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26話 あんたから誘ってきたでしょ



 昼休みに入るとバレーボールの練習をする日々が続いて数日。


「球技大会も目前! 今日も練習するぞー! と思っていたのに……」


 大倉ががっくしと肩を落としていた。

 というのも体育館に足を運んだ俺たちだったが、球技大会が近づいてきて利用者が増えてきてコートをひしめき合い、場所がもうなかったのだ。


「がははは! 大倉、おまえらの場所はもうねえぞ!」


「獏都(ばくと)早いんだよ!」


 あの強烈なサーブを打っていた男、獏都(ばくと)がバレーボールを肩に担ぎながら豪快に笑う。


「がはは、勝負はもう始まってるつーこった」


「俺たちが先に練習してたのに」


 ぐぬぬ、と大倉は拳を固めて悔しがっている。

 大倉の発案で俺たちのクラスが球技大会に向けて練習をしていたが、どこから聞きつけたのか他のクラスもこぞって真似し始めて、いまでは場所取り合戦になっていた。


 どうやら今日はその場所取りに負けてしまったらしい。

 俺たちのクラスは教室と階段の位置関係的に不利だ。


「どうする大倉」


「どっか場所探さねえとなあ。ひとまずグラウンドに行ってみるか」

 

 学校で屋内でバレーができそうな場所はない、廊下でラリーでもしてしまえば蛍光灯やガラスを割るのがオチだろう。

 そこで須山と大倉の話にクラスメイトが割り込む。

 

「ボールはどうするんだ? 持ち出しできないぞ」 


 体育館内だからボールが使えたけど、屋外では貸出許可は出ていない。

 ボールが傷だらけになってしまうからな。


「そこは大丈夫だ。部室に外練用のボールがあるからさ」


 うちの高校はスポーツ強豪校じゃないから体育館が一つだ。

 それをバドミントンやバスケ、バレー等の屋内部活動で使い分けているというわけか。

 中学でもそんな感じだったな、曜日の割り振りで部活同士で争うこともあったっけ。

 

「部活用のを使っていいのか?」 


「ああ、たまに昼休みに俺らは使ってるし問題ない」


「それに、そのボールは俺らが集めたやつなんだぜ。部活始めるってときに金とかなかったからさ、色んなところに頭下げてさ」


「あれは大変だったよなあ。……ということだから気兼ねなく使っていい」

 

 それにしても部活の立ち上げって色々あったんだろう。

 大変だったと口ではいってるけれど、それも良い思い出になっているのが伺えた。

 


「っかー! グラウンドは部活の昼練で使ってたし、中庭は他の生徒たちがご飯食べたり談笑してるし場所ねえよ!」


 探し回ってからどこも人がいて無理だった。

 球技大会近いのに最悪だぜ、と大倉は髪の毛をぐしゃぐしゃにして取り乱す。

 


「今日は練習やめるのはどうだ?」


 俺は手を挙げて、提案する。

 

「いいや、やるね!」


「これまで練習してきたし十分だと思う。そもそもなんでそんなに本気でやるんだ? 球技大会に勝ったところで意味がないだろ?」


 俺はこれまで大倉に思っていた疑問をぶつける。


「勝ったところで意味がない?」


 大倉がいつになく真面目な顔をして口を開いた。


「部活動だったら成績になって進学やプロの道が開ける。だけど球技大会で優勝したところで一週間もすれば忘れるだろ? 下手すれば二日も覚えてないんじゃないか」


 気づけば周囲の目がどんどんと冷めていっていた。

 

 この空気は一度味わったことがある。

 どうやらまた俺は間違ってしまったらしい。


「あはははっ! そうかもしれねな!」


 大倉は怒るでも哀しむでもなく、快活に笑った。

 そして、かりかりと頬をかいてから、俺を見据える。

 

「俺は頭悪いから分かんねえけどよぉ。楽しい、それだけじゃダメか?」


「え」


 思ってもみなかった回答に面を食らう。

 

「みんなでこうしてバレーをしてるのが楽しい。だから俺はやりたいんだ。優勝はモチベーションで、勝つとか負けるとかは結果、どれも目的じゃねえ。もちろん学校行事とはいえ、勝ったら滅茶苦茶嬉しいし、負けたら死ぬほど悔しいけどさ」


 俺は結果ばかり追い求めていた、過程なんて考えたこともなかった。

 

「意味とかさ、そんなこと考えるなんてお前の方が本気じゃん」


 ははは、と大倉は肩を叩く。


「田貫真面目すぎ」


「練習全部参加してる奴がいうことじゃねえって」


 クラスメイトの野次が飛んでくる。

 練習に参加してるのは狼谷さんに強制されたからだというのに。

 

「つー訳で、練習は諦めないぜ」


「しかし場所がな……」

 

 うーん、とみんなが頭を悩ませているなか俺は挙手をする。

 また何か言い出すんじゃないかと周囲からどこか構えるような注目が集まるなか発言した。

 

「ひとつ思い当たる場所がある」



◆



「おいおい、ここって……」


「田貫いいのかよ」



 みんな周囲を見渡しながらひそひそと話す。

 連れてきた場所は校舎裏。

 ある程度開けていて、人に迷惑のかからない場所、俺にはここしか思いつかなかった。

 

「いいも悪いも学校はみんなの場所だろ?」


「そうじゃなくてだなぁ……」

 

 みんなの視線が、つつーっと横へと移動する。

 その先には立ち上がろうとしている狼谷さんがいた。


「ちわっす! 狼谷さん使わせていただきます!」


 大倉が先陣を切って挨拶をした。

 

「なにが? 別に、ここあたしだけの場所じゃないし」


 ぶっきらぼうに狼谷さんは返す。

 すると大倉が俺の制服の裾を引っ張って耳打ちする。


「田貫、これってつまり使って良いってことだよな?」


「そういうことじゃない?」


 答えると、大倉が「よっしゃー!」と飛び跳ねた。

 それを皮切りに「よろしくお願いします!」と口々に狼谷さんに頭を下げていく。


 なんだこれ。

 狼谷さんもどこか呆れているようだった。


 それから練習を開始するも、みんなの動きがぎこちない。

 みんなの様子を見兼ねてか須山がこちらにきて、耳打ちしてくる。


「どうしたんだ?」


「みんなの動きが悪い」


 それは気づいている。


「きっと狼谷さんが近くでみているからだ」


 なるほど、狼谷さんが定位置で座ってこちらを見ている。

 スマホでも触って時間を潰しとけばいいのに。


「田貫、お前狼谷さんとバレーしてこい」


「い?!」


「お前しかいないんだ」


 須山の提案に俺は驚きを隠せない。

 狼谷さんとバレー? 俺が?

 死地に追いやられるようなものじゃないか。


 しかし、気が散るからどっか行ってなんて俺の口からはいえない。

 きっとみんなもそうだろう。だからこそ俺に人柱になれというわけか。


 これでは楽しくバレーをする状況じゃないのは確かだ。

 行くしかないか。俺は腹をくくった。


「俺と一緒にバレーしない?」


 俺はボール片手に狼谷さんに声をかけた。

 変なナンパみたいだった。

 

「は?」


 ハスキーな声が飛んでくる、眼光が鋭く圧が強い。

 案の定の反応だ。普通の人ならたじろぐだろうけど、俺はかなり慣れてきた。

 

「見てるだけじゃつまらないかなと思ってさ」


 適当な理由をつけて誘い出す。

 たとえバレーができなくても、このまま会話を続けることで意識をみんなから逸らすことができれば成功だろう。


「無理にとは言わないけど」

 

「いいよ」

 

「え?」


「え? ってなに? あんたから誘ってきたでしょ」


「まあそうだけど」


 乗ってくると思わないじゃん。

 じゃあやる? と狼谷さんは立ち上がってスカートを払った。


 ラリーをする前に一つ確認。

 

「狼谷さんってバレーしたことある?」


「ない」


「だったら手の組み方からだね」


 手のひらを上に向けて指と指を重ねて、水を包み込むようにしてから親指同士をぴたりとくっつける。

 これは手が離れないようにするのと、手が面になりボールがあらぬ方向に飛びにくくするためだ。


「こう?」

 

「そうそう。それで腕の前の部分で受けるんだ」

 

 説明して、俺はその場で試しにやってみせる。

 

「このとき腕を振るんじゃなくて、膝で上げるようにすると安定する。けん玉みたいな感じかな」


 わかった、と狼谷さんは頷く。

 それからラリーを始めると、ぽん、ぽん、と危なげなく続く。


「飲み込みが早いな」

 

「そう?」


 バスケをしている時から思っていたけど、狼谷さんは運動神経が良い。

 見た目もよくて運動もできるなんてかなりのハイスペックだ。

 

「そうだ、狼谷さん」


「ん?」


「俺たちがきた時どこかへ行こうとしてたみたいだけど」


 そういえばあの時、立ち上がっていたように思う。


「なんでもない」

 

「本当? 何か用事でもあったんじゃないか」


 用事があってどこかへ行ってくれた方がみんなは助かるみたいだし。


「……しつっ、こい!」

 

 狼谷さんバシンとスパイクする。

 え、そんなの教えてないんだけど?


 突然のことに慌てるも、俺はレシーブをする。

 ボールは綺麗に狼谷さんに返って行く。

 

「上手くてむかつく」


 ……それはすみません。

 狼谷さんはつん、と唇を尖らせていた。



 

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