第七話 追放・ざまぁ・今さらもう遅い 3
「ヤツはさらに別の生物へと変貌していました。魚人族とドラゴンの掛け合わせの……」
見開いたままの魚人のガラスのような目——
だが、口元は前に突きだし、大きく鋭い牙をそなえたドラゴンになっていた。先鋭的な顔つきのドラゴンに、うろんとしたおおきな目は、じつにアンバランスで、見るものに不安しか与えないような、不気味さがきわだったものだった。
頭部には魚の背びれとも、ドラゴンの羽根ともつかない鶏冠があり、威嚇するようにそれを逆立てていた。
背中からはつきだした羽根は翼竜のものというより、猛毒をもつ派手な紋様の魚の、おおきなヒレを思わせた。
「そ、それはほんとうにデザストなのかね……」
「ええ。残念ながら…… あいつの足首にはライリス・パーティーの仲間の証、三本剣の紋章のタトゥーがありましたから……」
「そ、そうか……」
ロマンツェは自分でも驚くほど、落胆した声で言った。
「それでそのあと、どうしたのかね……」
「はい。危険すぎると思いましたが、巨大蜘蛛、タランチュの巣へおびき寄せました」
「タランチュの巣へ? 大賢者でもあいつには手をやくと聞いたが?」
「ええ。わたしたちも追い詰められてましたからね」
そう言ってライリスは、天を仰いだ。そして上を見あげたまま言った。
「この作戦のために、戦士アランが命を投げだしました。デザストを追放する決断をくだした、自分たちのけじめだと言ってね」
「仲間を……うしなったのか……」
「ええ…… でもアランの捨て身の作戦はうまくいきました。デザストはアランともども、タランチュの巣にかかって身動きできなくなりました。あとは糸にまかれて繭になってしまえば、それで終わりのはずでした……」
「だけど半年後、タランチュがその繭に卵を産み付けたんです」
ロマンツェはどうなったのか想像したくなかった。ここまでの話を聞いていれば、どういう顛末になるか、予想がついたからだ。
「繭を食い破ってでてきたデザストは、八本脚で歩き回っていました。しかもからだからは、四つの頭が生えていたんです」
気味の悪いまだらの毛におおわれた蜘蛛のからだから、正面・後方・右・左と四方向から頭が生えていた。どちらが正面かはわからない。だがどこから近づいても、どの頭かとかならず目があった。
からだからは鋭い鍵爪をもつ、太く節くれだった八本の脚がつきだし、嫌悪感をもよおすカサカサとした音をたてて、自在に動きまわっていた。
そしてなによりこの蜘蛛は、ドラゴンの羽根で飛ぶことができた。
ライリスは話を続けた。
「わたしはアランをうしなって判断能力をうしなっていたんでしょうね。南ラークンにあるオーガ族に始末させる選択をとりました」
「南ラークンのオーガの里だとぉ! あそこは魔物ですら、避けて通ると言われるほどの蛮族の集まりだぞ!」
「でもデザスト相手には通用するはずないでしょう。はじめからわかってたんですよ。でも、あのときはそれにすがるしかなかった……」
「南ラークンのオーガでも歯がたたなかったのか?」
「あたりまえでしょう。まったくこの選択はまちがいでした」
「なにがまちがえていたんだね?」
「なにもかもですよ。あそこに手をだしてはいけなかったんです…… 弓使いのオルフェンが切り刻まれ、わたしも大怪我を負い、ほうほうのていで逃げ出しました」
「デザストは! デザストはどうなった?」
ロマンツェは声を荒げて、先を急がせた。
いつの間にか役職をわすれ、ライリスの話に引き込まれているとわかっていたが、ロマンツェは興味を抑えきれなかった。
「戦士の戦闘能力に、魔導士のスキル、大賢者の魔力を持っている上に、魚人とドラゴンと巨大蜘蛛タランチュの力まであるんですよ。いくら蛮勇でも、オーガごときが、彼の相手になるはずなかったんです」
「オーガは燃やされたり、溶かされたり、潰されたりして……喰われました」
四つあるうちのひとつの頭がオーガに変化していた。どろっと溶けたオーガの頭——
その醜いオーガの顔が、真ん中からパカッと裂けた。
頭が両側にべろんと垂れて、顔の断面がむきだしになる。
だが、半分に割れた顔の断面には、顔の両側を橋渡しするような筋ばったものがあった。まるで人間の肋骨を思わせる節くれだった筋繊維だ。
よく見ると両側の切り口の表面から、菌糸のような粘液が糸をひいている。
人食い植物の葉っぱが、誘引液を滴らせながら誘っているようにしか見えない。
デザストの二つ目の頭は、顔が半分にわれたまま、ケタケタと笑った。




