飲み物
アヤはにっこりと笑って僕を部屋に案内してくれた。
僕は居心地の良い低反発素材で出来ているらしい座椅子に座り込んでローテーブルの上に顎を乗せて眼球だけを動かし部屋を見渡していた。
本が多い。
本棚に入りきらなかったからなのか読んでいる途中なのかいろんな場所に積み上げられている。 どうやらアヤは本が好きみたいだ。
共通の嗜好が見つかって僕は口元がフニャリとしてしまうのを止められない。
アヤはどんな本を読むんだろう?
もしこの部屋にある本の中に僕が今までに読んだ事のある本があればアヤが何を感じたのか聞いてみたい。
「氷室君は、何飲む?」
ふいに声を掛けられ不本意にしっぽが揺れる。
なんだか恥ずかしくなった。僕はダークグレーのエプロンを苦戦しながら後ろで結ぼうと努力しているアヤに近寄った。
「僕は飲まないよ。アヤは何飲むの?」
アヤの肩に後ろから手を乗せ体重が掛けすぎないよう注意しながら僕はアヤの手元を覗き込む。
アヤからは甘い匂いがして、僕は思わず首筋に舌を這わせた。
「ふわぁ~」
エプロンの端をを持ったままビクリと小さく震えて、変な声を出しながら振り向いたアヤは可愛い。僕は体をアヤにすり寄せ僕より暖かな体を包み込んだ。
「ミルクとお酒?」
アヤの前には横文字を無理矢理、縦向きにして書き込んだラベルが気になる牛乳と透明なガラスのボトルに入れられたダークガーネット色の液体が置かれている。
「びっくりした。今日はね、アルコールとばしたチェリーブランデーとお砂糖入れたホットミルク。すぐ作れるんだよ。」
僕はアヤの肩越しに牛乳がホットミルクになるのを眺めていた。
鍋に注がれた液体が少しずつ加熱され派手な炎が鍋から上がった。
驚いた僕の鼻先でアルコールは気化して周りの空気に溶け込んだ。甘い香りが漂う。
「甘い匂いがする。」
「近づき過ぎるとお髭が燃えちゃうよ。」
にっこり笑った口元に目が行く。
美味しそう。
咀嚼して飲み込んで僕の中に閉じこめてしまいたい。
しかし理性は時々、僕の限界を簡単に飛び越える。よくわからないけど我慢。
「氷室君は本が好きなの?」
「うん。沢山読んだ。紙を一枚ずつめくるの大変なんだよね。アヤが簡単にできる事が僕には出来ないんだ。」
「今から一緒に本読もう。読みたい本教えて氷室君。」
僕は部屋中にある本を眺めた。
そこにあるのはジャンルも厚さも言語もバラバラな本だった。




