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24話 どうしてこうなった



「おい男子ども〜!! 注目〜!!」


 四時間目が終わり昼休みに突入した途端、大倉が立ち上がって周囲に呼びかけた。

 教室を離れようとした人、お弁当を出そうとした人、それぞれがはたと止まって大倉を見ていた。

 

 もし俺が呼びかけても、なんだこいつと不可解な視線を向けられたり、無視されることだろう。

 そう考えると大倉の人望は厚いのかもしれない。


 授業でもふざけてたりするお調子者だけれど、クラスの男子からは好感を得ているみたいだ。

 そんな彼がなにを言い出すのやらとみんな待ち構えていた。

 

「二週間後、球技大会があるのはみんな知ってるよな?」


 この前、体育の授業で聞いたのは記憶に新しい。


「それに向けてみんなで練習しようぜ! 目指せ優勝!」


 大倉が拳を突き上げて意気込みを露わにする。

 競技がバレーボールということもあって、バレー部の大倉はかなり気合が入っているようだ。

 大倉の発言を聞いて、ひとりの男子から質問があがる。

 

「練習っていつするんだよ」


「えーっと、放課後とか、なんか空いてる時間で?」


 大倉はなんともはっきりしない答えを出した。

 もしかして、こいつは優勝のために練習はするけど、いつするとか決めてなかったのか?

 

 勢い任せというか、お馬鹿さんというか。

 そこが憎めないのかもしれない。


「やれやれ、なにを言い出したかと思ったが何にも考えてなかったみたいだな。俺たちは放課後部活あるだろ? みんなもそうだ、部活やバイト、塾とかそれぞれ用事はあるぞ」

 

 須山のもっともな指摘に「た、たしかに……」と大倉は二の句も告げないでいた。

 狼狽している大倉の代わりに須山が続ける。

 

「そこでだ、昼休みに練習するのはどうだ? 体育館が開放されているし、昼休みなら比較的都合がつきやすいだろう」


 昼休みに体育館が開放されているとは知らなかった。

 すぐに代替案を出すとは、須山は頭がキレるみたいだな。


「お! 良いねえ! それ採用! みんなやろうぜ!」

 

「大倉それだと断りづらいだろう。なに、無理強いはしない。俺たちは毎日しようと思うから遊び感覚でいつでも参加してくれ」


 俺やろうかな、ちょっと楽しそう、賛同の声がちらちらと聞こえる。

 反対意見が出ないのは口にしないだけだろう。

 須山が無理強いしないと言ってくれたのでわざわざ反対することはない、ただひっそりと参加しなければ良いだけだからだ。

 

「それっていつからするんだ?」

 

「練習は早い方が良いからさ、今日からしようぜ。飯食ったらすぐ!」


 男子の質問に大倉が答える。

 今日からって、すごい行動力だ。

 須山が呆れた様子でつぶやく。

 

「ったく、即行動すぎんだろ。付き合うけどさ」


 付き合うのかよ。

 須山はクールなようでバレーが絡むと意外と熱いところがある。


「さっきも言ったけど来れるやつだけで良いから」


「飯食べ終わったやつから体育館集合なー!」

 

 話は一段落したようで、飯を食べるために俺は校舎裏へ移動しようと立ち上がったその時。


「田貫はもちろん参加するよな」


 大倉に肩を組まれ引き止められる。

 俺の答えは、もちろん決まっている。

 

「参加しないが」

 

 バレーをわざわざ練習することもない、そつなくこなせたらそれで良いのだから。

 俺が断ったのにも関わらず大倉は笑っていた。

 

「そんなこと言ってー、顔面レシーブに、ローリングだぜ? 練習しなくて良いのかー?」


 この前の授業での失態を引き合いに出されては困る。

 元バレー部だから練習しなくてもいいって意味だけど、あの日は悪目立ちし過ぎた感は否めない。

 お世辞にも上手いとは思われないだろう。


「無理強いはしないんじゃなかったのか」


「そんなそんな、これは無理強いじゃねえよ」


 たださ、と大倉はわざとらしく区切って顔を寄せ耳打ちをする。


「良いところ見せたいだろ?」


 良いところ? 誰に?

 そんな疑問の答えは大倉の視線が物語っていた。

 ちらちらと隣の狼谷さんを見て目配せする。


 それから片目をしょぼしょぼと瞑る。

 いや、ウィンクぎこちなっ!


「別に。良いところ見せたいとかは思ってないし」


「ぐぐっ、強情だな」


 無理強いというよりも大倉の優しさなのはわかるけど、俺はバレーとは出来るだけ関わらない方が良いんだ。

 

「狼谷さーん、田貫がこんなこと言ってるから助けてよ」


 埒があかないと思ったのか、大倉はあろうことか狼谷さんに声をかけた。

 想定もしなかった展開に教室にいるクラスメイトが固唾を飲んで、狼谷さんの反応を待っていた。


「なんであたしに聞くの」


「狼谷さんのいうことなら田貫言うこと聞くと思うからさ」


「ふうん、そういうこと」


 大倉の言い分に狼谷さんは納得していた。

 納得しないでくれないかな?

 たしかに俺は狼谷さんの命令に逆らったことはないけどさ。


 狼谷さんは少し考えてから、何かを決めたような顔をしてゆっくりと口を開く。

 なんだか嫌な気配がしてきたぞ。


「田貫、練習行きな」


「えぇ……」


 やっぱり。こうなるんじゃないかって思ってたんだよな。

 

「返事は?」


「いやぁ……」


「返事は?」


 あ、この流れは。

 抵抗しても無駄ないつものやつですやん。


「……はい」


「よっしゃあ!」


 隣で喜ぶ大倉に怨嗟の念を送るが、全く動じていない。

 なんてメンタルだ。


「大倉ちょっと強引だぞ」


 須山が助け舟を出してくれる。

 そうだそうだ、もっと言ってくれ。

 俺は狼谷さんに決められてしまって何も言えないんだ、だから須山頼むぞ。


「狼谷さん本当にいいのか?」


 おい、そこでなんで狼谷さんなの?

 聞く相手俺でしょ。


「なんであたし」


 狼谷さんも同じことを思っていたみたいだ。


「いつも一緒にお昼過ごしてるからさ、取っちゃ悪いかなって」


 須山は狼谷さんが俺をいじめる時間がなくなってしまうことを心配して、お伺いを立てているということか。

 どちらにせよ俺に決定権はないらしい。


 俺が練習に参加しないために、どうすればいいかと考えてたどり着いた答え。

 

 そうか、狼谷さんと過ごすことを優先すればいいんだな!


「狼谷さん、俺がいなくても平気?」


 ほら、いじめる相手がいなかったらストレス溜まっちゃうよ?

 俺は狼谷さんに視線を送る。


 狼谷さんの顔がみるみるうちに赤くなっていく。


「はぁ!? あんたがいなくても平気だし。なめんな!」


 ええー!! またなんか怒らせてしまった。

 何がいけなかったんだ。


「田貫、練習全参加決定ね」


「全参加!?」


 ある意味死刑宣告を言い渡されてしまう。

 今日だけじゃなく、これから二週間、球技大会まで練習があるときは毎回だと!


 こうして俺は球技大会の練習の強制参加が決まったのだった。

 

 ……どうしてこうなった。

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