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貧乏商会が王国経済を握ります!ー相場が見える俺が、国の市場を支配するー  作者: 堀吉 蔵人
第四章 分けて考える

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第40話 七日間は止まりませんでした

西区施療院の管理人室は、朝から静かだった。


 静かすぎて、怖い。


 机の上には、七日間の帳簿が置かれている。


 小樽、桶、輪金、修理、予備、配送順、用途札、規格票、小口束ね表。


 全部、重い。


「ロイ」


「はい」


「帰っていいですか」


「駄目です」


「まだ何も始まってません」


「始まる前に逃げないでください」


「正論!」


 クロードさんは壁際で腕を組んでいた。


「落ち着け」


「落ち着いていません」


「だろうな」


「否定してください!」


 管理人さんが入ってきた。


 その後ろに、西区施療院の職員が二人。


 ガリオ商会はいない。


 それだけで、少し息がしやすかった。


「ベルカ商会さん」


「はい」


「七日間の報告をお願いします」


 来た。


 わたしは帳簿を開いた。


 手が少し震えた。


 でも、声は出た。


「西区施療院の試験運用、七日間の結果です」


 ロイが横に紙を置く。


「不足は出ました。でも、作業停止はありませんでした。追加購入は必要分のみ。修理品は用途を分け、予備は使う前に届いています」


 管理人さんは黙って聞いている。


「配送は必要な順に分けました。職人さんの作業枠も押さえました。輪金は三つの鍛冶場に分け、規格票で確認しました」


 七日前は、何が足りないかもよくわからなかった。


 今日は、足りなかったものを言える。


 どう回したかも言える。


「費用は?」


 管理人さんが聞いた。


 ロイが答えた。


「試験運用の上限内です。正式契約案は、銀貨二十一枚と銅貨六十枚」


「ガリオ商会さんよりは高いですね」


「はい」


 わたしは答えた。


「高いです。でも、止まらないための仕事は削っていません」


 管理人さんは、帳簿ではなく、窓の外を見た。


 裏庭には、布が干されている。


 湯を運ぶ人がいる。


 薬草を分ける人がいる。


 いつもの朝だった。


「七日間、止まりませんでした」


 管理人さんは、静かに言った。


「それが、一番大きいです」


 胸の奥が、熱くなった。


 でも、まだ喜んではいけない。


 まだ、決まっていない。


「正直に言えば、最初は安い方がよいと思っていました。今も、安い方が助かります」


「はい」


「ですが、安くても止まれば、施療院は困ります」


 職員の一人がうなずいた。


「札があったのは助かりました。どれをどこに置けばいいか、すぐわかりました」


 もう一人も言った。


「予備を予備として扱うようになってから、慌てなくなりました」


 予備を予備として扱う。


 それだけのことに、何日もかかった。


 でも、伝わっていた。


 管理人さんがこちらを見た。


「ベルカ商会さん。正式契約をお願いします」


 息が止まった。


「……はい?」


「西区施療院の小樽、桶、輪金、修理と予備管理。正式にベルカ商会さんへお願いします」


「え」


 声が遅れて出た。


「えええええ!」


 管理人室に響いた。


 職員二人が笑った。


 ロイは静かに紙を出す。


「商会主、返事を」


「はい! お受けします!」


「声が大きいです」


「すみません!」


「謝る声も大きいです」


 クロードさんが、少しだけ笑った気がした。


 正式契約の紙が置かれた。


 ロイが内容を確認する。


 小樽、桶、輪金、修理、予備管理、配送順、用途札、規格票、小口鍛冶場の納品管理。


 多い。


 でも、全部、止めないための形だった。


「契約期間は、まず一か月」


 管理人さんが言った。


「その間に、正式運用として問題がないか見ます」


「一か月……」


「長いですか」


「いえ。重いです」


「正直ですね」


「はい」


「でも、七日間を見て、任せられると思いました」


 任せられる。


 その言葉で、胸の奥がいっぱいになった。


 売れた、だけではない。


 任された。


 それは、ずっと重い。


 ロイが契約書を差し出した。


「商会主」


「はい」


「署名を」


 わたしは名前を書いた。


 ミリア・ベルカ。


 字は少し震えた。


 でも、読める。


 管理人さんも署名した。


 紙の上で、西区施療院とベルカ商会がつながった。


 細い線だった。


 でも、切れないように、これから守る線だ。


 管理人室を出ると、裏庭の空気が少し冷たかった。


 でも、気持ちは熱い。


「クロードさん」


「なんだ」


「勝ちました?」


「契約だ」


「そこは勝ちでよくないですか!」


「勝ちにすると、次を見落とす」


「厳しい!」


 ロイが横で言った。


「ただし、正式契約獲得です」


「ロイ!」


「これは、かなり大きいです」


「ロイが大きいって言った!」


「はい。大きいです」


 短い。


 でも、効きすぎる。


 わたしは思わず帳簿を抱えた。


「やりました」


「やりました」


 ロイがうなずいた。


 クロードさんも、少しだけうなずいた。


「十割」


「え」


「今回は十割でいい」


「本当ですか」


「ああ」


「十割!」


 声が大きかった。


 職員が振り返った。


 恥ずかしい。


 でも、今日は少しくらい許してほしい。


 ベルカ商会へ戻ると、トマが店先で待っていた。


「商会主、どうでした?」


「正式契約です!」


「本当ですか!」


「本当です!」


 トマが笑った。


 エドも奥から顔を出した。


「じゃあ、まだ運べますね」


「はい。まだ運びます」


 その言葉が、また嬉しかった。


 まだ運べる。


 まだ直せる。


 まだ作れる。


 まだ続く。


 ロイはすぐに机へ向かった。


「では、一か月分の運用表を作ります」


「余韻!」


「ありません」


「正式契約の余韻くらいください!」


「正式契約だからこそ、ありません」


「強い!」


 紙がまた増える。


 でも、今日の紙は少し違って見えた。


 怖いだけではない。


 続く仕事の紙だ。


 夜。


 店を閉めたあと、わたしは契約書の写しを見た。


 銀貨二十一枚と銅貨六十枚。


 最安ではない。


 それでも、選ばれた。


 安かったからではない。


 大きかったからでもない。


 七日間、止まらなかったからだ。


「ベルカ商会、続きますね」


 誰に言ったのか、自分でもよくわからなかった。


 でも、クロードさんが答えた。


「続けるんだ」


「はい」


「契約は終わりじゃない」


「始まりですよね」


「ああ」


 ロイが紙をめくった。


「明日の確認です」


「余韻!」


「一か月分の初日です。西区施療院、南区共同炊事場、三つの鍛冶場、桶職人の作業枠」


「多い!」


 でも、もう嫌ではなかった。


 七日間は止まらなかった。


 だから、一か月を任された。


 ベルカ商会は、最安ではなかった。


 でも、必要な形を持っていた。


 その形が、初めて正式な仕事になった。

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