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3話 【凛子side】むかつく


 

 コンビニのバックヤード、時計の針は22時を回っていた。

 バイトを終え、あたしは高校の制服の上から羽織っていたコンビニの制服を脱いで、ロッカーにかける。


 そしてロッカーに保管していたピアスたちを耳に刺していく。


「凛子お疲れー」

 

「お疲れ」


 声をかけてきたのはバイト友達の足立(あだち)

 金髪ショートヘアにリムレスメガネをかけたファッション感度の高い子。


 バイト後に元気もないので最小限の声量で返す。

 んま、バイト後じゃなくても別に元気はないんだけど。

 

「今日さ揚げ物めっちゃ出てたね、まじストック切れるかと思ったー。てか高校生チキン好きすぎな。いつか羽生えて飛んでいくんじゃない。ヤバ、ウケる」


 足立は自分の発言にけらけらと笑っていた。

 あんまり話すのが得意じゃないあたしの代わりに、それ以上にひとりで話す足立は一緒にいて楽だ。

 こっちの反応を無理に求めてくることもないし。


 たまに一人で暴走しすぎてちょっとうざい時あるけど。


「ねえねえ、凛子いつもピアス外してるけどいちいちだるくない?」


「……だるい。だからたまにつけて帰らない日もある」


「だるいんかーい。だったらそもそも外さなくて良くない? ほら、私も付けっ放しだし、このコンビニは髪色やピアスにネックスレスとかさ、ファッション自由なのが良いとこなのに。メリット潰してんじゃん」


「バイトしてるのバレたら面倒だから」

 

「あーね。だから髪も結んで中に織り込んでんだ」


 あたしは髪のゴムをとり、襟足を払う。

 締め付けがなくなって解放的で楽だ。


「見た目だけじゃなくて、接客中は態度までかえた徹底ぶり。ほんとすごいわ」


「まあね」


 あたしは頬を持ち上げて、にこっ、と営業スマイルを浮かべ、声色を変える。


「いらっしゃいませ」


「やっば、何度見ても同一人物とは思えなくてウケる」


 きゃははは、と足立はバカ笑いをしていた。

 この子はあたしのこれがツボだ。普段の姿でやってるのがギャップがあって面白いみたい。

 

「てかさ、またあの子来てたじゃん」


「あの子?」


「ほら、あれ、いつも夕方くらいに駄菓子買っていく男の子」


 駄菓子……。きっとそれは田貫(たぬき)のことだろう。

 あいつは駄菓子を買いにときどきバイト先に顔出すけど、私のことをクラスメイトの狼谷だって認識していないみたいだ。

 バイトしてることがバレたくないから助かるけど、気づかないのはそれはそれで癪だ。


 

 それにしても足立に顔を覚えられてるなんて、あいつも意外と隅に置けない。

 


「あれってさ、毎日買ってんのかな」

 

「いや、いつも凛子がいる時だけだけど。あれ、気づいてない? 凛子恋愛経験ないらしいし……まさかね」


 普段騒がしい足立の声が徐々に小さくなっていく。

 

「どうかした?」


「ん、ううん。なんもなーい」


 ぶんぶんと子犬の尻尾のように、足立は自分の首をふった。

 

「てかさ、凛子なんか最近楽しいことあった?」


 足立は話がどんどん移って行く、追いつけないけど付いてきて欲しいわけでもないみたいで、あたしは聞きに徹している。

 なのに今日は珍しく、あたしに話題が振られた。


「なんで」

 

「顔に出てたから」

 

 表情に乏しいと言われるあたしなのに、足立は目ざとい。

 まあいいや。あたしも話したかった気分だし。


「楽しいことあったよ。あったというか、してる、かな」

 

「えー、なになに、聞かせてよ」


 足立の目がきらきらと輝く。

 もったいぶって足立の反応をみるのも楽しそうだけど、いまはよしておこう。

 

「最近、いじめ始めたんだ」


「え"」


 足立はおっさんみたいな声を出した。


「んーと、もっかい聞いていい? なに始めたって?」

 

「いじめ」


「ダメじゃん!」


 耳元で叫ばれて鼓膜がキーンと響く。なんなの。


「うるさ」

 

「ごめんごめん。ふー、落ち着け私。友達を頭ごなしに否定するのは良くないよね。こうなっちゃったきかっけがあるはず。うん。考え直させるためにもまずは一度話を聞こっかな。いじめしてる相手って女? そいつがやばかったからやり返したとか?」


「いや、男」

 

「お! と! こ!?」


 もう、いちいち反応が大きい。

 足立は頭を抱えて「男をいじめる……?」と困惑してるようだった。


「なんでそんなことしたの。話しなさい!」


「とあることがあって、そいつのこと最近気になりだしたんだけどさ。そこからたまに顔が浮かんだり、教室で目で追うようになったり、あいつの行動ひとつひとつが気になって、胸の中がもやもやして……」

 

「なんか流れ変わってきたな」

 

 足立は腕を組んで「ほうほう、それでそれで?」と鼻息荒く、続きを催促してくる。

 どこかおっさんくさくて嫌だ。


「この感情はなんなんだろうと思って、AIに聞いて見たの。そしたらそれは『いじめたいという感情です』って教えてくれた」


「バカAI!!」


 バックヤードに足立の何度目かの絶叫が響く。

 店長が、ちょっとうるさいよー、といって、足立がごめんなさーいと返す。

 よくある光景だ。


 あいつのこと考えると、たまに胸がきゅっと締め付けられたりするから病気かと思ってたけど、原因が分かってすっきりした。AIに聞いたおかげだ。


「そこから『その原因を取り除くためには相手をいじめましょう!』って提案されたから、次の日にそいつ呼び出して告白したの」


「なんという提案を……。それに、こ、告白?! なんて?!」


「あんたのこといじめるからって言ってやった」

 

「終わった」


 足立は目を丸くして驚いていた。

 表情がころころと変わって見てて飽きない。


「それで相手は?」

 

「分かったよ、だってさ」


「変わってんなぁそいつも!」


 最近の高校生怖い、と足立はぶつぶつと文句を言っていた。

 足立も最近の高校生なのに。

 

「というか思ってたんだけど、AIにしても回答が変ずぎるでしょ。なんていうAI使ってるの」


chot(チョット)GPTだけど」


「ちょっとじーぴーてぃー? 馬鹿みたいな名前。聞いたことないし、絶対パロディじゃん」


「待って。チョッピーのこと馬鹿にしないでよ」


「あだ名つけてるし。でも、そうだよね。私が知らないだけで色々なAIがあるよね。ごめん」


 いいよ、と心の広いあたしは許してあげるのだった。

 

「いじめってさ。具体的にどんなことしてるの……? 『おめーの席ねえから』みたいなこと?」


「そんな感じ、よく分かったね。チョッピーが『手始めに相手の席を移動させましょう』っていったから」


「いったから?」


「あたしの隣にしてやった」

 

「隣?! かわいすぎかよ!!」


 ふふ、あの時のあいつの驚く顔ときたら。

 足立にも見せてやりたいくらいだ。


「ほかには?」


「授業の妨害もおすすめって言ってたから、あいつの脇腹つんって突いてやった」


「ああ、そういう感じ……。だいたい把握した」


「そしたらさ、ふふ。あいつ、『くふっ』とか変な声出してんの、ウケるよね。真剣な顔して授業受けようとしてるからその横顔見たらお腹のあたりがイライラしてきたから、また突いちゃった」


「はいはい、お幸せにね」


 お幸せにってなに。


「でもさ、聞いてよ。レジで最近なにかありましたかって聞いたのに。全然っていうんだよあいつ? あたしのこと眼中にないみたいに。むかつく」


「もっと頑張ってみたら良いんじゃない? そしたら振り向いてくれるかもね」


「うん、頑張る」


 あたしは拳をぐっと握って、明日からもあいつをいじめることを誓ったのだった。



 

お読みいただきありがとうございます!


「え、狼谷さんと凛子さん同一人物だったの?!」「ギャルも清楚も切り替えられるとか最高!」と思ってくださいましたら

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