13話【凛子side】鈍いんだから
「詳しく聞かせてもらうから」
「話す。話すからそう怖い顔しないでってば!」
バイト終わりのバックヤード、あたしは足立に詰め寄っていた。
あのあとすぐに勤務が開始したからプライベートな話は控えるようにしてた。
お客さんと談笑していた誰かさんとは違って、ね。
足立はロッカーを背に青ざめた顔をしている。
こういうときにあたしの顔は役立つ事をよく知っている。
使えるものは使わないともったいない。
「それで、なにあいつと『ぶちゅっと』について話してたの?」
「ええっと、凛子見てたんだ」
「見てたら悪いことでも? 仕事中に随分と盛り上がってたみたいだけどさ」
コンビニのガラス越しに、あいつがカバンにつけていたぬいぐるみを指差して、なにやら楽しそうに話していたのをあたしはバッチリ見ている。
あいつもなんか満更じゃない顔してたし。
足立はあたしと違って怖くなくて可愛い系だから、嬉しいのかも知んないけどさ。
なにあの態度、でれでれしちゃってみっともない。
あたしのいらいらが溜まってきているのを見透かしてか、足立がぶんぶんと顔の前で手を振って否定する。
「そ、そうじゃないって。ただ凛子とお揃いのじゃんって見つけたら思わず話しかけちゃっただけだから! あの『でぶっちょ』っていうの? 詳しくないし」
「『ぶちゅっと』ね」
はい、ぶちゅっとです、と足立は言い直していた。
ふうん、あたしの知らないところであたしの好きなもので盛り上がってたのがなんか腹が立って割って入ったけど、この様子だと違ったみたい。
入っていったらあたしのことを言おうとしていたから、口塞いで止めることできて正解だったけど。
だったら足立から何を聞いて、田貫は喜んでいたんだろう。
「それよりも凛子、駄菓子くんにコンビニで働いてること隠してたんなら言ってよ!」
「言ってなかったっけ」
「聞いてないよ」
「それはごめん」
「んん、素直っ!!!!!」
良いこ、良いこだねえ、なんて足立は頭を撫でてくる。
鬱陶しくなってきたので、撫でてくる足立の手からするりと抜け出す。
名残惜しそうな声を出してるけど知らない。
「つーかさ、なんで隠してるの?」
「バイトしてるの学校の人にバレたくないから」
「それは知ってるけど、あんな仲良いなら言ってると思うじゃん」
「仲良い?」
あたしとあいつが?
ただ無性に気になって、いじめてるだけなのに。
「あー、そういう認識なのね。うんうん、そうだったそうだった。てことはさ、駄菓子くんはあんたがここで働いてる凛子ってこと気づいてないの?」
「だろうね。あいつ鈍いから」
気づいていたら、とっくに聞いてきてるはず。
あいつって失礼なことも、他人からすれば恥ずかしいことも、割となんでも口に出すし。
あたしのこと見つけるなり『げ』とか言うし、こんな可愛い女子高生を見てあんなこというなんて許せない。
かと思えば『こんなに細くてスタイルもいい』とかさらっと言うし、ほんとデリカシーなくてむかつく。
「鈍い……って誰が言ってんの?」
「なに?」
「なんでもなーい」
田貫のこと考えてたら足立がなに言ってるか聞きそびれたじゃん。
これもまたあいつのせいだ。
「ふふふ……これは面白い三角関係ロマンスの予感」
また足立が変なこといってる。
よくアプリで読んでいる恋愛漫画のこと考えて悶えてるときあるし、今のもその発作かな。
「そういえばさ、あいつコンビニに来たのに何も買わないとか。意味不明」
何も買わずに帰っていくお客さんはいるけど、駄菓子だったら安いし、売上に貢献してけば良いのに。
あいつは立ち読みをするタイプじゃないから、ただ来て出てくなんて、あたしが働いてるときは見たことない。
「うーん、お目当てが見つからなかったんだから仕方ないじゃん」
「え? 田貫がいつも買うやつあったけど?」
あ、そうだ。
最近陳列を変えたから、きっとそれで見逃したんだろう。
「ほんと鈍くて間抜けなんだから」
足立はあたしの言葉に同調するみたいに、呆れたようなため息をついていた。




