表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貧乏商会が王国経済を握ります!ー相場が見える俺が、国の市場を支配するー  作者: 堀吉 蔵人
第四章 分けて考える

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/45

第32話 職人の時間が足りません

いつもありがとうございます!

楽しんでいっていただけると幸いです。


 翌朝。


 桶職人の店は、朝から混んでいた。


 小樽、桶、輪金、底板。


 昨日より、明らかに多い。


「……増えてますね」

「増えたな」


 親方は作業台の前で腕を組んでいた。


「南区分と西区分が同じ日に来た。あと、簡易宿の桶も一つ混ざってる」

「混ざってる?」

「持ってきたやつが、ついでにって置いていった」

「ついでに置かないでほしいです!」


 わたしは帳簿を開いた。


 西区施療院の試験運用、二日目。

 昨日は小樽の部品差し替えで何とか止めた。

 今日は、修理そのものが詰まりかけている。


「親方、今日中にどれくらいできますか」

「全部は無理だ」

「全部は無理」


 声に出すと、胃が重くなった。


「南区の急ぎが二つ。西区の急ぎが二つ。差し替えの小樽が一つ。簡易宿の桶が一つ」

「六つですね」

「だから全部は無理だ」


 クロードさんが作業台の上を見た。


「今日必要なのはどれだ」

「全部必要です」

「違う」

「違うんですか?」

「今日ないと止まるものと、明日でも回るものは違う」


 まただ。


 分ける。


 わたしは帳簿を押さえた。


「南区の急ぎ二つは?」

「共同炊事場だ。昼の仕込みに使う」

「今日必要ですね」

「そうだ」

「西区の急ぎ二つは?」


 親方が紙を見た。


「一つは薬草用。もう一つは予備らしい」

「予備なら明日でもいいですか?」

「確認しろ」

「はい」


 わたしは西区施療院へ使いを出した。


 待つ間に、簡易宿の桶を見る。


「これは?」

「洗い場用だ。急ぎと言っていた」

「今日ないと止まりますか」


 クロードさんが桶を見た。


「代わりがある」

「わかるんですか」

「取っ手の跡が二つある。似た桶を使っている」

「細かい!」


 親方が桶を見て、少し笑った。


「たぶん当たりだ。簡易宿は桶を多めに持ってる」

「では、確認して明日に回します」


 わたしは書いた。


 南区二つは今日。西区薬草用も今日。西区予備と簡易宿は確認後に明日。差し替え小樽は明日昼予定。


 六つの山が、少しだけ低くなった。


「親方、今日中に三つなら?」

「できる」

「本当ですか」

「全部よりはな」


 胸が軽くなった。


 でも、すぐに店の外から声がした。


「やはり、詰まっているようですね」


 ガリオ商会の男だった。


 昨日の男だ。

 今日も、嫌な笑顔をしている。


「修理は時間がかかります。新品なら、こうはなりません」


 来た。

 わかりやすく来た。

 わたしは帳簿を閉じかけて、やめた。

 閉じない。

 見せる必要はない。

 でも、逃げる必要もない。


「新品でも、全部一度には届きません」

「当商会なら優先できます」

「その分、優先契約料がかかります」

「安心料です」

「今、足りないのは安心ではありません」


 男の笑みが止まる。


 わたしは作業台を見た。


「足りないのは、職人さんの時間です」


 親方が少しだけ眉を上げた。

 クロードさんは何も言わない。


「なので、時間を買うのではなく、順番を分けます。今日ないと止まるものを先に。明日で回るものは明日へ。予備は予備として扱います」


「それで止まらないと?」

「止めません」


 言った。


 少し強かった。

 自分でも驚いた。


 男は親方を見た。


「本当に三つ、今日中にできますか」


 親方は鼻で笑った。


「三つならな。六つ押し込まれるより、よっぽどましだ」


 男の顔が硬くなる。


「修理品は不安定です」

「使えるように直すのが職人だ」


 親方が言った。


 低い声だった。


 店の空気が少し変わった。


 そこへ、西区施療院から返事が戻った。


「薬草用は今日必要。予備桶は明日で可。予備小樽も明日で可、だそうです」

「よし」


 わたしはすぐに書き直した。


「今日の修理は、南区の桶二つ、西区の薬草用一つ。西区予備と簡易宿分は明日。差し替え小樽は明日昼。これでお願いします」

「わかった」


 親方が作業台に向かった。

 槌の音が鳴った。

 仕事が動き始めた音だった。


 ガリオ商会の男は、しばらく黙っていた。


「……ずいぶん、細かく分けるのですね」

「細かくしないと止まります」

「小さな商会らしい」

「はい」


 わたしはうなずいた。


「小さいので、全部を一度には抱えません」


 男は何か言いかけた。


 でも、槌の音がそれを消した。


 親方はもう、こちらを見ていなかった。


 今日の三つを直す顔になっていた。


 男は軽く頭を下げて出ていった。


 勝ったわけではない。


 でも、押し込まれなかった。


「クロードさん」

「なんだ」

「今のは?」

「九割」

「維持!」

「言葉が早かった」

「本当ですか」

「ああ」

「全部ください」

「仕事が終わってからだ」


「厳しい!」


 昼前には、南区分の一つ目が仕上がった。

 昼過ぎに二つ目。

 夕方前に、西区の薬草用も仕上がった。

 全部ではない。

 でも、今日必要なものは止まらなかった。


 西区施療院へ薬草用の桶を届けると、管理人さんがほっとした顔をした。


「助かりました。今日の仕込みに間に合います」

「予備は明日になります」

「問題ありません。予備ですから」


 予備は予備。


 その言葉が、今日はとてもありがたかった。


「ただ、全部を今日にしていたら」

「止まっていました」


 わたしは言った。


「職人さんの時間が足りませんでした」


 管理人さんはうなずいた。


「なるほど。足りないのは物だけではないのですね」

「はい」


 わたしも、ようやくわかってきた。


 小樽が足りない。桶が足りない。輪金が足りない。そう見えていた。

 でも今日は違う。

 足りなかったのは、直す時間だった。


 ベルカ商会に戻ると、ロイが帳簿を待っていた。


「本日の結果は?」

「今日必要な三つは完了。西区予備と簡易宿分は明日。差し替え小樽も明日昼です」

「上限額への影響は?」

「手間賃は増えますが、新品追加はなしです」

「よい処理です」


 ロイが言った。

 よい処理。

 九割より嬉しいかもしれない。


「クロードさん、聞きました?」

「聞いた」

「ロイが褒めました」

「そうだな」

「今日は全部ください」

「九割半」

「刻んだ!」

「職人の時間を止めなかった」


 九割半。

 かなり高い。


 でも、ロイがすぐに紙を出した。


「では、明日の確認です」


「余韻!」


「西区予備、簡易宿分、差し替え小樽。あと、職人の作業枠を先に押さえる必要があります」

「作業枠?」

「はい。物だけでなく、時間も予約します」


 また項目が増えた。


 でも、これは必要だ。


 わたしはうなずいた。


「明日から、桶職人さんの時間も帳簿に入れます」


 足りないのは、小樽ではなかった。


 それを直す時間だった。


 ベルカ商会は、職人の時間を分けることで、西区試験運用の二日目も止めずに済ませた。


お読みいただきまことにありがとうございます!

面白かった!続きが読みたい!しょうがねーな!と思っていただけた方がおられましたら

ブックマーク・⭐️の評価など頂けるととても嬉しいです。

これは実は作者のモチベーションに直結しております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ