九 宣戦布告2
「ヤマトと、われらの協約・・その輝かしき日々。
恩義も、それに報いた昔日も、その充実も、百も承知ーーその上で、どうしても肯んぜぬものが、わが肚の底に居座ってどかず・・兵主蚩尤の眷属たるものが豊葦原千五百秋瑞穂国・・楽園に呑まれて消えるこの結末を、どうあっても受け容れがたく」
うずくまり、愁訴する・・鬼が哭くように。
啾々と。
この現況を揺り動かして止まぬのだ。
鐘のように。
『失われていく輪郭を、謳って止まぬのだ。』
「この儀ーーなんとしても譲れず、
「この条ーーいかにしても裏切れず」
『「それでいい。われらは勝利者だ。太秦を起点とし、どれだけ多くの挑戦と繁栄を閲してきたことであろう。この上、野より官に下り、高位をいただき、栄爵を授かる。その未来は、希望にあふれておる」
鬼火が燃える。幾百千という、秦の鬼どもが、兵主と向き合いながら、涙した。
「それでも、闇の中に置き残した過去が、忘却の向こうに置き捨ててきた本貫が、わめくのだ。魍魎のごとくあいまいとした、ぬえのごとく得体の知れぬものになる。それでも、魍魎の陰が歌い、ぬえの一部が騒ぐのだ。〝われらはちがう〟」』
「ヤマトに呑まれる未来を・・この決定的な敗北を、兵主の部たるものが手をつかねたまま、享受することーー断じて受け容れることができぬのです!
魍魎のごとくあいまいとした、ぬえのごとく得体の知れぬものになりましょう。それでも、その魍魎の陰が歌い、ぬえの一部が騒ぐのだ。〝われらはちがう〟!」
悲鳴のような、
絶叫のような
しかしそれは、咆吼だ。
はたの氏族が、意気揚々とーーいや、鬼気凄愴に
兵主部らしく
ひょうすべとして
楽園へと放ったwar-cryだ。
たとえ、それがもっとも現実的で、妥当な線だとしてもーー
そこで妥協するには、我が儘を矯めて鋳型に押し込まれるには
われらはまだ、あまりにも
この鋳型から、妥協を引き出せていない!
対等な交渉を諦めることが、鋳型に対する誠実な向き合い方だとは、〝隣人〟としての在り方だとは、どうしても信じることができないのだ!
「この儀、この条、是非に汲んでいただきたくーーわれら軍神の部が、存亡の瀬戸際にあって拱手傍観に徹してあること」
楽園と。
「ヤマトと一戦せぬ内に氏族の歴史に幕を下ろすこと、どうあってもご再考いただきたいのです!」
ひょうすべの声が響く。
〝隣人〟ですらなくそうとする、万物万象万人を呑み込む深淵よーー
何もかも砕き、自家薬籠中に塗り込めながら押し流す濁流よーー
〝われらはちがう〟
この一条を呑み込めぬのなら
お前は傲慢だ。
当方は一戦に及ぶもやぶさかではない!
根限りだ。
貴様にも、精根傾けていただこう。
無視と黙殺で塗り込めた時間で、許諾を引き出せるほど、生やさしい相手だけではないのだと
当たり前の現実に、立ち返っていただこう!
われらは愛し合うために生まれたーー然り
われらは切り結ぶために生まれたーー然り
われらは妥協に押し流されるがまま生きるために生まれたーー然らず!
断固として然らず!
然らずんば
御身に一戦所望する存念なり。
日本よ。
世界に対する覚悟を決めた時、
すでにその個人は、
〝闘争〟の名にかけて、それ以外と対等だ。
すのこの上に這いつくばりながら、それでも、切り結んでいるーー
こういう戦いも、ある。




