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兵主部弐 ビブロフォビア─ひょうすべの日本史─  作者: ずずつすず
罔象の水辺
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五 武の民

 兵、といいつつ、秦氏は、武人や軍人を出したわけではないーーーだが、「武」というものの本質は、それなのだろう。

 最前線で血煙に巻かれるのは、無論、兵士たち・・だが、それ以上に、軍隊や武力を構成する要素は、一国の合理主義や技術力に他ならない。

 製鉄の技術が武器や防具を向上させる、

 土木建築は道路や城砦を造る術となる、

 工芸の技術は戦車や馬具を生み出すのに役立ち、

 農業さえ、そもそも多くの人口を養いそれだけ兵員を供出する基盤となろう。

 

 武は、その本質は、武術以上に、()()なのだ。

 

 それを物語るかのように、最古の武神・蚩尤の膝元に集まりつつある兵主部は、農夫であり、工匠であり、商人であり、官人だった。

 さまざまな身分のものたちが、赤い瓦と旌旗で装われた、兵主神社に結集する。

 智に働けば角が立つ、情に棹させば流される、意地を通せば窮屈だ、兎角に人の世は住みにくい・・

 人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣にちらちらするただの人である・・

 (人よ)

 ふと、気持ちが陰る。

 (わしらは、ただの人なのじゃ)

 

 なればこそ、この人の世に呑まれることとなるーーー溺れる・・

 

 上代より傲然と野に君臨した秦氏も、濁濁たる時流にーーー国風の成立に、埋もれ、流され、溺れることとなる・・

 (やむを得ぬ)

 そう思いつつ。

 国風わがくにぶりに一筋通った、この漢風・・

 あやは。

 漢たちは・・

 真紅の道服をまとった徐福が、細い雨を垂らす空を見上げる。

 「ほどなく、日も暮れよう」

 目を細める。

 「しばし待て――神明の渡らせ給う刻限は、ぞ」




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