第34.5話 十割の理由
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十割にした理由は、勝ったからではない。
ガリオ商会の男を黙らせたからでもない。
噂を消したからでもない。
噂は消えていない。
形が変わっただけだ。
ベルカ商会は中古品を入れている。
そう言われれば、聞いた者は不安になる。
施療院に古い小樽。薬草のそばに修理品。
それだけ聞けば、よくない話に聞こえる。
だが、札がついた。
新品、修理品、予備品、保管用、薬草用、確認済み。
ただの古い小樽ではなくなった。
何に使うか、誰が確認したか、どこに置くか。
それが見えるようになった。
そこがよかった。
言葉だけで返せば、言った者と言われた者の勝負になる。
ガリオ商会が言う。
ベルカ商会が言い返す。
それでは、聞いている側は迷う。
だが、札があれば物が説明する。
職員が説明できる。
管理人が確認できる。
運ぶ者も間違えにくい。
ミリアがその場にいなくても、同じ説明が残る。
それは強い。
商会主の口だけで立つ信用は、商会主がいなくなると弱くなる。
現場に残る信用は、少し強い。
帳簿があり、札があり、置き場所がある。
それなら、誰かが聞かれても答えられる。
これは新品です。これは修理品です。これは保管用です。これは確認済みです。
その説明が回れば、噂は少し形を変える。
中古品を入れている、ではなくなる。
用途を分けている。
確認している。
必要な場所に置いている。
そういう話になる。
だから、十割でいい。
ミリアは、見せるものと見せないものを分けた。
仕入れ先の荷札は見せない。
それは守るべき情報だ。
勝手に見せれば、商会の線が切れる。
だが、用途札は見せる。
それは守るための信用だ。
隠せば噂になる。
見せれば説明になる。
前のミリアなら、たぶん全部を隠そうとした。
または、全部を説明しようとして疲れただろう。
今日は違った。
見せないことで守る情報がある。
見せることで守る信用がある。
その違いを、少し覚えた。
ロイもよかった。
帳簿全部を見せるとは言わなかった。
現場で使う札だけを作ると言った。
帳簿は商会の中にある。
札は現場に出る。
必要なところだけ出せばいい。
トマも動いた。
木札を出し、紐を出し、昨日の残りを使った。
小さな手が早くなると、商会は止まりにくい。
ミリア一人が気づくより早い。
ロイ一人が書くより強い。
トマたちが運ぶ場所までわかるなら、荷はさらに迷わない。
十割は、ミリア一人への点ではない。
ベルカ商会が、少し商会らしくなった分も入っている。
それに、ミリアの作る昼飯は、前よりうまい。
理由はよくわからない。
豆の火加減か。
塩か。
俺が慣れただけか。
どれでもいい。
飯がうまい商会は、少し続く気がする。
もちろん、十割を出したから終わりではない。
札をつければ、札に責任が乗る。
確認済みと書けば、本当に確認しなければならない。
保管用と書けば、保管用に使わなければならない。
薬草用と書けば、汚れた場所には置けない。
見える信用は、嘘をつくとすぐに崩れる。
だから、次は守る番だ。
西区の試験運用はまだ終わっていない。
南区にも札は使える。
部品取り置き場も分ける必要がある。
確認者欄もそろえなければならない。
仕事は増える。
帳簿も増える。
札も増える。
ミリアはまた文句を言う。
たぶん、余韻が短いと言う。
それでいい。
文句を言いながらでも、手が動くならいい。
ベルカ商会は、ただ安くする商会ではなくなってきた。
見えにくいものを、見える形にする。
止まりそうなものを、止まらない形にする。
そのために、分ける。
記録する。
札をつける。
だから、十割でいい。
見せないことで守る情報がある。
見せることで守る信用がある。
ミリアは、その違いを覚えた。
次は、その信用を使って、小さな火を守る番だ。
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