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兵主部弐 みあれのよる  作者: ずずつすず
八幡の第
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18/23

十一 開発者

 鳥が鳴く(枕詞)

 あづまの国。

 (カイホツ〈開発〉かーーこやつ)

 利器を用いるのか。

 

 文明の利器を。

 

 利器とは、鋭い武器ーーあるいは、便利な道具。

 たとえば、鋭い鉄のbladeがついた鋤鍬など。

 

 「ーー騎馬民族を追うもろこし(唐土)のごときやり口よの」

 

 なにが、北狄とも恐れられる華北の騎馬民族を退けるかといえば、

 Mongol草原に差し込まれる、農夫の鍬だ。

 田畑が広がれば、草原は消える。

 蒙古もお手上げである。

 (墾田永年私財法)

 天平十五年(七四三)聖武帝の御代に制定された法律だ。

 それまで、公地公民、全国の土地は天皇のものだとする律令制の原則を、三世一身法(七二三、土地を開墾したものから三代の間私有を認める)で改めた。

 土地が自分のものにならない、働かされるだけ働かされて、死ねばお国のものになるーーそれでは、労働の意欲が上がらない。

 天皇への忠誠心は、生活の実質に踏み込まないところにあるのだ。

 だから、三代の私有を認めた。

 それでも、依然、勤労意欲は上がらず、聖武帝は、遷都を連続する彷徨五年の最中に、墾田永年私財法を定める。

 公地公民の原則から、土地私有の門戸が大きく開かれた。

 今、国家の開発熱は昂じており、その焦点にあるのが、東国だった。

 (われらもこの波に乗れ、ということか)

 「律令の原則は公地公民なれば、私田が認められたところで、公はこれを脅かし、何くれとのう因縁を付けて、巻き上げようとしましょう」

 徐福が言う。

 まだ、面は伏せたままだ。

 それでも、氏長者と互角に言葉を交わす。

 (ひれ伏しておれば、それで、口利ける資格がある、というわけでもないのだぞ)

 慇懃無礼。

 それでも、紡ぐ言葉は、謙譲だった。

 「事実、東国に入ったものたちの報によれば、私田を接収されることもしばしばあるとのこと

 「土地を耕すものと、その私田、それを我がものとせんとする公・・この対立は、向後の埋み火となりましょうや」

 貴族や寺社勢力に保証される不輸不入特権

 「不輸」租税免除

 「不入」警察権や司法権をもつ役人は立ち入れない

 というものであり、後年、これを享受せんと、貴族や大寺院に私田を寄進する動きがあいつぎ、摂関家、延暦寺興福寺東大寺といった巨刹、石清水八幡宮も巨大化した。

 作者は、不輸特権が主眼で、いわばtax haven として巨刹名門を利用していたのだろうとかんがえていたが、公地公民を切り崩してきた経緯がある。国家には、積極的に私田をわがものとし、公田に編入したい、という動機がある。

 これを回避するために「不入」をもとめる心理も深刻だったのではないか。

 「われらが班田収授法をきらうように、土地を耕したものが、その耕作地をわがものにできぬというのは、筋の通らぬ話

 「この心理はやがて開発される関東にも相通じましょうや。この心理を軸に、われらの基軸たる合理と技術、信仰や遺風を根づかせていくこともできようかと」

 関東の開化を助けることで

 はた氏への感化を広げていく。

 だが、それは、東国人とはた氏の交雑にほかならないーーますます正体は失われ、自分たちは、卑賤な妖魔へ、堕していくこととなろう。

 

 それでも、おのれらの、深奥の核心は、

 

 武より発した合理を追究する原理は、

 

 必ず、蛮人どもの間に移植されよう。

 

 (それがせいぜいなのかーーかくもあえかな遺産を残すことが)

 

 はた氏に残された、最後の余地なのか。

 

 『徐福が向き合ったものは、それほどまでに、大きい。

 人も、その矜持も、その連なりもーー笑い飛ばす。

 

 笑殺する。』

 

 (ぬううううううう)

 

 『「結ばれぬ」

 とでも、せせら笑うかのようにーーー

 

 お前たちの営為も、尽力も、切望も。

 ・・歴史も。

 

 どうして、かくも獰悪なスマイルが立ち現れる。

 なんで、かくも救われぬ様相が牙を剥く。

 

 報(・)わ(・)れ(・)る(・)こ(・)と(・)な(・)ぞ(・)、(・)は(・)な(・)か(・)ら(・)約(・)束(・)し(・)た(・)覚(・)え(・)が(・)な(・)い(・)ーーそううそぶくなにものかが、伏在しているかのように!』

 

 報(・)わ(・)れ(・)る(・)こ(・)と(・)な(・)ぞ(・)、(・)は(・)な(・)か(・)た(・)期(・)待(・)し(・)た(・)覚(・)え(・)は(・)な(・)い(・)。

 

 そう昂然とうそぶくなにかとして、伏在してあること。

 

 それが、はた氏の勝ち取れるせいぜいか。

 

 負け犬の遠吠えとそしられようとも、

 

 無常とか、世の理とか、

 

 それが人の世だといううそぶきに対し

 

 音を上げる前に、掲げることのできる、最後の虚勢だ。

 

 〝われらはちがう〟

 

 異なっている。

 

 『異なことだ。

 

 帰化し、泥んで、一つになる。

 それが、成功への道ならば、ことさらに、異なっていることを、なぜ訴える。

 異なってあることを、なぜ打ち出していく。

 鐘のように。

 失われていく輪郭を、謳って止まぬのだ。

 魍魎となろう、ぬえに変じよう。

 

 正体の分からぬものに、消え果てていくのだ。』

 

 「分かった」

 

 やわたのつかさが言う。

 徐福が、面を起こす。

 

 「虚勢でよかろうーー枯れ木も山の賑わいで結構

 「最期まで体面を気にせずして、なにが巨大野党よ」

 

 なにもかもが、押し流されてゆく。河のように。

 「逝《ゆ》く者は斯くの如きか、昼夜を舎《お》かず」

 そう、愛惜すらなく、ちりぢりに、はなればなれになって、膨大でとりとめのない「今」と、いつだって向かい合う。

 

 忘れ去られるのは常だとしても

 

 一時代を築いた野党には、沈没する際までついて回る、責任がある。

 

 次代に、席を残すのだ。

 

 次代が、せめて、自分たちの面影を宿してくれることを、祈るのみだ。

 

 われわれの時間は、過ぎたのだ。

 

 そこにfrontierがあり

 

 そこに、渡来人として、先進を掲げて挑む

 

 その過程にのみ、はた氏は成立していたのだ。

 

 気づかされた。

 

 その条件がなくなった時、はた氏は、途絶えるしかない。未開─障壁─挑戦─打破・・その閉塞だけが、はた氏を活かす。

 合理主義は、この閉塞を自ら求めるという非合理にのみ、採用される。

 他の場の合理主義など、結句、ただの自己正当化の言い訳に堕する。

 人間は、元来が、合理主義に息づく生き物ではない・・技術者という人種すら、そうだ。

 

 技術が必要な現場に出て行くことでしか、技術者は技術者たり得ない。

 

 「かつて、古墳時代にあった要請が、もはや中央に絶えてないのなら

 「わしらは、出向く以外にないのであろうな

 「鳥が鳴く東国《あづまのくに》へ」

 陸奥

 みちのくにも。

 

 かの地にある、古代的な行き詰まりを解消するーーそれがはたうぢ(秦氏)の、開発なのだ。

 

 やがて、かの地のものたち自身が、そうなろう。

 

 それだけが、はた氏の勝ち取れる、王座なのだ。

 

 王将に次ぐ玉将が座ることのできる、玉座なのだ。

 

 日出ずる処にて、日没する処の天子を名乗る一族が勝ち取れる、栄冠なのだ。

 

 

 

 



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