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23話【凛子side】 きっとあいつのせいだ



 川沿いの道をあたしは一人歩いていた。

 水が上流から下流へと流れ、鱗のように光が乱反射している。


 せせらぎの音よりもうるさい自分の心臓。

 とくんとくんと脈を打つ。

 それもこれもあいつのせいだ。


 頬に両手で包み込むように当てながら、つぶやく。


「まじ焦ったぁ」


 朝シフトの時は最初からピアスとか外した『凛子さんスタイル』で出勤している。

 そしたら、田貫がいた。前も着てたジャージ姿。

 街中で見た時はくそダサだったあの服も、運動している時なら、そりゃまあ似合ってた。


 いつか会えるんじゃないかなって思ってあの道を通ってたけど、急に現れるのは反則じゃん?

 だからいつもの調子で呼び捨てで呼んじゃった。


「バレなかったよね」


 首を傾げて考えてみる。

 少しの逡巡もなく答えが出た。


「鈍感なあいつのことだし、気づいてる訳ないか」


 手を組み空に突き出して、ぐぐー、と伸びをする。

 この場所はうちの飼い猫が迷子になった時、色々と探し回っていたら辿り着いた。

 あたしがあいつと初めて会った場所。


 ん、たしか初めてじゃなかったんだっけ?

 あいつはあたしが働いてるコンビニを利用していたみたいで、以前からあたしのことを認識していたらしい。

 

 本当の初めてだったらコンビニってことになるのかな。

 けど、うちの高校の生徒が来ることは当然あるし、その他にもたくさんお客さんは来る。

 だからぶっちゃけ田貫のことなんて知らなかった。


 なのに今は、気がつけば田貫のことばっかり考えてしまっている自分がいる。

 

「足立おはよ」


「凛子おはよー!」


 コンビニのバックヤード。

 制服に着替え終えて始業時間まで、座りながらスマホを触って待機している足立がいた。

 今日も足立は元気だ。朝からそんなハイテンションにできない。


 あたしは朝じゃなくてもできないけど。

 

「ちょい待ち」


「なに」


 足立にいわれて、ぴた、と体を止めた。


「葉っぱついてる」

 

「うそ、どこ」


 んー、と見渡してもどこについてるか見当たらない。

 座っていた足立がこっちにきて手を伸ばす。


「はいこれ、フードの内側にあった」


 足立は葉柄(ようへい)を人差し指と親指で掴み、くるくると葉を回してた。

 

「ありがと。いつの間にか入ってたんだ」


 今日歩いていた川沿いの並木道に生えている広葉樹の葉が、風で飛んできてフードの中に入ってたんだろう。


「いつの間にかって、どこ歩いて来てんのよ」

 

「川沿いの道」


「え、その道って凛子ん家から遠回りじゃん」


 足立の言う通り、家から川沿いの道を通ってくるのは直線じゃなくて迂回するルートになる。

 だからいつもより時間が掛かる、といっても五分くらいなもんだけど。

 

「凛子なんでそんなとこかから来てんの」


「良い気分になれるから」


 これまで知らなかったけど、あそこは歩くと結構気持ちが良い。

 

「あー、あそこらへん自然感じられて気持ちいいもんね。凛子ここ最近ずっとそこ通ってきてるってわけか」


「なんでわかるの」


「最近朝シフトの時は出勤時間遅くなってんなあって。これまでは私より早かったり着替え終わってたりしたのに。もしかしてー、それって駄菓子くん絡みだったりする?」


「え……探偵?」


 足立鋭い。誰かさんとは違って。

 

「やっぱり!! そこでばったり会ったとかしちゃったりー? な、わけないか…………って、え」


「ち、違うし!」


 体温が急上昇しているのが分かる、耳まで熱い。

 今、絶対に変な顔してる。こんなとこ見られたら面倒なことになる。

 

「会ってるやつじゃん! そんな顔隠さなくて良いのにさ! ちょっと詳しく聞かせてよ〜っ」


 もうバイトの時間ですー、と縋り付いてくる足立をあしらってコンビニの制服に着替えた。

 こんなことになってるのも、これもきっとあいつのせいだ。

 


 ◆


「ふぅー」

 

 ちゃぷん、と湯船に浸かって疲れを癒すように体を預ける。

 シフトは朝だけかと思ってたけど昼のシフトの人が急に休みになったから、その穴埋めにあたしがヘルプに入った。

 夕方には終わったけど、これはリフレッシュするためのお風呂だ。



 最近、思うことがある。

 AIのチョッピーのアドバイスに従って、この心のもやもやを晴らすために田貫をいじめ始めたのに、関われば関わるほど、日に日に田貫の顔がつらつくようになったこと。

 解消されてるような、解消されてないような変な感じ。


 それともう一つ。


「田貫って『凛子さん』と『狼谷さん』への対応が違いすぎない?」

 

 田貫のやつ学校にいるあたしに比べて、コンビニ店員としての凛子さんに対して、雰囲気とか全然違うんだけど。

 取り繕ってるあたしの方がウケが良いんだろうか。

 それは、なんかむかつく。


 湯船に顔を沈めて、息を吹いてぶくぶくぶくと遊ぶ。

 あいつといると色んな感情が沸き起こる。


 それはまるで、膨らんでは弾けてを繰り返すこの泡みたいだった。

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