宿題
「宿題やらなきゃ。」
学生らしく鞄の中から筆記用具と数枚のプリントを取り出したアヤの邪魔はしないように目を閉じた。シャープペンシルが不規則に音を立てる。小さな黒い塊が立てる音は僕の耳に届く。アヤが不規則に音を立てる。唸り声だ。勝手に耳がピクリピクリと動く。正確に数を数えてはいないのだが、十回目の唸り声が聞こえた時僕は、目を開けて声をだした。
「どうしたの?」
「別に。」
「わからない問題でもあるの?」
「むぅ。本気を出せばわかるよ」
それなら本気を出せば良いのに。
「本気出さないの?」
「ちょっとは考え込んであげないと問題作った先生が可哀想でしょ。」
僕から目を反らすアヤ。僕はびっくりした。自分のため息で髭が揺れたから。
「僕しかいないよ。どうしたの?」
「本気を出しても分からなかったらどうすれば良いのか分からない。」
アヤはなんだか泣きそうだった。本気を出さないんじゃない、出した後が怖いんだ。また、髭か揺れた。
「素直になると少し楽だよ」
「でもね、本気を出しても出来なくて失望されるのが怖い」
出来ない自分が誰かにいらないと言われるのが怖い。人間は複雑だ。
「そもそも、勉強が出来るのと頭が良いことは同義ではないと思うよ。僕は、黒豹だよね。アヤがやってるような勉強は出来ないよ。でも頭は悪くない。勉強が出来る人はね、きっと時間を掛けて努力出来る人の事だよ。頭の良い人は自分を分かってる人の事だと思うよ。僕は、本気で努力をして勉強すれば本を一枚ずつめくる簡単な手順を見つける事は出来るんだ。でもね、アヤにめくって欲しいんだ。」
「ん?」
「僕は、自分で全てやってきたんだ。でも、アヤに出会って難しい事を手伝ってもらってる。先生も同じじゃないかな?」
「同じ?」
「そうだよ。アヤは僕に失望したから本をめくってくれてるわけじゃないでしょ。誰にだって出来る事と苦手な事はある。努力をしなくて良いとは言わないけど苦手な事は手伝ってもらえば良い。アヤが僕にしてくれるように、先生もアヤに教えてくれるよ。」
次の日から少しだけアヤのシャープペンシルは規則正しく音を立て始めた。




