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第五話 魔法学園の惨劇 2

 だが、ある日、事故がおきた——



 いくつもの、考えられない偶然が重なり、信じられない惨事を産みだした、ということだった。

 その日、ルディンは父親の叙勲の式典に参加するため、午前中の半休届けをだしていた。


 それは三年生のポーション生成の授業中に起きた。

 業者から仕入れたポーションの材料の薬草のなかに、魔を呼ぶ『マガリミア』の種がまじっていた。

 それ単体なら生徒でも簡単に駆除できる魔物がでてくる程度だった。ところがそこに運わるく魔法の力を数倍にする『魔積算液』の原液がふりかかってしまった。

 突然、教室に出現した魔物に、生徒たちはパニックになった。そのなかで数人の優秀な生徒が、駆除の魔方陣や詠唱魔法で対抗した。


 だが、その魔法の組み合わせが禁忌だった。

 それは大賢者級でなければ知ることもない、あまりにも特殊な事例だったが、偶然駆使された複数の魔法の掛け合わせが、ありえないような効果を発揮してしまった。


 地獄の門がひらいたのだ—— 


「地獄の門!」

 パロッツオはおもわずたちあがった。

「学園長、ほんとうですか⁉ あの校舎のなかで、地獄の門がひらいたって……」


「ええ、不幸ということばで片づけるには、あまりにもむごい偶然—— でも、突然、教室のまんなかで『地獄の門』がひらいたの」


「ど、どうなったんです? その教室にいた生徒や先生は……」


 学園長はちからなく横に首をふった。

「床にあいた穴からでてきた魔物は、最終的には1000体を超えていたと言われています」

「1000…… あ、ありえない。全部が兵隊級の魔物だとしても、余裕で魔王一体分に匹敵するじゃないですか」

「その通り。さすが計算が速いわね。でも現われたのはほとんどが佐官級、なかには幹部レベルの将官級もいたらしいのです」


 パロッツオはドンと椅子に倒れ込んだ。


「この異世界が滅ぶ規模……」

「まぁ、そういう言い方もできますね。なにせ魔王五体分なのですからね」


「で、そいつらはどうなったんでしょうか?」


「異常事態に気づいた先生たちは、この学園の敷地に結界を張って、魔物を閉じこめるという決断をしました」

「せ、生徒は……」

「とても逃がしている余裕はなかったでしょうね。でも魔物をここから外に出すほうが危険だったのです」

「そんな……」

「それしか方法はなかったのです。賢明な判断だったと言えるでしょう。先生方だって必死だったことでしょう。強力な結界をうみだすために、みずからのからだを人柱にまでして、食い止めようとしたのですから」


「それって、禁忌の魔法じゃないですか! 自分の命と引き換えにする……」


「ほかに方法があったと思いますか⁉」


 アッヘンヴァル学園長が声をあらげた。

 パロッツオはその剣幕に、おもわずごくりと咽喉をならした。


「この学園の先生たちは、それだけの覚悟をもって魔法に向かい合っていたのですよ。お会いしたこともない先達ですが、立派であったと思います」


「申し訳ありません、アッヘンヴァル学園長。ぼくがもしおなじ立場にあったら、瞬時にそれだけの覚悟ができたか自信がありません…… すごいことだと思います」


「ええ。ですが、生徒の命は顧みられなかった。人類全部の命と天秤にかければ、仕方がなかったとはいえ、先生方も断腸の思いだったことでしょう」


「そのあと……ど、どうなったんです」


 アッヘンヴァル学園長は、上をみあげておおきく息を吐いた。


「パロッツオ、あなたの想像通りですよ。学園内の生徒全員が、魔物になぶり殺しにされました。生徒たちはみな優秀でしたが、戦うことなどできませんでした。あまりにも数がちがいすぎました。いえ、たぶん現われたのが一体であったとしても、おなじ結果だったでしょうね。力量差がありすぎたのですから……」


 パロッツオはゾクッとした。


 魔物たちが、生徒たちを追いかけ、楽しみながら殺していく姿が思い浮かんだ。


 泣き叫びながら、叶わぬ命ごいをしている生徒たちの姿——

 ばらばらになった死体を、玩んでいる魔物たちの姿——

 教室、廊下、トイレ、体育館、運動場、敷地内すべての場所が真っ赤に染まり、肉片がごろごろと無造作に転がった光景——

 敷地内にひしめきあう、おぞましい千体もの魔物の群れ——


 ありえない……

 そんなことがたった50年前にあったなんてありえない。

 これがもし本当だとしたら、人類はそのときに最後の日を迎えていたはずだ。



「その魔物は…… 魔物はどうなったのです?」

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