第九話 願いをかなえてくれる村 2
広場は直径一キロメルトほどもある広大な敷地だったが、ありとあらゆる人種であふれかえっていた——
人間族、亜人族、エルフ族、獣人族、ドワーフ族のような見知った種族——
ゴブリン族、オーク族、オーガ族、コボルト族、トロール族のような、敵対勢力——
スライムや、ワーウルフのような肉食獣——
そして空にはドラゴンが飛んでいた——
「人間族のエリアはこちらです」
そういって案内された方角に、白い瀟洒な建物とおおきなテントが建っていた。
マハバーランはどこかの種族、なにかの獣に、襲われるのではないか、とあたりに気を配り続けた。その建物に入るまで、生きた心地がしなかった。
建物のなかにはすでに先客が数人いた。
マハバーランは人間の姿を見ただけでホッと胸をなでおろした。
「うはははは、ずいぶん肝を冷やしたって顔してるな」
がっしりとした筋肉の男が、マハバーランの背中を叩いて、手荒く出迎えてくれた。
その場にいた人間たちと自己紹介しあい、笑いがもれはじめると、ようやくマハバーランは緊張から解放された。
「信じられない光景ですよ。あらゆるところが、一触即発の火薬庫みたいじゃないですか」
「うははは、うまいこと言うな」
そう言ったのは、まっさきに歓迎してくれた男。シュランクという気の良いヤツで、いつのまにか、この場の中心にいて、10人ほどの人々のあいだをとりもってくれている。
しばらく談笑がつづき、全員が打ち解けあった頃、ノックがして、亜人が数人はいってきた。真ん中にいるかなり年配のゴートマンが前に進み出た。
「わたくしがこの村の村長で、今回の祝祭の責任者、モルキュと申すものです」
モルキュは今回の祝祭のルールと、手順を丁寧に説明してくれた。
初日の祝祭開幕の儀には、全員参加。
その後、村人がわりふった順番で呼びだしをするので、小屋に待機し自分の番を待つ、ということだった。
「順番がたいへん重要です。呼びだし順は、こちらで精緻に組んでおります。一箇所でも狂いますと、支障をきたしますのでかならずお守りください。それから……」
モルキュは四角い瞳孔で、全員を見回した。
「願いが叶った方はその足で、すみやかにこの村から出てもらいますので、ご理解のほどを……」
「なぜかね?」
わたしはついそう尋ねた。気をわるく質問だった、と後悔したが、モルキュはそんな質問は聞きなれているとばかりに笑顔で答えた。
「願いが叶ってしまえば、この祝祭のルールなど守る者などいらっしゃらないでしょう。殺し合いをするのは構いませんが、この村の外でやって欲しいですからね」
ひと通りの説明がすんだところで、マハバーランたちは、あたまの上にガラスの瓶のようなものを順番に乗せられた。
この種族につたわる『マナ』を吸い取る神器とのことだった。
マハバーランはどれほどのものか、と構えたが、拍子抜けするほどなにも感じなかった。
刺激や衝撃もなく、脱力することも、気分がわるくなることもなかった。
「ありがとうございます。これで契約完了です」
ゴートマンの長老と取り巻きの者は、深々と頭をさげると、その場を辞した。
祝祭の開幕の儀は、まさに常識はずれだった。
見たこともない、とほうもない光景がそこに広がっていた——
ありとあらゆる種族、獣、魔物がそこに勢揃いしていた。
おなじ空間にいてはならない種族や、衝突なしに存在することなど不可能な種族、けっして交わることのない種族が、この広場につどっていた。
不慮の衝突を避けるため、ブロック単位でわけられていたが、一番近いところでは10メルトも離れていない。
いつ、どこで、衝突が、いや、喰いあいが、殺し合いが、はじまっても、まったく不思議ではない——
げんに人間族のブロックの左隣のブロックは、オーク族だったので、マハバーランは気が気でなかった。シュランクは腰にさげた剣の柄に手をかけているし、ほかの連中も、ひっきりなしに手持ちの武器を確認している。全員がそわそわしていた。
だがそれはオーク族もおなじようだった。
あきらかに威嚇とととれる唸り声をこちらにむけてきたり、なにかを投げつける真似をしてきて、こちらを牽制してきていた。
なかでも頬に傷のある若者とおぼしきオークは、やけに挑発的で祭典のあいだ、ずっとこちら側を睨みつけてきていた。
主催者たちは粛々と開催の儀をとりおこっていたが、敵対関係にあるもの同士は、そんな儀式の催しものに目をむける余裕などなかった。
小一時間ほどで開幕の儀がおわった。みんな神経をすり減らして疲れていたが、小屋にもどるなり、ふたりの戦士が呼びだしをうけた。残った連中で、さきほどまでのゾッとするような光景に、ひとしきり感想をかわしあっているうちに、その次の者が呼び出された。
初日はその三人だけだったが、二日目はばらばらに四人が呼び出された。
マハバーランはお呼びがかからなかったが、シュランクはそれが不満なようだった。
「オレは一番最初に来たんだぜ。すこしは配慮してもらいたいものだよ」
「シュランク、しかたがないでしょう。あちらさんにも都合というものがあるんでしょうし……」
「しかしだな。オレはちかくの街に仲間たちを残してきてるんだ。すこしでもはやく戻って、旅を続けねばならんのだ」
「それをいうなら、わたしもおなじです。5人の仲間に無理をきいてもらって、ここにきているんですから……」
酒のちからも手伝ってか、その日はシュランクとだけでなく、残った五人と愚痴やら自慢話やらを語りあった。
三日目——
ついにマハバーランに呼びだしがかかった。シュランクも一緒だった。




