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raison detre  作者: あや
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アヤは白い湯気を透明な空気に混ぜながら、甘い香りのミルクをゆっくりと飲み込んでいた。 僕はその隣でアヤの手元にある本を読み込んでいた。 僕とアヤは読み込むスピードが違う。 本のタイトルは「羅生門」芥川龍之介のお話だ。 僕はアヤの開いてくれたページに書かれている言葉を読む。声には出さない。本に書いてある言葉は、読めるし、理解する事は出来るけれど発音する事は、難しいと思う。口の構造がアヤと違うからかなって聞いたら。私も外国語で書いてある本はそうだよ。辞書を使えばきっと発音出来るようになるんだよって笑ってくれた。


「氷室君どこまで読めた?」


息が止まるかと思った。今まさに僕の目は薄暗い場所で何かを捕らえようとしていたからだ。このお話で一番びっくりする場面。その瞬間にアヤは僕に声をかけた。不本意にしっぽが揺れてしまった。


「びっくりした。今、上に登ったよ。だれかいた。」


アヤはゆっくりページをめくってくれた。 新しい文章が僕の目に映る。


生きるために必死で何でもする時代のお話だ。 このお話の底には自己嫌悪だとか儚い正義感だとか 同族嫌悪だとか絶望だとか。人間特有の感情で溢れている。 僕は黒豹だから、人間ではない。 人間ではないのだけれど、 僕は男の行動が理解出来るつもりで読み込んだ。 そして僕は 老婆の行動も理解できる。自信を持って言える。 男の行動が正しいとか正しくないとか、 老婆の行動が間違っているとか間違っていないとか、 そんな事はどうでも良いと思う。僕が彼らを理解した所で生きている時代も違うし。そもそも僕は黒豹だ。 理解出来たとしても、その行動を模範にするかは、また別の話だ。理解は出来るが真似はしたくない。僕の感想はこんな感じだった。


「アヤ。どう思った?」


ゆっくりミルクを飲んでいたアヤに声をかけた。


「ん?羨ましいって思った。」


僕はまっすぐ正面からアヤを見た。


「どうして?」


嫌悪感を抱くことは理解出来る。 羨望感を抱くアヤを理解したかった。


「死体の髪を抜き取ってまで生きて行きたい。そう思える女が羨ましい。自分より非力な者から何かを奪い取ってまで生きる決心をした男が羨ましい。二人の気持ちが理解できないのだけれど。それは、私に無い感情だと思う。」


自分に無いものをアヤは物語の中で感じとった。 自分には、必死に生きる感情が理解出来ないと寂しそうに語った。僕はゆっくりと話すアヤから目を離すことが出来なかった。

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