第七話 追放・ざまぁ・今さらもう遅い 4
「海へ……」
ライリスはぼそっと呟いた。
「大海に沈められないかと考えました……」
「もしかして……クラーケンか?」
「さすが魔法庁局長ですね。わたしとおなじ考えだ」
「ああ、あのイカのバケモノは、倒すための有効な魔法もなければ、魔力に守られた表皮は剣や矢でも貫くのがむずかしい。一度あの触手に絡まれて、水底へ引きずりこまれたら、逃れる術はない——」
「ふつうはそうです。ですがデザストはすでに魚人を取り込んでいた。海底を引きずり回されながらも、機会をうかがって、とうとうクラーケンを喰った……」
まだ変化していなかった残りふたつの頭のひとつが、変貌をとげていた。
それはクラーケンの脚が顔中に貼り付いたような顔だった。
顔中が吸盤のついた触手におおわれ、ぐにゅぐにゅと蠢いている。目や耳などは退化してなくなり、わずかに白濁した窪みがその名残として見てとれるだけだ。顔を這い回る触手の真ん中には、縦に大きく開いた口。顎から額までが裂けるように、ゆっくりと開いていくと、いびつに生えた歯が見えてくる。
彼は咽喉の奥にまで何列にも並ぶ、鋭く尖った歯をむきだしにして威嚇してきた。
「大賢者モースが申し出たのです」
ライリスが両手で目をおおいながら言った。くちびるがふるえて、いまにも泣きだしそうに見える。
「追放に賛成した自分がけじめをつける、と……」
「大賢者モースが? この世界でも十指にはいる術の使い手だぞ。おまえのパーティーにいたのか?」
「はい。わたしの才を気に入っていただき、過分にもパーティーに加わっていただきました」
「モースがいながら、なぜここまでデザストをとめられなかったのだ?」
「モースの魔法をヤツが喰らったからです。どの魔法を使っても、同等の魔法で跳ね返されたんです」
「あのモースの秘中の魔法まで、複製したというのか」
「自分と戦っているようなもので、どうやっても攻略ができなかったのです」
「彼は…… モースは砂漠を選びました」
「サ、サンドワームだな」
ライリスは弱々しく首を縦にふった。
「わたしはモースに激しく抗議しました。だが、聞き入れてもらえなかった」
「土の神と崇められているサンドワームの力を借りるのだから、自分の命を捧げなければならないと……」
体長100メルトはある大きなイモムシのような怪物サンドワーム。口のまわりには針のような歯が無数に並んでいて、この大地に足を踏み入れる者を、だれかれ構わず飲み込み、かみ砕く。
モースは魔法の力で自分とデザストを結束したまま、そのままサンドワームの口に飛び込んだ。ふたりはその鋭い歯でからだを貫かれ、引き裂かれ、ぐちゃぐちゃに潰された。
それでもデザストは死ななかった——
四つの頭のうち、変化していない最後の頭が変貌した。
それは若かりし頃のデザストの顔だった。
出会った頃を思いださせる、すっと引き締まったデザストの顔——
次の瞬間、ぶしゅっとなにかがはじける音がして、その顔のまんなかにおおきな穴があいた。その穴から、ぬるりとしたイモムシのような生物が顔をのぞかせる。その顔の部分には針のような歯が無数に並んでいた。
まるでサンドワームの幼生のような生物だった。
顔の裂け目のなかを、うねうねとワームが蠢いているのがみえる。と、そのワームのからだをつきやぶって、別のワームの頭がつきだした。そしてその個体をつきやぶってさらに別のワームがでてくる。
ワームが別のワームのからだを食い破ってでてくるたび、ぶしゅ、ぶしゅっと不快な音がして体液がしたたる。
「タクラモン砂漠での、モースの命懸けの賭けも実りませんでした」
「タクラモン…… ハメン王国とルードロン公国に隣接する砂漠ではないか!」
「ええ、わたしはそのふたつの国に逃げ込みました。ですが、パーティーの最後の生き残りであるわたしを、デザストは許さなかったのです」
「そ、そんなバカな…… で、では、あの二国が全滅したのは、デザストのせいだと?」
「最大限の努力ははらいましたが……」
「嘘をつくでない!」




