第十二話 異世界の食堂4
「メインのお肉料理でございます」
サラダのあと何品かこなしたあと、メインディッシュが運ばれてきた。
その後の料理もすくなからず往生した——
ツバメバチの頭は、毒のある胴体をはずしていたが、首だけになっても生命力が強く、生来の獰猛さもあって、口のなかのいたるところを噛みついてきた。おかげで食べ終わるころには、口のなかは血だらけになっていた。
次のカレーというスパイシーなルーがかかった料理は、ふつうに食欲をそそった。が、ルーをかけられたライスが、ライスではなくウジ虫と言われるハエの幼生だった。生煮えだったため、口からもぞもぞと這い出ようとするのには辟易とさせられた。
メインの肉料理は、いっけんまともそうにみえた。
ぶ厚い動物のカット肉は、ふだんたべているステーキ、そのものであったし、ベリーレアでかるく火を通しただけのピンク色の肉の断面は新鮮そのものだった。
オッコスはすこしホッとした思いで、フォークとナイフをとりあげた。
そのとき、肉のすきまから、体長1〜2センチメルトの小さな線虫がにょろにょろと這いだしてきたかと思うと、あっというまに肉をおおいつくした。
「さぁ、どうぞ、召し上がれ」
給仕係が耳元まで口角をひきあげた、いびつな笑顔で勧めてきた。オッコスは隣のミョントスを見た。彼はナイフとフォークを構えたまま、身動きできずに固まっていた。
オッコスは彼が当然ためらっていると思ったがちがった。彼はこちらに顔もむけず、食べようとする姿勢のまま囁いてきた。
「オッコスさん、この虫、わたしには覚えがあるんです?」
「この虫を知っているのですか?」
「はい。ですが、思い出せない」
「でも食べるしかないのでは?」
「これはとても危険な虫なんです。でもどう危険だったのか……思い出せない」
そう言いながらも、ミョントスはナイフの先で一匹を押さえつけた。からだが動けなくなって、虫はあがきまくったが、やがてナイフの刃の部分で、プチンと切れて、二体の虫になった。
きゃぁぁぁぁぁぁぁ——
そのとき女性の悲鳴があがった。
オッコスは悲鳴の方角に目をむけた。ミョントスはたちあがって、その悲鳴の中心にいる人物を注視している。
そこには痩せぎすのコボルト族らしき若者が立っていた。
ぼーっと視点が定まらぬ様子で、からだをゆらしている。口のまわりに肉汁が付着し、くちびるの端から、線虫がはみでてにょろにょろと、体躯をくねらせているのが見える。
この肉を食べたのはまちがいない。
と、両方の目玉がメキョっとあらぬ方向をむく。彼の眼球のなかを、するすると線虫が動いているのがみえた。
目の端からうにょうにょと線虫がはいでてくる。鼻の穴から、口の端、耳の穴からもぞろぞろと這いだしてきはじめる。
あーーー
彼は人間とは思えない、すくなくとも、コボルトらしからぬ低い声をあげた。と同時にものすごい勢いで、ちかくにいた女性に襲いかかった。女性はあわてて逃げようとしたが、コボルトはガチガチと歯をならしながら迫り、背の低さなどものにしないほど跳びあがって女性の首に噛みついた。
ふいにミョントスが叫んだ。この虫の正体を思い出したらしい。
「みんな、ダメだ!。この虫を食べてはだめだぁぁぁぁぁ!!」
だが、もう手遅れだった。
数人がコボルトの青年同様、われをうしない猛獣のような形相で、近くのひとに襲いかかっていた。
大広間はパニックになりかけた。
が、給仕係は客に襲いかかった者をすぐに始末した。最初の一人目の女性は大けがをおったが、それ以外は襲いかかる寸前で切裂かれていた。
「みなさま、食あたりですよ!」
ひな壇のうえから、執事のコルトスが言った。
「ですが、これを食べて食あたりをされるような客は不要です」
「そいつはハリガネムシの仲間、『アヤツリムシ』だ。ほかの虫に寄生して、意のままに操るおぞましい虫だ」
ミョントスがコルトスのほうを指さして叫んでいた。会場中の耳目がいっせいに、オッコスたちのテーブルに集まる。




