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raison detre  作者: あや
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彼岸花

僕は隣のアヤに歩幅を合わせてゆっくりと歩いている。 まだ見えないアヤの住んでいる場所に向かう途中だ。


「氷室君。これ何?」


アスファルトで舗装された歩道から横に逸れて、スカートが土の地面に覆い被さる事も気にしないでしゃがみ込み何かを見つめてた。


風に揺れる黒い髪の毛が僕を誘っているようだ。 揺れる猫じゃらしには惹かれない。僕は黒豹。 僕は無防備なアヤの背中に飛びついた。しゃがんだアヤの肩に手を乗せさらにその右手の上に顎を乗せた。 甘い香りを感じ取りながら僕は、 アヤのあまり高くない体温をすぐ側に取り戻して安堵している。


「いきなりしゃがみ込んで、どうしたの?」


「氷室君。重たいよ~あんまり体重掛けたら私、前向きにこけるよ。」


アヤの視線の先には、真っ赤な彼岸花が咲いていた。 すっきりと延びた濃い緑色にそれと真逆の真っ赤な華。 アヤの真っ白い指は興味深そうに真っ赤に伸び上がる華の先端に触れるか触れないか絶妙な位置にある。


「ん?これは彼岸花だよ。きれいだね。」


「ひがんばな?」


「そうだよ。お彼岸に開花するから彼岸花。」


「葉っぱが無いから変な感じだね。誰かに捕られちゃったのかな。」


「いや。この華は葉っぱがある時は華は咲かない。華が咲いてる時は葉っぱはない。」


僕は何もかも知ってるわけではないけれど 僕は何もかも知らないわけでもない。 花と葉が同時期に存在しない華が海外では相思華って呼ばれていることも知ってる。


「不思議だね。」


「葉見ず、華見ず。葉は華を思い、華は葉を思う。」


なんて綺麗な言葉なんだろう。 お互いに見たことも無い相手を思う。 なんて無謀な行為で、なんて無謀な恋なんだろう。


「綺麗な緑なんだろうね。」


「今度図鑑で見てみようか。」


「うん。一緒に見る?」


僕ではなく華に話しかけるアヤは土の近くからしっかりと根付いている華を手折ろうとしていた。


「ダメだ。この華は持って帰ってはダメなんだ。」


思わず耳元で声を荒げてしまい、ビクリとアヤの指先が震えた。意図的に植えられた華ではない雑草だ。そしてこの存在感がある真っ赤な華は持ち去られたとしても道行く人は気が付かない。持って帰ったとして誰も困らないだろうし誰も文句を言わない。


しかし、この花は何故か縁起が悪いだとか、火事を引き起こすとか、迷信が絶えない。


「だめ?」


耳には味覚は無いはずなのに甘く聞こえるアヤの言葉。


「部屋に飾ると火事になるらしいよ。それでも良い?」


「良くない。でも葉っぱがどんな姿なのか見たいよね?」


アヤは何の違和感も無く、まるで感情がある相手に話しかけるように華に話しかける。なんて綺麗なんだろう。 しばらく沈黙が続いた。




時代錯誤のカメラ。時間を無理矢理小さな紙切れに焼き付けて保存できる機械。デジタルが主流にもかかわらず、アヤが持っているのはポラロイドカメラ。 シャッターをきる音だけが三回響く。


一枚は枯れゆく華に 一枚はまだ見ぬ葉に 一枚は去りゆく僕らに




また一緒に見ようねっとつぶやいたアヤの言葉。


僕は何もかも知ってるわけではないけれど 僕は何もかも知らないわけでもない。


そんな僕は、アヤに教えなかった。


ヒガンバナの花言葉は、


「悲しい思い出」


「また会う日を楽しみに」


僕達はまた歩きだした。

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