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第九話 願いをかなえてくれる村 1

 あの村のことは聞いたことがあるが、あまりお勧めはしたしかねますな——


 冒険者マハバーランは道中で、出会った老人にそう忠告された。


「だが、ご老人。その村の住人はどんな種族でも歓待し、どんな願いも叶えてくれると言われているのですよ」

「ほんとうにそんな都合のいい話があるとでも?」

「ええ。わたしはその村で願いをかなえた者を、複数人知っている」


「そのひとたちはなにを願ったと言っていたかね?」


 マハバーランは嘆息した。

 この村の話題がでるたびに、マハバーランは説明をしいられる。この話はなんどしたかわからない。


「ご老人も知っているとは思うが、あの村でどんな願いも叶うと言っても制限がある」

「ああ、その人物や種族の身の丈を超えないていどの、ささやかな願いのみが叶えられると聞いておる」

「そのとおりだ。だから、魔王を倒すとか、王になるとか、大金持ちになる、なんていう願いは叶えてはもらえない」

「まぁ、当然でしょう」


「わたしが出会った者の願いも、死んだ母親と交霊できた、とか、遠くの国にしかない幻の鉱石を手に入れたとか、まあ、そんなたわいもないものだったよ」


「それで願いが叶った、というのなら、それはきっと本物なんでしょうな……」

 老人がそう言った。ことばの端に小馬鹿にするようニュアンスが感じられて、マハバーランはすこしムッとしたが、そのまま話を続けた。


「実際わたしの願いもたいしたものではない。だがどうしても叶えたくてね。冒険の途中だったが、パーティーの仲間にわがままを言って、すこし寄り道しているところなのだ」


「だが、その村の住人たちは、そのささやかな願いの見返りに、なにを求めるかはご存知かね?」

「あぁ、知ってるとも。『マナ』だろう?」

「ああ、そうだとも。その願いに見合った量の『マナ』を提供しなければならんのだ」

「それがどうした?。マナならいくらでも、このからだに蓄えている。そうは言っても毎日、戦いに明け暮れているからな」

 マハバーランは力こぶをふくらませてみせた。

 老人はそちらには目もくれず、マハバーランの顔をじっと見つめていた。が、ふいに破顔すると、安堵したような顔で言った。


「たしかに。そなたのマナの蓄積量は相当なもののようですな。これでも賢者のはしくれですから、からだに蓄えた『霊力』や『気力』などは読み取ることができますからな」


「それはそれは……」

 マハバーランは老人が最初から、ただ者ではないと感じていたので、素性をあかされておもわず感嘆の声がでた。

「で、わたしは、自分のマナで願いを叶えられるのですね」

「そなたの望みは?」


「ヘレバ地方に棲むという『ギギンバ』という大蛇の肉を喰ってみたいのだ」

「なぜですかね?」

「旅の途中で、数々の旅人や冒険者たちから、その大蛇の肉のうまさを聞いてね。天にも昇るような味だとか、口の中の余韻を忘れたくなくて3日間水も飲まなかった、などと聞かされれば、一度味あわずにはいられない」


「ふむ、ギギンバの味は聞いたことがあります。わたしは食べたことがないが、世界を敵にまわしてでも食べたくなる味、という話でしたな」




 村についたマハバーランは、出迎えてくれた村人に広場へ案内された。

 そこは森と山に囲まれた、昔ながらの自給自足の生活をしている素朴な村だった。

 

「今回の祝祭も、いろいろな国から、多彩な種族の方が集まって大盛況なんですよ」

 案内してくれた亜人が声をはずませた。

 年齢は人間でいえば15、6歳くらいだろうか、性別はおそらく女性。ゴートと人間の合の子らしく、頭から曲がったツノがぴょこんと飛び出ている。

 彼女が目をほそめて、にこにこととした笑顔で話しかけてきた。


「ここの村にはルールがあります。この祝祭では日頃、敵対している民族や、天敵同士の種族や動物が一同に集まります。いちおう、衝突が起きにくいようにエリア分けしていますが、全部はふせぎきれません。ですから、なにがあっても、ぜったいに(いさか)いをしないでください」

「あぁ、わかってるさ。ルールを守れなければ、願いを叶える前に追い出されるんだろ?」


「ええ。ぜひ守ってくださいね」

 少女はニコニコした顔をくずさずにそう言った。

 マハバーランはその表情がどうにも気になって、つい尋ねた。

「大変失礼だが……、きみたちはいつも、どうしてそんなに笑顔を絶やさずにいるのかね」


「はい。それはわたしたちが、目を見開くと、皆様、怖がられるので……」

 そう言って、少女がこちらを見つめた。


 四角い瞳孔—— 


 この世の、いやあの世までを、すべて見通しているような、悪魔のような目——

 射竦(いすく)められたようになり、マハバーランの足がおもわずとまった。


「たいへん失礼しました」 

 そうかるく会釈すると、少女はとってつけたような、わざとらしい笑顔に戻った。



 森の小道をぬけて、広場が見えてきた。

 ひとびとの声や、生き物の鳴き声、咆哮などが入り交じった騒々しい音が、しだいに大きくなってくる。


 広場に足を踏み入れた途端、マハバーランは、案内係の子が言っていたことが、いかにむずかしいことかを思い知った。



 なにがあっても、ぜったいに(いさか)いをしないでください——

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