第十一話 エルフ殺しの勇者5
室内が重苦しい空気に包まれていた。
ゴードリーは目の前の被告人席で、膝をおって崩れ落ちている勇者に、なんと声をかけていいのかわからずにいた。
真実を暴くのではなかったという後悔だけが、胸の中にわだかまっていた。
法廷というのは、これほどまでに残酷な場であることを、あらためて感じた。
「さ、裁判長……」
咽喉をひきつらせた声で弁護人が言った。
沈欝に静まり返った法廷で、まっさきに声を発することが、どれほど勇気がいるのかと考えると、ゴードリーは彼女に感謝せずにはおれなかった。
「な、なにかな、弁護人……」
「いまのトクーツ氏の証言に、お、おかしな点があります」
「それは……どういう?」
「彼は冒険者たちを襲って、発掘品を盗むのを生業としています。ですが、いまの話だと貴重な目くらましのポーションを使っておきながら、被告マルク・ライデンからなにも盗めなかったように思えます。盗みもせずにその場にいるのはおかしくないですか?」
「盗めなかったのなら、なぜその場所にとどまって、ことの顛末を見ていたのでしょう。プロならさっさと引き揚げるのではないですか?」
「弁護人は、トクーツ氏がミーミャさんの死になにか関わってると言うのですか?」
トクーツが顔をひきつらせて、大声をあげた。
「ま、待て!。わしは卑怯な手で盗みはするが、殺しはやらねぇ」
「それを証明できるのですか?」
トクーツはあわてて、胸元をさぐって、一本の短剣を掲げた。
「こ、これだ。こいつを手に入れたんだよ」
「それは?」
「5階層の緑の玉座から持ち帰った『宝玉の短剣』だ」
そのことばにマルクが反応した。
「きさま、それをどうやって奪ったぁぁぁ」
被告席から飛び出すと、証人席のほうへ向おうとした。あわてて警備の者がマルクをうしろから抑えこむ。だが、マルクはそれをふりはらう勢いで、トクーツにつかみかかろうとした。
「こ、これはわしのモノだ」
「きさま、盗んだかぁぁぁ」
「ちがう! わしは盗んでなんかいない! これはあんたが手放したからもらっただけだ。だって……」
「あんたが自分の首を刺し貫いたのを、ただ抜いただけなんだから!!」
その瞬間、マルクの肉体が消えうせ、着ていた甲冑がガシャン、というけたたましい音ともに床にころがった。
勢いあまって、どうと倒れた警備員は、唖然として空の甲冑を眺めていた。
ゴードリーは裁判長席でたちあがって、眼下でおきた不可思議な事態に目をまるくしていた。
「な、なんと……すでに……みずから……身罷っておったか……」
傍聴席だけでなく、検察官席、弁護人席も、唖然として声をうしなっていた。が、しばらくすると、口々に目の当たりにした出来事を語り合い、室内はさんざめいていった。
廷内の静粛を強要することは、とっくにあきらめていた。
そんな気にならなかった。
ここには愛しあった夫婦が、相手を思いやったすえ、みずからが罪をかぶりあい、互いの尊厳を守り抜こうという姿があっただけだった。
それを法の元につまびらかにしてしまった。
彼らが命がけで守ろうとした互いの思いを、ただ踏みにじってしまっただけなのだ——
なんと罪深いことなのだろうか……
ゴードリーはざわついた廷内を見回して、さきほどの大賢者に声をかけて相談をもちかけた。大賢者は造作もないとばかりに余裕の笑みで応えた。
ゴードリーはおおきく息を吐くと木づちを叩いた。
「判決をいいわたす!」
「被告マルク・ライデン。妻ミーミャ殺しの罪について……」
「有罪!」
「刑期は……永遠とする」
ゴードリーはかたわらに控えていた大賢者にむかって言った。
「では、彼らの魂を永遠にひとつにしてもらえるだろうか?」
「仰せのままに」
「ありがとう。大賢者、シーラン・ミケネー様」
シーランが手をあげると、天井から淡い青色の煙が滑り落ちてきた。と同時にマルクの甲冑から淡い赤色の煙が立ち昇る。やがてその煙は、ミーミャとマルクの姿を形作りはじめた。お互いが手を伸ばしあうと、その煙はまんなかで混ざりあった。
やわらかな薄紫色の煙が中空で、くるくるとつむじのように回りはじめると、そこに抱きあったミーミャとマルクの姿が浮かびあがった。ふたりはお互いをしっかり見つめあって、口元には幸せそうな、じつに満足そうな笑みを浮かべていた。
やがて薄紫色の煙はくるくる螺旋を描きながら、上へと立ち昇りはじめ、こまやなか粒子となって、裁判所の天井に吸い込まれるようにして消えていった。
みんな、それに魅入られていた。そして彼らの行く末を祝福していた。
そこには、検察官、弁護士、証人、傍聴人、そして裁判官の立場もなかった。
ゴードリーは弾ませるように、カン、カンと木づちを叩いた。
こんな重たく、それでいてこんなに軽やかな音を、はじめて聞いた気がした。
「これにて閉廷!」
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サーベラス伯爵の食事会に招かれるほどの幸せはない——
おどろくほど豪華な屋敷で、数百人規模で開かれる食事会は、あなたがたも一度は憧れたことがあるのではないですか?
聞いた話では、この世のものとは思えない料理が、次々とサービングされてくるとか。
見ただけで心拍数がはねあがるような料理。
口にいれれば五臓六腑を刺激するような食感を味わえ——
飲みこめば、その味に人生を変えられるほどの衝撃をうける、といいます。
ただ—— 特別料理ゆえ、食あたりだけにはくれぐれもご注意くださいませ。
異世界心霊奇譚 第十二話 異世界の食堂




