7話 俺は諦めが悪いんだ
「整理券がない?!」
「うん、どっかで落としたのかも……」
狼谷さんは下を向きながら声を落とす。
どっかってどこだ。朝一に貰って以降色んな所を回ったぞ。
「狼谷さん探しに行こう」
「うん……」
元気のない狼谷さんを連れ、行動を思い出しながら朝に回った家電量販店やホビーショップ、ファーストフード店を回っていく。
店員さんに聞いたり、辿った道のりを歩いても整理券は見つからなかった。
「田貫、もういいよ」
「狼谷さん」
「一枚はあるわけだし、これで買いにいこ。あー、田貫呼んでて正解だった」
諦めたように狼谷さんは痛々しい笑顔をみせる。
脳内に、整理券を受け取ったときの喜色ばんだ笑顔が浮かぶ。
こんな悲しい笑顔、見たくない。
「それじゃあ欲しいの当たらないかもしれない」
「もともと二つ買っても当たらないかもしれないし。最悪、二次流通もあるから……」
「それは違うだろ」
「え……」
俺は続けていう。
「絶対に拾う。俺は諦めが悪いんだ」
バレーのコートを思い出す。
マッチポイント、相手のスパイクが飛んでくる。ここで俺が落としたら試合終了。
そんな場面は何度もあった、ボールが落ちるまでは続く。だから、拾いあげるんだ。次に繋げるために。
「でも整理券の時間があるし、遅れたら買えないから。もういいって」
「整理券ってどこに入れてた?」
狼谷さんを無視して聞く。
「……パンツのポケットだけど」
「狼谷さんは俺の整理券持って、先に店に行ってて」
俺は整理券を彼女の手のひらに握り込ませて、走り出した。
背中から「田貫、どこ行くの」と聞こえてきたが振り切って行く。
はあはあ、なんだこのブーツは走りずらいな。
これだったらジャージにスニーカーの方が良かったよ。
こんな格好した奴が必死に走るのはかなり目立つ、でもそんなこと気にしていられなかった。
時間が刻一刻と迫っていく。
「はあ、はあ、はあ。すみません! 落し物ありませんでしたか?」
「先ほどの彼氏さん。落し物ですか」
たどり着いたのは狼谷さんと来た服屋さんだった。
店員さんがなんか勘違いしたままで、訂正したくなるけど、もういい。
「小さい紙、整理券です」
「あ、これのことですか?」
店員さんがレジの引き出しから、整理券を取り出してくれた。
「それです!」
どうぞ、と手渡された後、俺は家電量販店まで走っていく。
入り口に到着するもまだ安心できない。フロアは8階。
ったく、階段多すぎんだろ。太ももがパンパンだ。
そしてフロアに到着する。売り場には狼谷さんがいた。
きょろきょろと見渡している姿は、迷子の子どものようだった。
走ってくる俺をみて、狼谷さんの顔が明るくなる。
「田貫! 遅い!」
「お待たせ。間に合った?」
息を切らしながら尋ねる。
「後、三分遅れたら無理だった」
ということはどうやら間に合ったらしい。
スタッフさんに整理券を渡してお目当ての商品を購入する。
ここもお金は狼谷さんが出しいた。
それから公園に移動し、ベンチに座って水を飲んで一息つく。
「ぷはあ。とりあえず買えて良かったよ」
「ねえ、どこにあったの?」
「あの服屋さんだよ」
あそこか、と狼谷さんが声を漏らす。
「なんで分かったの?」
「ポケットに整理券入れてたって言ってただろ。あそこでスマホ取り出してなかった?」
「あ……」
「きっとその拍子に整理券が一緒に出てきて、落としたんだと思う」
あのとき店員さんに妙なこと言われて足早に出ていっちゃったし、気づけなかったとしても無理もない。
「……ありがとう」
狼谷さんに素直に感謝されると、少しこそばゆい。
どう返せばいいか分からなくなった俺は話題を変える。
「そうだ。買ったグッズを開封しよう」
「だね」
狼谷さんは買ったグッズをレジ袋から取り出す。
種類は全8種類。
『諜報員スパキュア』の二人いる主人公の通常服と変身衣装バージョン。
バディ妖精が二匹、この中に『ぶちゅっと』もいる。
そして、敵なのに無類の人気を誇る女の子キャラの通常服と変身衣装バージョンがパッケージに表記されていた。
「狼谷さんはどれが欲しいんだっけ」
「この敵キャラの娘、変身衣装がいいけど通常でも嬉しい」
買えたのは二つ。
理想は両方当たることだけど、どうなる。
こればっかりは運だからなあ。
狼谷さんは箱を手にして深呼吸する。
そして、箱を撫でていたた。
「それになんの意味があるの?」
「うるさいなあ。願掛け」
買ったものが変わるわけでもないのにどういうことだろう。
俺の知らない文化だった。
薄目になりながら狼谷さんは箱を開けて、中身を取り出す。
「あ……。『ぶちゅっと』だ」
これは俺も知っている。
唇が突き出たちょっと間抜けな顔のマスコットキャラ、そのぬいぐるみが入っていた。
「ハズレか」
「ハズレとかないから」
「ごめん」
キッと睨みつけられて俺は即座に謝る。
またも不用意な発言をしてしまったらしい。
「ま、まあ。『ぶちゅっと』好きだし、次、行こ」
ハズレがないと言いながらもその声は少し震えてるように思えた。
「田貫、あんたが開けて」
箱を託された。俺でいいんだろうか。
そのまま開けようとすると、「願掛け」と言われるので箱を撫でる。
なんだこれ。
そして開封。出てきたのは……。
「わー!! ダブった!!」
出てきたのは『ぶちゅっと』だった。
こいつは悪びれもなく可愛い顔を浮かべている。
「……ははは」
狼谷さんは相当ショックを受けてるみたいだ。
「せっかく整理券二枚もらったのに、欲しいの当たらなくてごめん。俺が悪い」
「謝ることない」
「だけど俺がもっと早く整理券がどこにあるか気づいて買えていたら、順番が違って欲しいのが手に入ったかもしれない」
田貫、と狼谷さんに遮られる。
「これは運だし、誰も悪くない。田貫は十分やってくれたよ。こうして見つけてくれたし」
狼谷さんはそういうが、だけど俺が悪い気がしてならないんだ。
「だけど……むごご」
「うるさい」
俺の顔にぬいぐるみが押し付けられ、強制的に黙らされてしまった。
「あーあ、田貫がうるさいからぬいぐるみとちゅーしちゃったじゃん。これあげる」
「え、俺お金払ってないけどいいの?」
「いいよ、布教だから。でもカバンにつけること」
いい? と念押されて俺は頷いた。
そしてグッズも買い終わった俺たちは公園で解散したのだった。
家までの帰り道、自分の行動について思い返していた。
なんで俺は彼女に振り回されてるのに、あの時必死になって探したんだろう。
相手がいいって言ったし、少なくとも一個だけは買える状況だったんだ。
でも俺はそうはしなかった。
そうか、俺は。俺は……。
狼谷さんに後で怒られたりするのが怖かったんだ!
いやあ、気が変わって見つかるまで買い回ってこいなんて、言い出しかねなかったからな。
その、恐怖から探し回ったんだろう。
なーんだ。気づいたらすっきりした。
「ねえ、あの人やばくない」
「うん、なんかすごいね」
「声かけてみる?」
ん、なんか俺の方を指差してなんか言われてないか。
そして自分の格好に気づく。
あ、あのイケイケファッションのままだった!
狼谷さんが隣にいるから成り立ってたけど、俺一人じゃヤバいか。
そそくさと公衆トイレに入って、俺は行きの格好に着替えて出ていく。
ジャージがやっぱり動きやすくて安心する。
危うく女の子に「変ですよ」って声かけられるところだったな。
まさか、狼谷さんはこれを狙って?
だから俺に服を買い与えたのか。そう考えると彼女の行動に合点がいく。
やはり、狼谷さん恐るべし……。
お読みいただきありがとうございます!
「主人公かっこいい!」「お揃いのぬいぐるみとか付き合ってんじゃん!」と思ってくださいましたら
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