9話 見せもんじゃないんだけど
9話 見せもんじゃないんだけど
休み明け、いつも通り通学路を歩いていると生徒たちからの視線を感じていた。
「あれ、本物だ」
「意外な組み合わせだよね……」
なんか有名人にでもなったみたいだけど、なんで?
後ろからたったったと地面を蹴る音が聞こえる。
また狼谷さんがぶつかってくるのかなって思って振り返るけど、彼女じゃなかった。
「おはよう、田貫」
「おっす」
走ってきたのは男子二人だった。
活発そうな茶髪と、クールそうな黒髪。二人ともモテそうだな。
たしか、クラスメイトだったような?
名前はよく知らないけど。
「二人ともおはよう」
とりあえず名前を呼ばずに挨拶を返す。
これなら自然だろう。
「なあ田貫、お前ってさ」
「ほんとに聞くのかよ。よせって」
一人が俺に何かを聞こうとしてるのを、もう一人が制止する。
二人には、うずうずとした好奇心が見え隠れしている。
「気になってんだろ?」「そうだけどさ」なんてやり取りが繰り広げられる。
「どうした? 俺に聞きたいことでもあるのか?」
活発そうな方が待ってましたと言わんばかりに口を開いた。
「田貫、前の休みに狼谷さんと出掛けてたよな?」
「んな!」
いつの間に、見られてたか?
繁華街だったし、狼谷さん目立つもんな……。
「その反応マジってことだな」
「な! 言ったろ?」
盛り上がってること申し訳ないけど言っとかないと。
「二人が見たことは黙っててくれないか。きっと狼谷さんが嫌がるだろうから」
狼谷さんも限定品を買うためとはいえ、俺なんかと出掛けたことが知られたくはないだろう。
「いやいやいや、嫌がるもなにも……」
一拍置いて二人は「なあ?」と顔を見合わせていた。
そして、スマホを操作したあととある画面を見せる。
「彼女があげんだよ」
見せられたのは何かのSNSアカウント。
アカウント名は@kamikami_tanutanu
説明文:田貫のことあげてく。
「なんだこれ」
「おいおい、知らねえのかよ。狼谷さんのアカウントだと思うぜ」
ほら、ここ、とアイコンを指差す。
そこに写っているのは狼谷さんの自撮りだった。
写真でみると余計に美人が際立つなあ。
昨日こんな人と出掛けていたなんて、信じられない。
「そのアカウントと俺のなんの関係が?」
「とぼけちゃって」
「そんな言い方良くないぞ」
一人からは呆れられ、一人からはちょっと叱られる。
俺がなにかしたのかよ。
ただのアカウントだけかと思っていたけどひとつのコンテンツが載っていた。
気になっている俺を見てか、活発な男がそれをタップする。
どうやら動画らしい。これを見ればなんで俺が狼谷さんと出掛けたかが分かるのか?
「……え、ちょっ!」
その動画には俺が映っていた。それは昨日一日の場面を切り取って繋ぎ合わせたようだった。
ジャージ姿から、イケイケファッションの俺まで。
あ、こんなところも撮ってたのか。
動画には『ダサすぎ』とか、『マシになった』とかのテロップが添えられてある。
これは狼谷さんが書いた文だろう。
つまり、と俺はつばを飲み込む。
あの人、俺を晒して楽しんでる!!??
焦りからバクバクと早鐘を打つ心臓を抑えながら、一つ確かめなければいけない。
「これってさ、誰が観ることができるんだ」
この恥ずかしい映像をどれだけの人数が見たか、それが問題だ。
「限定公開でフォロワーが178人だから、178人には見られてるんじゃね? 見た感じ全員俺らの学校の生徒だな」
なんだと。178人って全校生徒の約1/5じゃないか!
俺が驚愕している横で、お、またフォロワー伸びてるなんて彼は呑気なことを言っていた。
「SNSやってない狼谷さんがアカウント作ったからフォローしに行ったらさ、上がってるのがお前でびっくりしたぜ」
「俺は、お前が教室でも絡まれてるからそういうことかと思っていたが……」
そういうことってどういうことだ。
恐らく、いじめられてるって思われていたんだろう。
それから靴箱や階段、すれ違う人たちから視線を浴びながら、教室についた。
「田貫くん来たよ」
「へーあいつが狼谷さんの」
「お、有名人じゃん」
教室で受ける視線は靴箱や階段で受けたものとは訳が違って、知らないのは自分一人だったんじゃないかと思うほどだった。
狼谷さんは既に登校していて、気怠そうに頬杖をついていた。
隣の席に足を運んだ俺はカバンを降ろしていう。
「狼谷さん、昨日俺のこと撮ってネットにあげてただろ」
「へえ、知ってたんだ」
狼谷さんが片方の口角を吊り上げて笑う。
「よく撮れてたでしょ?」
「顔までバッチリな。おかげで時の人だ」
「ずっと有名にしてあげるけど?」
「これからも撮る気かよ……」
やっぱりあれはいじめの一貫みたいだった。
周りもなにやらにやにやとこちらを見ているだけで、止めやしない。
くっ、なんて辱めを受けているんだ。
「まあまあ、田貫。そんな詰め寄るなって」
「いいじゃないか動画くらいさ。かわいいもんだろ」
今朝、通学路で俺に話しかけてきた活発な男と、クールな男のそれぞれが俺の肩に手を置いてたしなめてくる。
「お、お前ら……」
いつの間にやらクラスぐるみのいじめになっていたなんて、知らなかったぞ。
「ふふ……」
笑い声がして狼谷さんをみると、性懲りもなくスマホを俺に向けていた。
「また撮ってるだろ」
「いいじゃん。減るもんじゃないし」
「おかげさまで増える一方だよ」
言っても聞かないのは今に始まったことじゃないので、俺は呆れてしたいままにさせる。
「狼谷さんが笑ってる……」
「うわ、初めてみた」
両隣の男子たちがボーっと固まっていた。
それだけでなくクラスメイトも一様に驚いた顔を見せる。
「なに、見せもんじゃないんだけど」
自分が注目を集めているのは面白くなかったのか、狼谷さんはハスキーな声をさらに低くしてドスを効かせて威嚇する。
クラスメイトがさっと顔を逸らし、「すんませんでしたぁ!」と二人は、ぴゅーと自分の席に帰って行った。
狼谷さん強すぎる。
狼谷さんは、うざ、と頬杖をつき直しむすっとした表情を浮かべていた。
これまでやられぱなしだったけど、やり返せたようでなんだか嬉しい。
「は、ははは」
「笑うな、ばか」
狼谷さんは悪態をつきながら、つんっと俺の脇腹をつつくのだった。




