持ち上げておきさえすれば、それだけで気分を良くする。……扱いやすい、単純な女だ」
マクマリスが口角を上げる。
巨大な戦鎚を肩に担いで歩くウルスヌスが、不思議そうに尋ねた。
「なぁ、あんな回りくどい作戦にどんな意味があるんだよ?」
「あの女は、少しでも気分を害すと『居住性が悪い』と言って、潜水艇への乗船を拒みかねん。ただでさえ、ステルスのために一度しか乗らないと宣言している、面倒な女だからな」
「へぇー。めんどくせー女だな。顔がいいのに、もったいねーなぁー」
ウルスヌスが呆れたように首の後ろを掻く。
マクマリスはガイアス王に視線を戻した。
「引き続き、最高級の待遇でご機嫌を取り続けろ。上手くいけば、敵船発見までは潜水艇に乗り続けてくれるかもしれんからな」
「うむ、任せてくれ。王室の予算を注ぎ込んででも、もてなそう」
「潜水艇の方はどんな感じだ? 通信した時は、大方完成していたようだったが」
「完璧に完成しておる。魔王殿の最終確認をもって、いつでも運用開始可能だ」
「よし。……先にウルスヌスをヘギルのところに連れて行く。後ほど、第一ドックで合流しよう」
「承知した」
◇
ガイアス王国、王立研究所。
数ある研究室の中でも、最も頑丈な防爆扉を備えた『第六実験室』。ヘギルが強化外骨格『ギガント・ギア』の最終調整を行うその部屋に、マクマリスとウルスヌスが足を踏み入れた。
「おお、ご到着だな、ご両人!」
油まみれの作業着を着たヘギルが、溶接用のゴーグルを外して出迎えた。
「待たせたな」
マクマリスが傍らの巨漢を示す。
「知ってるとは思うが、ギガント・ギアの第一装着候補者……帝国四天王、ウルスヌスだ」
「もちろん知ってるさ!」
ヘギルがニカッと笑い、太く短い腕を差し出した。
「大陸会議の時は、俺の作った武器に一番興味を持ってくれてたよな? ギガント・ギア開発主任の、天才ヘギル様だ」
「よろしくな、ヘギル!」
ウルスヌスが、ヘギルの手を壊れんばかりの力で握り返す。
「お前の『高周波振動剣』とか『魔導鎧』とか、ネーミングセンスはズバ抜けてるぜ! 俺の『獣王咆哮』に負けず劣らずカッコいいじゃねーか!」
「ガハハ! お前、分かってるじゃねーか、兄弟! 俺と気が合いそうだな!」
初対面にして、火薬の匂いがしそうなほど意気投合する野獣と天才職人。
そこへ、奥の部屋からフラフラとした足取りでララノアが姿を現した。
「……一瞬で意気投合したわね。類は友を呼ぶって本当ね。……今、来たの?」
彼女はマクマリスを見て、深いため息をついた。
「到着したばかりだ」
マクマリスは、彼女の顔を見て眉をひそめた。
「どうした? ひどく疲れた顔をしてるぞ。クマができている」
「もう、すごく疲れたわ……」
ララノアがマクマリスの胸に寄りかかるようにして、愚痴をこぼす。
「ディネルース様が、私を呼びつけて……ギガント・ギアに『痛覚遮断技術』を導入しろって、うるさいのよ。兵士は特攻できる捨て駒になれって」
「痛覚遮断だぁ?」
ヘギルが目を丸くして怒鳴った。
「んなもん、入れる必要ないだろ! 痛みってのは肉体の限界を知らせるアラートだぞ! それを切ったら、強靭な鎧に振り回されて、装着者が自分の筋繊維をズタズタに引きちぎって死んじまう! 装着者を殺す気かよ!」
「でも、成功させて、水の都で進めてる極秘プロジェクトに応用したいのよ。……断れるわけないじゃない」
ララノアが頭を抱える。
「なら、適当な式でも作って渡しておけ」
マクマリスが、事もなげに言った。
「えっ? そんな、嘘のデータなんて……バレたら大変よ。ディネルース様に消されるわ……」
「大丈夫だ」
マクマリスは、怯えるララノアの肩をそっと抱き寄せた。
「機械生命体を倒すまでは、ディネルースを水の都に帰らせるつもりはない。あの女はここ、ガイアス王国でずっと働いてもらう」
「えっ……」
「それに、万が一ディネルースが牙を剥いた時は……ララノアは私が守る。そう言ったはずだ」
「……っ」
ララノアの頬が、一瞬にして赤く染まった。
「そ、そうだったわね……。魔王様が約束したんだから、いざという時は、ちゃんと守ってよね」
「最強のボディガードがついてると思って、安心しろ。泥のようなコーヒーの恩は返す」
マクマリスが優しく頷く。
甘い空気が流れる二人をよそに、ヘギルとウルスヌスはすでにギガント・ギアの前で盛り上がっていた。
「すげえ!! なんだこの鉄の塊! パイルバンカー!? ロマンしかねえじゃねーか!」
「だろ!? お前のその金剛体なら、絶対に着こなせるぜ!」
マクマリスは二人の熱気から少し距離を置き、ヘギルに向かって言った。
「さっそく、ウルスヌスのフィッティング調整と、疑似神経接続の同調を進めてくれ。時間はあまりない」
「おうよ! 任せてくれ!」
ヘギルが工具箱を手に取る。
「私はこれから、第一ドックへ行って潜水艇の最終の仕上がりを見てくる」
「私も行っていい?」
ララノアがマクマリスの袖を引いた。
「構わないが……ディネルースのところに戻らなくていいのか? スイートルームで待っているのだろう」
「『痛覚遮断の技術が完成するまで、戻ってくるな』って言われてるから、大丈夫よ。当分、あの人の顔は見なくて済むわ」
「そうか。それは私にとっても好都合だ」
マクマリスは微笑み、ドアに向かって歩き出した。
「あっ! そういえば、魔王殿!」
ヘギルが、マクマリスの背中に向かって大声を上げた。
「あんたに、見せたいものがあるんだった!」
マクマリスが振り返る。
「ん? 私にか?」
「もちろん。頼まれてたやつが、最高の形で仕上がったぜ。……びっくりして腰抜かすなよ? 潜水艇の確認が終わったら、戻ってきてくれよな!」
ヘギルが、自信に満ちた凶悪な笑みを浮かべて親指を立てた。
(動力炉を破壊する極大の爆弾が、もう完成したというのか。相変わらず、恐ろしい男だ)
「分かった。楽しみにしていよう」
マクマリスは頷き、ララノアと共に実験室の重い扉を閉めた。
【次回の予告】
「極大兵器『雷爆弾』ついに完成! 氷の女王へ贈る、深夜の特大ドッキリ花火!?」
夜の荒野に集まったマクマリスたち。天才ドワーフ・ヘギルが不敵な笑みと共に披露したのは、敵母船を丸ごと消し飛ばす規格外の威力を秘めた決戦兵器『雷爆弾』だった!
男のロマン溢れるネーミングに大興奮する脳筋コンビと、容赦ないツッコミを入れるララノアの温度差が炸裂!
さらに、王城で華やかな歓迎パーティーを満喫している高飛車なディネルースに向けた「特大の花火」として、マクマリスの空間転移魔法を頼りにした、命がけのぶっつけ本番の起爆実験が幕を開ける!
果たして、天才が保証する究極の爆弾の威力とは――!?
決戦兵器『雷爆弾』と、氷の女王への特大花火。
第99話は、明日の21時40分更新です!
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