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貧乏商会が王国経済を握ります!ー相場が見える俺が、国の市場を支配するー  作者: 堀吉 蔵人
第四章 分けて考える

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第28話 その見積もりは高すぎます

いつもありがとうございます!

楽しんでいっていただけると幸いです。


 西区施療院は、朝から人が多かった。


 薬草の匂い、洗った布の湿った匂い、煮出した湯の匂い。

 南区より建物は大きい。

 その分、必要なものも多い。


「……ここ、本当に調査だけですよね?」

「今はな」

「その言い方、嫌です」

「正しい」


「もっと嫌です!」


 管理人さんは、わたしたちを奥の小部屋へ通した。


 机の上には、帳簿と見積書が置かれていた。


「ベルカ商会さんに相談したかったのは、これです」

「小樽と桶の数ですか?」

「それもあります。ただ、その前に別の商会から見積もりが来まして」


 管理人さんは、紙をこちらへ差し出した。


 わたしは受け取って、最初の行を見た。


 銀貨三十枚。


「……銀貨、三十枚?」


 声が少し裏返った。

 大きい。

 今までの銅貨何枚、銀貨数枚とは違う。


 クロードさんが横から見た。


「高い」

「ですよね」


「高い」

「二回言いましたね」


「高いからな」


 管理人さんの顔が曇った。


「やはり、高いですか」

「高いです」


 わたしも言った。


 でも、どこが高いのかは、まだわからない。


 クロードさんは、見積書を指で押さえた。


「小樽が多い。桶も多い。輪金の予備が多すぎる。保管料が別に乗っている。優先契約料はいらない」

「一目でそこまで見えます?」

「見える」


「久しぶりに出ましたね、それ!」


 見積書には、細かい項目が並んでいた。


 新品小樽二十、新品桶十五、輪金予備五十、緊急配送費、保管料、管理手数料、優先契約料。


 文字だけで重い。

 金額も重い。


「優先契約料って何ですか?」

「先に回す金だ」

「必要ですか?」

「今は不要だ」

「保管料は?」

「小樽をまとめて買わせるから発生する」

「つまり、買いすぎるから置き場代がかかる?」

「そうだ」


「ひどい!」


 クロードさんは短く言った。


「不安を買わせている」


 その言葉で、部屋が静かになった。

 わたしは見積書をもう一度見た。


 小樽が足りない。桶も足りない。輪金も遅れている。

 だから、多めに買う。

 今のうちに押さえる。

 優先してもらう。


 一つ一つは、もっともらしい。


 でも、全部重なると銀貨三十枚になる。


「これは、足りないものを買う見積もりではありません」


 わたしは言った。


「不安を買わせる見積もりです」


 管理人さんが息をのんだ。


 自分でも少し驚いた。


 でも、言えた。


「全部を新品でそろえる必要はありません。すぐ必要なもの、修理で足りるもの、予備でいいもの、今はいらないものに分けましょう」

「分ける?」

「はい」


 わたしは帳簿を開いた。


 ロイに何度も言われたことを思い出す。


 分ける。

 止めないために、分ける。


「まず、すぐ必要な数を教えてください」

「小樽は五つ。桶は三つです」

「来週までに?」

「同じくらい必要になります」

「では、今すぐ新品二十は多すぎます」


 管理人さんが見積書を見る。


「でも、先に押さえないと足りなくなると」

「足りなくなる前に押さえるのは大事です。でも、押さえすぎると金と置き場が止まります」


 クロードさんがうなずいた。


「悪くない」

「今は集中しています!」

「そうか」

「あとで何割か聞きます!」


 管理人さんが少し笑った。


 空気が少し緩む。


 わたしは書く。


 新品小樽、今は五。

 新品桶、今は三。

 修理確認、既存品から。

 輪金予備、十。

 保管料、不要。

 優先契約料、不要。


 書いていくと、見積書の重さが少しずつ減っていく気がした。


「ざっくりで、いくらくらいになりますか」


 管理人さんが聞いた。


 クロードさんは見積書を見る。


「銀貨十八から二十二」

「そんなに下がるんですか!?」


 わたしと管理人さんの声が重なった。


「幅がある。修理できる数で変わる」

「それでも、三十枚よりかなり低いです」


 管理人さんの顔が変わった。


 その時、部屋の外から声がした。


「お話中でしたか」


 入ってきたのは、ガリオ商会の男だった。


 ベルトンではない。

 でも、同じ匂いがした。

 丁寧で、嫌な感じのする笑顔。


「西区施療院様には、安定供給のご提案をさせていただいております」

「見積もりを拝見しています」


 わたしは言った。


「それはどうも。ただ、今契約いただかないと、次の輪金の入荷は保証できません」


 出た。

 今。

 保証。

 焦らせる言葉だ。


 クロードさんは黙っている。

 ここは、わたしが言うところだ。


「では、今は契約しません」


 男の笑みが止まった。


「……よろしいのですか?」

「はい。必要な数を確認してから、正式に見積もります」

「その間に品がなくなれば?」

「すぐ必要な分だけ押さえます。全部は押さえません」

「小さな商会が、保証できますか」

「保証できる分だけ受けます」


 言えた。


 前なら、たぶん飲まれていた。


 銀貨三十枚。

 大きな金額。

 大きな商会。

 保証という言葉。


 でも、今は分けられる。


「西区施療院さんが必要なのは、銀貨三十枚分の安心ではありません」


 わたしは見積書を机に置いた。


「止まらないための小樽と桶です」


 男は黙った。


 管理人さんも黙っている。

 クロードさんが、ぽつりと言った。


「八割」

「今ですか!?」

「今だ」

「あとでって言いました!」

「今のは悪くなかった」


 変なところで力が抜けた。


 管理人さんが、ゆっくりうなずいた。


「ベルカ商会さん。正式な再見積もりをお願いできますか」

「はい。ただし、今日出せるのは概算です。修理できる数を確認してから、正式に出します」

「それで構いません」


 ガリオ商会の男が口を開いた。


「当商会の見積もりを断る、ということで?」


 管理人さんは少し迷った。


 でも、はっきり言った。


「今は保留します」


 保留。

 断るではない。

 でも、契約もしない。


 それでいい。


 今は止まらなければいい。


「承知しました」


 男は笑みを戻した。


「では、後ほど改めて」


 そう言って出ていった。


 扉が閉まる。


 部屋の空気が、少しだけ軽くなった。


 わたしは見積書を見た。


 銀貨三十枚。

 まだ大きい。


 でも、ただ怖いだけの数字ではなくなっていた。


「クロードさん」

「なんだ」

「最初に見えていたのって、こういうことですか」

「そうだな」

「豆や塩だけじゃなくて」

「ああ」

「見積もりも、見える」

「見える」


 クロードさんは、見積書を指で叩いた。


「高いものは高い」

「単純ですね」

「だが、理由を見る」


 理由を見る。


 高いから駄目ではない。

 必要なら高くても買う。

 いらないなら安くても買わない。


 それを分ける。


「ベルカ商会さん」


 管理人さんが言った。


「正直、銀貨三十枚は払えないわけではありません。でも、払っていいのかわからなかった」

「わからない時ほど、大きく買わない方がいいです」


 自分で言って、また少し驚いた。


 前は、そんなことを言える側ではなかった。


「まず、今必要な分を止めません。その後、来週分を見ます。全部を一度には決めません」

「お願いします」


 決まった。


 ベルカ商会は、西区施療院の高額見積もりをいったん止めた。

 勝ったわけではない。

 でも、銀貨三十枚がそのまま出ていくのは止めた。


 帰り道。


 わたしは帳簿を抱えていた。


「クロードさん」

「なんだ」

「銀貨三十枚、怖かったです」

「怖いな」

「でも、少しだけ見えました」

「何が」

「高い、だけじゃなくて、どこが重いのか」


「悪くない」

「何割ですか」

「八割半」

「刻みましたね!」

「息は止めていなかった」


「見てたんですね!」


「見える」


「そこは見ないでください!」


 ベルカ商会に戻ったら、ロイに見積もりを分けてもらう。


 南区とは別に。

 西区とも別に。


 銀貨三十枚のうち、いくらが本当に必要な金なのか。


 ベルカ商会は、初めて大きな見積もりを切り分けることになった。


お読みいただきまことにありがとうございます!

面白かった!続きが読みたい!しょうがねーな!と思っていただけた方がおられましたら

ブックマーク・⭐️の評価など頂けるととても嬉しいです。

これは実は作者のモチベーションに直結しております。

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