一 洗礼
徐福は、小泉川を清澄の水面にーーかがみ(鏡)の水面に変える神変を印し、
うすさま明王(烏枢沙摩明王)のぐえ(解穢)のほむらい(焱)に包まれて凄愴に立つ・・
本邦の浄化の水神、罔象女神に、跪く。
「御身に働いた罪ーー
重ね重ねご無礼の段、わが身を神意神罰に委ねることでごカンジョ(ご寛恕)いただきたく」
刷雄が、息を呑む。
罔象女神が、動き出すーー動く・・とはいっても、それは、薄紙越しの灯が移ろうようにーー
水の流れのように、
日月の動きのように、
自然に映った。
自然。
徐福の前に立った罔象女神が、その細い手を、そっと、秦の方士にかざした。
ーー覿面ーー
それは、霊感にさえ映らぬ透明度・・
されど、凡夫を含め、誰もが感じたのだ。
drop(着水)
ーーwave(波紋)
さざなみ(漣)が達する。
圧倒される。
滴ったーーいや、垂れたのだ。
恵みのように。
注がれた。
(か、灌頂〈カンジョウ〉か・・?)
刷雄は、目を見張って、
女神が、不敬ものにもたらしたblessing(祝福)を見守る。
否ーーbaptisma(洗礼)だ。
灌頂ーーそれは、洋の東西問わずに存在する、
禊ぎと聖化の様式だ。
頭頂部に水を注ぐことで、対象を聖別するーー
聖なる一雫が、
おのれの脳裏の煩悶や恐れをほどき(解き)流し去るーー
徐福は、脳内を、冷たく冴えた霊水が廻るのをーーあたかも、瓜が割れて水が噴いたように感じている。
女神の言葉が聞こえたような気がしたーー
上善、水の如し・・
水は、高きから、
人の厭う低きへと、
すすんで流れて行く
朝となく、野となくーーーーーと。
女神は、そう仰ったのだ。
(あっ)
どうか、お健やかに。
徐福は、頭を垂れたーー心底から。顔面にしわが寄り、それが集約するところ・・熱い、そして、すぐに夜気に触れる潮が、したたり落ちていった。
「忝うございます」




