十 ミーム
(〝魔〟のような目をするではないか)八幡司は、むしろ、おのれの内に秋風を感じている。
趨勢は非
非
非
非!
われわれ自身が切り崩され、魍魎になり、ぬえに変じていくのだ。
加羅の言葉を話すものも減った。
帰化の現実を前に
〝然り〟
〝然らず〟
いかにふんばっても
(本然さえ忘れ果てているのにか)
忘却に沈もうーー自然のままに。
無為自然であろう・・はたの方士よ。
せめて、泰然自若としてあれ。
「どのみち、大局は動かせまい」
くい、と、顔を持ち上げる。
「件の妖魔は、本体を忘れ去ったわれらのなれの果てだ。今のわれらに、どれほど〝秦人〟の名残がある? 弓月の君に率いられた頃の鋭気とありようをとどめるものがどこにいる?」
すでにわれわれは帰化しつつあるわ。
そういった。
帰順
帰服
その過程にあるのだと。
「なるほど、はたほどの野党が投じることで、あるいは、局面を揺るがすこともできるやもしれぬ。
「野の、官の
「いずれかの優勢へ持って行くことも叶うやもしれぬ。
「だが、どのみち、われわれは正体を失う」
奈良の都もふんばれぬ。
この長岡京に呑み込まれる。
この長岡京すら
次の千年の供犠に捧げられるかもしれないのに。
〽千代に八千代に
さざれ石の巌となりて
その最中、苔のむすまで、どれだけ、挽きつぶされるものが出よう。
きらぎらしき新時代の供物となり果てるのは、われらのみではない!
「どのみち、われらは消え入るわ
なれば、京洛にあった方が、まだしもというものであろうが」
氏長者の目が細まる。
「われらのみが、例外だろうと思ったのか?
あの鬼の王が、ただの凡愚だったとでも?」
誰も敵せぬだけだ。
なにもかもが形を変えていく。
無常と観望する以外にない、真理だ。
永久よりも救いのなかろう
恒久だ。
「はーー」
徐福も、屈した。
「変わりゆくは時代の常なれば、われらも形を失い、その所思も英邁さも、やがて忘れ去り、角を矯められ、わけのわかぬ仕儀に落ち着くこととなりましょうや」
それでも、われわれは軍神の部だ。
大伴の長歌とともに、大君への忠誠を誓ったが
かつて黄帝と覇を競った蚩尤の眷属だ。
なんじょう、日本の帝を相手するその一条で、屈してあろうか。
(仕えながら、背きつづけるーー
ここからは、難しい軍〈いくさ〉となろう)
侍ひ(さぶらひ)ながら、
侍はぬものに。
まつろいながら
まつろわぬものに。
順調に進みつつある王化と、国風の浸透。
なびきつつある地方。
そこに、なお、泥まぬ風致を紛れさせることが、できるのだろうか。
大勢が決すれば、あとは、圧倒的に・・一気になびいていく生理が、不思議と、この頃からこの国にはある。
(蛮民へーー)
王臣と仕え、王将を奉りつつ
なお、玉将として対峙してある。
そんな至難の局面に、持ち込めるだろうか。
蚩尤の民たり得だろうか。
「それでも、われらが、われらたり得ものを遺せるのなら」
形は失われ、面影さえなく
それこそ、影の端のにじみのようにあえかな存在になっても。
それは境界線を決定づけるーー境界線そのものになる!
「なに」
「痕跡でも、事跡でものう、われらが有り様の一部を、いずこかへ織り込むことができるのなら」
武を、技術を、合理主義を、
戦場と生存の現実を活かすことのできる未開地こそ
古代的状況に依然置かれているその大地こそ
われらを生かすことができるのではないか?
そして、その合理思考こそが
公地公民という労働者の成果を接収する体制に対し、
最後まで〝峻拒〟を温存する、力強い反骨となるのではないか?
朝に仕えつつ、朝に背いていく。
(その遺志を、お主らは継げるのかーー蛮民ども)
「かの地にて、われらのあり方を、遺風として託しとうございます」
飛鳥尽きて良弓蔵(隠)る・・それが、飛鳥時代を過ぎた以降の、はたの運命ならば。
われわれはもう一度、鳥の飛ぶ天地へ旅立つべきだ。
飛ぶ鳥を落とす勢いを見せてくれる!
飛鳥(あすか、もともとは、やすか、安処、安らげる場所)を、もう一度勝ち取るのだ!
「鳥が鳴くあづまのくにに、氏族の命運を託しとうございます」




