第十一話 エルフ殺しの勇者4
「それがわしの仕事だからね。だが、背後からゴブリンがこの階層まで追いかけてきてるなんて思いもしなかったさ。わしはあんたらの宝物さえ手に入りゃよかったんだから。だからこんなことになったことを申し訳なく思ってるよ……」
「だけど、まさかあんな決断をするなんて、わしにもわかんなかったさ」
「きさまぁ、言うな! それ以上、なにもしゃべるなぁぁぁ!」
両側から警備の者がマルクを抑えつけた。
「勇者様、申し訳ないがね。わしも罪が軽くしてもらわんとならんのだ。ここは真実を話させてもらうよ」
「きさまぁ。盗っ人の話すことが真実なものかぁ。真実はわたしが、誤って妻の首を刎ねた。それだけだ! それ以外になにもないんだ!」
「いいや、ちがう。あんたは人食い植物の植生地に飛び込んじまって、身動きがとれなくなった。粘性の糸にからまれてな」
「口をふさげ、盗賊ぅぅ!!」
マルクが怒声をあげたが、ゴードリーも負けじと声をはりあげた。
「被告人、静粛に!! 退廷させますよ!!」
「そして、そのあいだにあんたの奥さんはゴブリンどもの餌食に……ゴブリンどもに穢された。あんたはそれを恥じて、奥さんの首を刎ねたんだ」
「ちがう! そうじゃない!」
「いいや、わしはそれを見ていた」
「ちがう! ちがうのだ……」
人食い植物の粘液から脱出したマルクは、ミーミャに乱暴をしているゴブリンたちの姿をみて激高した。
一瞬にしてそこにいたゴブリンを片っ端から切り刻んだ。憤怒に我を忘れたマルクの剣に倒されたゴブリンは、一体たりとも五体が揃っておらず、ほとんどがただの肉片と化していた。
マルクが正気を取り戻したとき、ミーミャはおおきな広間の真ん中に、ぼんやりとして立っていた。
マルクの刃の巻き添えにならないように、どこかに隠れていたのだろう。血まみれになったマルクとはちがい、その衣服は真っ白いままだった。
ただその衣服は引き裂かれて、ところどころから肌がのぞいていた。
「大丈夫か。ミーミャ……」
息をととのえながら、マルクが訊いた。
「いいえ、マルク。残念ながら、わたしは穢されてしまいました」
「あれは事故だ。わたしはなにも気にしない」
「いえ、わたしは自分でわかるのです。ゴブリンどもの種が自分に確実に植えつけられたことが…… 数ヶ月後にはまちがいなく、わたしはあの小鬼の子供を産むことでしょう」
「では魔導士か医者に頼んで、堕胎してもらおう。裏の世界の者なら、金さえ積めばなんだって請け負ってくれるはずだ」
「ああ、いとしいマルク。だめなのです。わたしたちが信仰する神は、そのような人為的な行為をゆるしてないのです。わたしは神にそむけません」
「なら、どうすれば……」
ミーミャはすっと背筋をのばして、毅然とした態度で言い放った。
「勇者マルク・ライデン——」
「わたくしの首を刎ねてください!」
「な、なにを言っている……?」
「あなたをゴブリンの子を産んだ妻をもつ男にしたくはありません」
「かまわない。おまえをうしなうくらいなら、その程度の誹りを甘んじてうける」
「いいえ、許しません。わたくしが恋した、そして一生をともにしたいと思ったお方は、そんな誹謗中傷をあびていいいような男ではありません。いつも勇敢で、つねに平等で、仲間思いで、正義感あふれる男なのです」
「お願いします。わたしに尊厳のある死をお与えください」
「そんな……」
マルクの顔は涙に濡れていた。
「誤って斬ってしまったと言えば、たいした罪に問われることはないでしょう。早くしてください。ひとに見られてしまえば、それも通りません」
「で、でも、もしかしたら、おまえの魂を召喚して問いただすかもしれない」
「そのときは、わたくしがあなたを裏切ったと証言いたしましょう。命を狙われたあなたは正統に復讐権を行使して、制裁したと……」
「そんな…… それではおまえの体面はどうなる?」
「ご心配なく。エルフ族はもともと、それほど体面を重んじたりしません。人間族ほどにはね」
ミーミャは力なくほほえんだ。
「こ、これしか方法はないのか?」
「はい。あなたの尊厳を守るために、そしてわたしの信仰を貫くためには、これしかありません」
マルクは力のはいらない腕で剣をもちあげた。ジャラッと刃が地面をひきずる音——
ミーミャはその場に跪くと、うなじがよくみえるように首を下にさげた。
「さぁ、決心がにぶらないうちに!」
ミーミャのことばは、最期の最期まで決然としてゆらぎがなかった。
マルクは剣をふりあげて言った。
「ミーミャ、愛している!」
「はい。わたしはそれ以上に愛しています」
それがミーミャの最期のことばだった——




