第十二話 異世界の食堂5
コルトスはゆっくりとこちらのテーブルへ歩いてきながら言った。
「ええ、そうですよ。お客様」
コルトスは悪びれることはなかった。
「ですが、これを口にしてこの虫に操られるようでは困るのです」
「こ、困る……?」
「はい。それでは、わたしたちの仲間の寄生先としては不向きなのですからね」
「な、なにを……」
「試験ですよ。耐性試験です」
「この食事会で拒否反応を起こさなかった者だけが、わたしたちの宿主となれるのです。それを選定するための試験なのですよ、これは」
「し、しけん……」
「合格することがどれほど誉れかわかりますか? わたしたち虫属性の魔属の、苗床ならぬ『虫床』になれるのですから」
「だから巷間で囁かれてるのです。 サーベラス伯爵の食事会に招かれるほどの幸せはない——」
コルトスは顎をくっとあげて、誇らしげに言い放った。
「——だが、そこで『虫床』に選ばれることほど、誇らしいことはない、ってね」
ミョントスがドスンと椅子の上にへたりこんだ。がく然とした表情の顔からは、血の気がひいている。オッコスはなにか声をかけようとしたが、上からあの給仕係が自分たちを睨みつけているのに気づいてやめた。
ミョントスの隣にやってきたコルトスが、近くのテーブルの客たちにむかって言った。
「さあ、お客様がた。お食事をお続けください」
オッコスは嫌悪感いっぱいにした顔をコルトスにむけてから、しぶしぶフォークとナイフを手にした。
「で、できない……」
ミョントスが咽喉の震わせながら言った。
「虫の魔属の栄養分になるくらいなら、人間として死ぬほうを選ぶ」
ミョントスはテーブルに手をついてよろよろと立ちあがると、ステーキナイフを自分の首元につきつけた。
「わたしゃ…… いや、わたしは自分の命をおまえたちに自由にさせやしませんよ!」
ステージのほうへ戻っていこうとする、コルトスの背中に声を投げつけた。コルトスは一瞬歩みをとめたが、振り向くこともなく言った。
「やれやれ、あなたは良い『虫床』になる素質がありそうだったのですけどねぇ」
まわりのテーブルでカチャカチャと音がした。
ミョントスの覚悟を見せつけられて、おおくの人々が彼とおなじ選択をしたようだった。
「おれの命も、おまえらに好きにさせてたまるかぁぁ!」
「私も自分の運命は自分で決めるわ!。虫なんかになってたまるもんですか!」
「殺されてたまるか!。オレは最後まで戦ってやる!」
ひとびとの決意表明が、怒号や鬨の声となって、広間に響き渡った。
「それでは望み通りにしてあげましょうかね」
コルトスはそう言うと、ステージ中央にすわっていたサーベラス伯爵のほうへ目をむけ許可をもとめた。
「サーベラス様。今回は『虫床』ではなく、わたしどもの『食事』になってしまいますが、よろしいでしょうか?」
「うむ、仕方あるまい」
そう首肯しながらも、数本の脚をカチカチと床に打ちつけて、苛立ちをあらわにした。
「係の者、そういうことだ」
コルトスが給仕係たちに言うと、彼らは嘘っぽい笑い顔をふっとやめた。そしてグルンと首をまわしてから、客たちを見おろした。
カマキリの顔がそこにあった。
凶暴さを体現させる逆三角形の顔、捕食者の口、そしてその腕は、ひとふりで頭を刎ねとばすような、おおきなカマになっていた。
恐怖の色を帯びた悲鳴ともどよめきともつかぬ声があがる。




